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<東京怪談ノベル(シングル)>


玲奈号、フチュー旅行?


 様々な企業の研究所が並ぶ、府中市。その中の某所では、日本の有人火星探査機なつひぼしの乗員が、密室で長期間生活する訓練中だった。
 環境は宇宙船と同一、外界との通信も火星地球間と同様20分のタイムラグがある。
 乗員達は有能で、訓練は順調だった、のだが。
「乗員との連絡が取れません!」
 研究所は騒然としていた。突然、乗員との通信が途絶えたのだ。
「通信機や、機器の状態は!」
「機材はどれも正常に作動しています、どこにも異常はありません!」
「どうなっているんだ、一体何が?」


 一方でIO2エージェントの鬼鮫こと霧嶋徳治は、ある報告を受けていた。
「なにぃ? 多磨霊園で幽霊騒ぎだとぅ? ……そういう事か?!」
 ピンと思い当たる。
 先ほど、有人火星探査機なつひぼしの乗員が訓練中に連絡が取れなくなったという報告も受けた。機材には問題が見られないというので、霊的な原因が考えられるだろう。
 そこに、多磨霊園の幽霊騒ぎの報告だ。
 この2箇所は同じ府中市内にある。関係がないとは思えない。
「ふん、IO2エージェントをなめるなよ。こんな事もあろうかと! 調布飛行場に駐機中の玲奈を呼べ!」
「じゃーん! ふっふっふ、ナイスタイミングだったみたいね」
 鬼鮫が部下に命じたそのタイミングで、なんと玲奈本人がドアからぴょこっと顔を出した。
 鬼鮫の声が聞こえていたのだろう。にこりと笑顔を見せる。
「玲奈!」
「こんな事もあろうかと参上したわよ♪ わっ、美男揃いじゃん」
 鬼鮫の隣に立つと、事件の資料と夏日星の乗員名簿を見て玲奈はきゃっきゃと歓ぶ。
「解っているだろうが、恋愛は厳禁だぞ?」
「ぶー。あたしはなつひぼしちゃんにラブラブなの!」
 玲奈は鬼鮫を見て、ほっぺたを膨らませた。
 自らの細胞から培養された戦艦玲奈号を『本体』として操り、宇宙を飛び回る玲奈は星々や探査機などが大好きなのだ。
 戦艦として恋愛、結婚を禁止されている玲奈は、宇宙を巡る仕事を伴侶としている。
「家庭と子供を持つ事を諦めた女ほど怖い物はないわよ! 色んな無茶ができるんだから」
 そう言って玲奈は不敵に笑った。
「それなら良いがな。話は聞いていたな?」
「うん、まかせて!」
「よし、行け! 玲奈号二〇一〇年府中旅行だ」
 ビシ! と宙を指さした鬼鮫に、
「あいあいさー!」
 玲奈は敬礼し、宇宙、否、府中市に飛び出して行った。


