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クロノラビッツ - 六人目の契約者 -
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あぁ、何だかなぁ …… 。
こんなことになるなら、家で大人しくしていれば良かった。
何かダルいな〜とか、頭がボーッとするな〜とは、今朝からずっと思ってた。
でも、大したことないって、大丈夫だろうって、甘くみてた。たかが、風邪。されど、風邪。
結果的に、こうして、みんなに迷惑をかけることになってしまって …… ほんと、申し訳なく思う。
「大丈夫? 何かして欲しいことはない? 食べたいものとか、食欲ないかもしれないけれど、あれば言ってね」
ニコリと優しく微笑み、そう言いながら、額のタオルを替えてやる千華。
千華だけでなく、海斗や梨乃、藤二、浩太もその場に居合わせ、甲斐甲斐しく看病を続けている。
時兎の討伐。契約者が担う、その使命。 千華ら、正規の契約者に看病されている人物もまた、その使命を担う者。
仮とはいえ、マスターとの契約を締結した以上、その使命を担う責任と義務が生じる。
使命・仕事に関しては、難なく、滞りなく済み、その仕事っぷりは、称賛に値するものだった。
だが、仮契約を締結した六人目の契約者は、時兎の討伐が終わると同時に、その場にバタリと倒れてしまう。
本人も深く反省しているようだが、たかが、風邪。されど、風邪。
大したことない、大丈夫、過信にも似た自己判断が、更に病状を悪化させてしまうこともある。
「 ………… 」
付きっきりで看病してくれる千華たちに対し、申し訳なさそうな表情を浮かべる六人目の契約者。
迷惑かけてゴメンだとか、そんな謝罪は、もう聞き飽きた。その度に、気にするなって返すのも、もう飽きた。
申し訳なさそうな表情を浮かべる六人目の契約者の頬をペシペシ触りながら、海斗は苦笑して言った。
「その顔も、もー飽きたし。 なぁ、何か頼みたいこととか、ねーか? つか、お前さ、大事な用があるとか何とか言ってただろ?」
海斗の言葉に、淡い苦笑を浮かべる六人目の契約者。
ヒトの話なんて、まるっきり聞かない自分勝手な性格 …… かと思いきや、そういうのは、ちゃんと聞いてるんだよね、海斗は。
確かに、海斗の言うとおり、今日は、どうしても外せない大切な用があるよ。
だから、時兎の処理が終わったら、すぐさま向かおうって、そう思いながら仕事してた。
まさか、倒れてしまうだなんて思いもしなかったから、正直、どうしようって、今、実はすごく焦ってる。
無理して向かおうにも、困ったことに、身体が重くて、言うこときかなくて、移動どころじゃないし。
頼みたいこと …… 海斗たちに、この用事を任せても良いのかな。でも、ちょっと面倒な内容だし …… 。
「さすがに、これ以上、迷惑かけるわけにはいかないよ …… ゴホ、ゴホ」
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「どうかな …… 美味しい?」
「 ………… 」
「ナナちゃん?」
「 …… あっ、ごめんなさいです。 …… うん、美味しいのですよ」
ハッと我に返り、ニコリと微笑んだものの、ナナの心と頭は、申し訳ない気持ちと不安でいっぱいだった。
手には、梨乃が作ってくれた林檎のシャーベット。
難なくスルリと落ち、火照る喉tと身体を宥めてくれるシャーベットは、美味しい。
うん、美味しい …… けれど、申し訳ない気持ちと不安は、やっぱり消えない。
「 ………… 」
サクサクと、スプーンでシャーベットを崩しながら、藤二が確認用にと用意してくれたモニターに目をやるナナ。
モニターには、薄暗い森の中、真っ白なトランクを片手に歩く海斗の姿が映し出されている。
今でも十分迷惑をかけている。さすがにこれ以上、みんなに迷惑をかけるわけにはいかない。
そう言って遠慮し続けたナナだったが、それに対して海斗は、何度も 『遠慮すんな』 と繰り返した。
そうやって、笑顔で諭されると、さすがに気も緩む。甘えてもいいのかなって気持ちになってしまう。
それまで遠慮し続けたナナが、ようやく、海斗たちに 『大事な用事』 の内容を明かしたのは、一時間ほど前のこと。
とはいえ、ナナは、白いトランク・手紙・地図の三点を海斗に渡し、
地図に記されているところへ行き、そこで待っている女性にこのトランクを渡してきてください、としか言わなかった。
トランクの中に何が入っているのか、手紙にはどのようなことが書き記されているのか、
最も重要であろう部分については、うまくはぐらかすだけだったのだ。
