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<東京怪談・PCゲームノベル>


 クロノラビッツ - 拒絶 -

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「あなたと一緒に行きたいところがあるの」
 妖艶な笑みを浮かべ、チェルシーは、そう言った。
 わかった、いいよ。だなんて、そんな返答できるはずもない。
 クロノハッカーの誘いにホイホイ乗るだなんて、そんなマヌケな真似できるはずがない。
 当然のごとく、断った。嫌だ、行かないって、はっきりと、バッサリと拒絶してやった。
 で、今に至る。
「ついてきてくれるだけで良いのよ。危害は加えないから」
 さっきから、同じ台詞の繰り返し。何もしないから、大丈夫だからって、そればっかり。
 信じろっていうのか。その台詞を、その言葉を鵜呑みにして、まんまと罠にかかれって言うのか。
 冗談じゃない。絶対に嫌だ。信じるもんか。ついて行くもんか。応じるもんか。
 って、何度も断り続けているのに、チェルシーは退かない。
 性格面だけを取り上げて言えば、チェルシーも千華と一緒でサバサバしてる。
 しつこく言い寄ったり、何かに固執・執着したりするだなんてことは、ないはずだ。
 だから、妙だと思った。いつもと雰囲気が違うような。随分と躍起になっているような、そんな気がした。
「ねぇ、お願いよ。今日だけ、我儘をきいて」
 下手に出てるつもりなんだろうけど、その言い草は傲慢そのもの。
 今日だけ、だなんて、よくもまぁ、そんなこと言えるもんだ。今日に限らず、いつも我儘ばかりじゃないか。
 クロノハッカー連中は、いつだって自己中心的。自分勝手な人ばかりじゃないか。
「ねぇ、お願い。こんなことしてまで、あなたを追いつめたくないの」
 演技だろうけど、申し訳なさそうな表情を浮かべて言うチェルシー。
 でも、言ってることと、やってることが真逆。あのね、そういうの、矛盾って言うんだよ?
「ねぇ、聞いてる?」
 確認しながらも、光の魔法で、こちらの視力を奪ってくるチェルシー。
 確かに、攻撃の意思は感じない。目くらましの意図で光の魔法を放つばかりだから。
 危害を加えないっていうのも、あながち嘘じゃないのかもしれない。
 でも、やっぱり …… 信じるわけにはいかないんだよ。

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 憂いに満ちた大人っぽい表情を浮かべているナナ。
 ナナは今、今にも壊れてしまいそうな古びたブランコに腰かけている。
 ナナの横顔、その伏せ目から零れ溢る "焦燥"
(わざわざここまで来るなんて …… 怒りを通り越して呆れちゃうよ)
 ナナが今現在いるのは、ナナ自身が作り上げた特殊空間。
 廃れた公園と遊園地が融合されたかのような広いその空間は、ナナのお気に入りの場所でもある。
 何か、悲しいことを思い出してしまったとき、一人で物思いに耽りたくなったとき、ナナは、決まってこの場所に足を運ぶ。
 今日も、そんな理由から足を運んだ。一人でゆっくり、悲壮感に酔いしれたいと、そう思ったから。
 それなのに、チェルシーが邪魔をする。
 そもそも、この空間には、ナナ以外出入りできないはずなのに。
 どうやって入ってきたのか、どこから入ってきたのか、どうしてここを知っているのか。
 不可解な点は多くあるが、ナナはそれを尋ねることはしなかった。
 その代わり、大きな溜息を吐き落として、ゆっくりと立ち上がる。
 どこに連れていくつもりなのかはわからないが、チェルシーが本気なのは確かだ。
 嫌だと突っぱねたところで、聞きやしない。わかったと頷くまで、チェルシーは目くらましを続けるだろう。
 ならば、追い返すまで。
 少し手荒になってしまうかもしれないけれど、やむなきこと。
 だって、ここは、ナナのお気に入りの場所だから。たくさんの思い出が詰まっている大事な場所だから。
「 …… ちょっと、待って、ナナ! 私、あなたと戦り合う気はないのよ!」
「 ………… 」
 戦闘の意思がないことを必死に説明するものの、ナナは聞く耳持たず。
 一刻も早く、チェルシーをこの場から追い出したいという気持ちが先行し、それが攻撃になる。
 どうやら、チェルシーの "戦闘意思がない" というのは本当のようで、
 ナナがどんなに攻撃を繰り返そうとも、チェルシーは、それを跳ね返すばかりで反撃してこない。
 先程から目くらましの光魔法ばかりを連発しているだけだ。
 そして、その目くらましは、最初からナナに効いていない。
 要するに、チェルシーは無駄なことばかりを繰り返しているということ。
 ここは、大切な場所だから。めちゃくちゃにするわけにはいかない。
 けれど、このまま適当な攻撃を続けたところで、チェルシーを撤退させることはできない。
 ならば、仕方ない。
 自分自身の手で大切な場所を壊してしまうほど心苦しいものはないけれど、全力でぶつかるしかない。
( …… なるべく、抑えるつもりだけど)
 立ち止まり、スゥと静かに息を吸い込んで目を閉じたナナ。
 ナナの頬に刻まれた印が 【Z】 から 【Y】 に変化したのは、その直後のことだった。