「我々は宇宙人ダ!」
 得体の知れぬその声に、訓練中だった夏日星の乗員達は青ざめた。
 訓練用の船窓に取り付いている、ぬめりとした無毛蒼白の幼児の姿に、屈強な男達は恐怖する。
「な、何なんだ、こいつらは……!」
 外部からは見えていないのだろうか。扉も開かず、先ほどから外部とは連絡が取れない。
 船内に閉じ込められ、奇妙な霊に乗員達はおろおろとするばかり。
 外部は外部で乗員達と連絡を取ろうと、ばたばたと慌てる。そんな研究所の探査船脇に、玲奈号は着陸した。
「ふーむ、確かに何かが取り付いているみたいね」
 玲奈は腕組みをして探査船を調べ、扉が開かないことを確認すると、やむなく霊剣を手にした。
「扉を破壊するしかないわね。ごめんね、なつひぼしちゃん。後でちゃんと直すから」
 探査船に謝ると、玲奈はぎゅっと霊剣を握り、扉に向かって斬りかかった。
 が、しかし。
「なっ?!」
 ビィン! という耳に痛い音と共に霊剣が弾かれ、玲奈は目を見開く。
「弾かれ……えっ?」
 と、突如玲奈号と探査船が結界に包まれたのを玲奈は感じた。ふわりと飛ばされるような感覚。
 思わず玲奈は目を瞑り、次に目を開けたとき、漆黒の宇宙空間にいた。目前には火星。
 結界で、探査船と共に転移させられたのだ。
「く、やってくれるじゃないの」
 宇宙に飛ばされたからか、探査船に今は何も取り付いていないようだ。玲奈は玲奈号と探査船を連結し、探査船の中へ乗り込む。
 乗員達はパニックになっていた。
「そりゃそうよね。でも、まあ落ち着いて」
「落ち着けるわけがないだろう?! う、宇宙にいるのに!!」
「お兄さん達は、宇宙を飛ぶ探査船の乗員でしょ?」
「それはそうだけど! そもそも、どうやって帰るっていうんだ?! この夏日星は訓練用で、帰りの燃料を積んでないんだぞ?!」
 言いかけて、乗員ははっと顔を上げた。
「いや、でもあんたの船があるんだったな!」
「そうよ! と言いたいところだけど、ごめんなさいっ。実は整備中で飛行用霊力が乏しいの」
「な……」
 乗員達は愕然し、項垂れた。
 しかし、玲奈は動じない。探査船内の飲料水空缶の山に気づき、にこっと笑った。
「大丈夫! アルミと水を反応させればメタンが得られるわ、サバティエ効果よ」
 サバティエ反応は、ロケット燃料として利用することが考えられている技術の1つだ。
 玲奈は早速玲奈号で燃料を作り、探査船に積んだ。
「噴射!」
 探査船は上手くその燃料を噴射し、動き出した。
「おおっ!!」
 乗員達が喜び、拍手する。
「良かった、あの気味の悪い宇宙人に閉じ込められたときはどうしようかと」
「宇宙人? 違うわ。偽物のフチュー人よ!」
 玲奈はお茶目に言う。
 そのまま順調に飛行し、やっと地球に接近した頃、乗員達は再び難題があることに気付き騒ぎ出した。
「大気圏突入は……!」
 青くなる乗員達に、玲奈はウインクして見せた。
「慌てない♪ 霊刀天狼のビーム砲を撃って逆噴射するわ。こんな事もあろうかと!」
 万能型武器、烈光の天狼を取り出す。
 暗い宇宙の中、天狼のビーム砲が流れ星のように眩く輝いて、夏日星の帰路を切り開く。
 かくして、玲奈号と夏日星クルーは無事に地球に帰還したのだった。
「さーて、それじゃ犯人さんに、おしおきをしなくちゃね」
 腕まくりをすると、玲奈は再び玲奈号と共に飛んだ。目指すは今回の事件の犯人であるフチュー人達がいる、多磨霊園だ。
 多磨霊園に着くと、そこには先ほど探査船に取り付いていた霊達がうようよと集まって、黒い影のようになっていた。
「さっきはやってくれたわね。仕返しさせてもらうわよ!」
 玲奈の登場に、霊達は慌てふためいた。
「お、お前、結界デ……」
「おあいにく様、ちゃーんと帰還したわよ! さあ、覚悟しなさい!」
 霊達に、玲奈の超精密攻撃レーザーが放たれる。
「オノレ!」
 飛び掛ってきた霊の攻撃を対霊障フィールドで防御し、玲奈は霊剣とレーザーで霊を斬り払った。
「たあっ!」
 怨霊を浄化する、レーザーの光。霊達は次々と天狼によって斬られ、還っていく。
 やがて霊達は消え、玲奈はさらりと髪をはらうとぴしっとポーズをとった。
「成敗っ! なんてね」
 丁度そのとき、玲奈号に霊について調べていた鬼鮫から連絡が入った。
「なになに……」
 報告を読み、玲奈は腰に手を当てて息をつく。
「なるほど、研究に挫折して死んだ浮遊霊達の逆恨みだった、ってわけね」
 挫折し死んだ浮遊霊達のその恨みは、研究の成果である夏日星や乗員達に向けられ、今回の騒ぎとなったらしい。
 しかし玲奈の手で、霊達は退治された。これで探査船の研究や、乗員達の訓練も上手くいくだろう。
「一件落着! よし、じゃああたしはなつひぼしちゃんや乗員さん達のところへ行って、一緒にお茶でもしようかな。こんな事もあろうかと、美味しいお菓子、買ってあるのよね」
 玲奈はにっこり笑うと、玲奈号と共に飛び立った。