 何なの、さっきから。
 黙って聞いてれば、勝手なことばっか言って。
 傷つける気はない? 戦う意思もない? 一緒に来て欲しいだけ?
 あんた達は、あのときもそう言ったじゃないか。大丈夫だからって、そう言ったじゃないか。
 昔とは違う? 今は違う? そんなの知ったことか。ボク達の中では、あんた達は今も最低最悪な外道。
 あんた達が放つ "信じて" って言葉は、裏切りの常套句でしかないんだよ!
「今さら何なの!? 裏切り者っ!」

 バチィッ ――

「っ …… !」
 弾き飛ばされ、地面に身体を強打したチェルシー。
 恨み・怒り・葛藤。それらの想いが凝縮された一撃は、重い。
 痛みに顔を歪めつつ、ゆっくりと身体を起こすチェルシー。
 そんなチェルシーに音もなく歩み寄り、ナナは、悪魔のように冷たく恐ろしい目で彼女を見下ろした。
 六番目の姉。今、ナナの身体を借りて表に出ているのは "リウ" という人格・存在だ。
 我慢できなくって、強引に表に出てしまった。
 けれど、湧き上がるこの怒りを鎮めることなんて出来ない。
「 …… もう限界。姐姐たちがやらないなら、ボクがやる」
 だいたい、姐姐たちは甘すぎるんだ。
 あの頃とは環境も違うし、ナナちゃんだって無事に成長したんだからって言うけど。
 こいつらは、何も変わってないじゃないか。あの頃から、何ひとつ変わってないじゃないか。
 こうやって、ナナちゃんを苦しめて、困らせて、愉しんでる。
 ごめんねなんて、謝ったところで遅いんだよ。
 こいつらは、罪を犯したんだから。
 絶対に許されない罪を犯したんだから。
 だから、裁かれるべきなんだ。こいつらは、裁かれて当然の害悪なんだ。
 ナナちゃんを苦しめる奴なんて、生きてる価値も意味もない。クズ以下だ。
 こいつらさえいなければ、いなくなれば、ナナちゃんは苦しまずに済む。可愛い笑顔がまた見れる。
 だから、ここでやってやる。ボクが、この手で裁いてやるんだ。
 在るべきところすらない、不憫で憐れなこいつらを。
「ナナちゃんのために」
 ブツブツと呟くナナの手には、巨大な注射器が握られている。
 注射器の中には、黒い液体。僅かにでも体内に入ろうものなら、瞬時に絶命してしまう猛毒。
 毒使いであるリウは、ナナの身体、ナナの手を借りて、自らが持ち合わせる最凶の能力でチェルシーの始末を試みる。
 ザクリと、この針を腹に突き刺せば、チェルシーの身体はすぐに溶けてドロドロになる。
 原型なんて留めない。醜く憐れで無様なナリとなって、朽ちてしまえ。
 針の先端をチェルシーの腹へ向けるナナの口元には、笑みが浮かんでいた。
 終わりにしてやる。過去は消せないものだけれど、忘れることは叶う。
 こいつらさえいなくなれば、この世から消え失せれば。
 全ては、ナナを想うがゆえ。ナナのために、という純粋な愛情だった。

 カラン ――

「 …… や〜めた」
 確かな憎しみと、天敵を討てる喜びを抱いていたにもかかわらず、
 ナナが注射器を手放した行為。これもまた、その愛情が成したもの。
 と、言いたいところだが …… どうやら今回は、愛情と同じくらい憎悪も強いようで。
 現在、表に出ている人格 "リウ" は、足元に転がってきた注射器を踏みつけ、こんな予告を吐き捨てた。
「どうせならボクじゃなく、ナナちゃん本人にやられるほうが良いよね」
 ここでボクが、あっさりとやっちゃうのもどうだろう。
 それはそれで面白いし、ボクの欲求は張らされるけれど。
 本当に、それで良いのかなって思っちゃった。あっさり片付けちゃっていいのかなって。
 だって、ボクらに始末されるのは、ある意味、当然のことでしょ?
 だから、抵抗しなかったんでしょ?
 やられるならやられるで、それでも構わないって思ってたんでしょ?
 つまんないんだよ、そういうの。
 何なの? ほんと。そんなんじゃなかったよね? 昔はさ。
 確かに、あんた達は変わったのかもしれない。でも、つまんないよ。
 そんな風に変わるくらいなら、昔のままでいてくれたほうが楽しかったのに。
 何だろうね、この気持ち。それまで夢中だった玩具から、急に興味が失せたみたいな。
 もういいよ。つまんないから。だから、ナナちゃんに任せることにする。
 ボクらに始末されることは素直に受け入れるだろうけれど、ナナちゃんに始末されるとなれば、話は別でしょ?
 だから、そのときがくるのを心待ちにしておくよ。あぁ、愉しみだなぁ。
 あんた達が絶望に苛まれて、ブサイク極まりない面で心からゴメンネって謝罪する瞬間。
 ボクらは、そうやって命を乞うあんたらを指さして、腹の底から笑ってやろうと思う。
 バッカじゃねーの、って。ざまぁみろ、って。ね?
「 …… っふふ。じゃあね」
 その場を立ち去るナナの口元に浮かんでいた奇妙な笑み。
 本当に、ナナ自身がクロノハッカーを手にかける時がくるのだろうか。
 そこらに転がる注射器の中、不気味に揺れる黒い液体を見つめるチェルシーの強張った表情を見る限り、
 それはない、と言い切れることでもなさそうだ。

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 The cast of this story
 8381 / ナナ・アンノウン / 15歳 / 黒猫学生・看板娘
 NPC / チェルシー / ??歳 / クロノハッカー
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 Thank you for playing.
 オーダー、ありがとうございました。