だがまぁ、お願いしますと頼まれたからには、任せろ! と引き受けざるを得ない。
あれだけ、何度も遠慮すんなよっ! とか言っておいて、やっぱりヤダとか面倒だとか、そんなこと言えるはずもない。
まぁ、事の真相・詳細が明らかにならずとも、海斗は、頼まれた用件をきっちりこなす気構えではあったようだが。
『 ………… 』
モニターの中、映る海斗の足がピタリと止まる。
実は、こうして海斗の足が止まるのは、これが初回ではない。
先ほどから何度も、海斗はこうして足を止めては、目線を白いトランクに向けている。
やはり、中身が気になるとか、そういう心境なのだろう。気持ちはわかる。
絶対に開けないでください、とナナに何度も釘をさされているからこそ、余計に興味が湧いてしまう。
海斗が足を止めるたび、時狭間からモニターを介して様子を窺っているナナたちは、息を飲んだ。
モニターに映し出されていること、監視されていることを海斗は知らない。
だからこそ、海斗の素の部分が浮き彫りになる。
別に、試してやろうだとか、そんな意地の悪い考えで監視しているわけではないのだが、
やはり、海斗という人物に搬送を任せた以上、もしもの場合を考慮せねばならない。何だか情けない扱いだが。
最初から、梨乃とか浩太あたりに頼めば良かったのかもしれないが、オレが行く! と言って海斗が聞かなかったのだ。
足を止めて約一分。しばしの葛藤を続けた後、海斗は、再び歩き出した。
開けるな・見るなと言われて余計に反発したくなってしまう本能を必死に堪えた。
何だかんだで、こういうときは、ちゃんと良心が勝る男のようだ。
トランクを開けることなく歩き出した海斗に、ナナたちもホッと安堵の息を漏らす。
数分歩いては足を止め、一分程度葛藤し、必死に堪えてまた歩き出す。
そんな忙しなく、落ち着かない時間が三十分ほど経過したとき。
ようやく、海斗は、地図に記された場所へとたどり着く。
そこには、ナナに聞かされていたとおり、黒髪で和装の綺麗な女性がいた。
女性は、海斗に気付くとすぐ歩み寄ってきて、海斗が持つ白いトランクに目をやると、
ニコリと淡く微笑み、海斗に、スッと白い毛糸のようなものを差し出した。
何も聞かされていなければ、はい? と首を傾げてしまう行為だが、海斗は事前に聞かされている。
女性は、必ず白い糸を差し出してくる。そうしたら、その糸と交換で白いトランクと手紙を渡してください、と、そう聞かされている。
ナナに聞かされたとおり、指示されたとおり、女性から白い糸を受け取ってから、白いトランクと手紙を手渡す海斗。
トランクと手紙を受け取った女性は、真っ白なトランクの隅に 『青い小鳥』 のシンボルが刻まれていることを確認すると、
ペコリと頭を下げ、逃げるようにその場を立ち去ってしまう。
何ともあっけない交換。えっ? これで終わり?
物足りなさを覚えた海斗は、咄嗟に女性を呼び止めてしまう。
そして、女性が振り返りきるより先に、詮索すべきではない事柄を疑問符と共に発してしまった。
「なぁ、そン中。何入ってんの?」
散々耐えてきたのに、こうもストレートに質問してしまうとは。
モニターで監視していたナナ達は、やっぱり、海斗は海斗だなぁ、と落胆の苦笑を浮かべる。
だが何も案ずる必要はない。
海斗のストレートな質問に、女性は笑みを返すだけで、明確な返答はしなかったのだ。
ただ、ポツリと、ものすごく小さな声で、
「蒼鳥の名誉を、わたくしが傷付けるわけにはいきませんわ」
そんな意味深な言葉も残していった。
結局、わからないまま。知りたいことが何ひとつ明らかにならないまま、海斗の役目は終了してしまった。
「徹底してんのなー …… 」
残念そうに、かつ、悔しそうに苦笑しながら呟く海斗。
と、そこへ、どこからか藤二の声が。
『はい、お疲れ』
「!? 藤二? 何だっ、どこだっ?」
『企業秘密だ。いいから、お前、とっとと戻ってこい』
「お前ら、監視してたのかよ! うっわー! どんだけ信用ねーの、オレ!」
『はははは。信用がない自覚はあるんだな』
藤二の声で、ようやく監視されていた事実に気付いた海斗。
言われたとおり、海斗はすぐさま時狭間へと戻って行くのだが、
やはり、知らぬ間に監視されていたことが面白くないというか、屈辱的だったのだろう。
時狭間へと戻る最中、海斗は苦笑を浮かべながら、ずっとブツブツ文句を言っていた。
*
「ただいまー!」
元気な声と弾けんばかりの笑顔で、海斗が帰還。
どうやら、戻ってくるまでの間に、機嫌は直ったようだ。まったくもって、単純で扱いやすい奴である。
両手をブンブン振りながら、ナナに歩み寄る海斗。その姿は、どこか誇らしげに思えた。
何というか、こう …… はじめておつかいを頼まれて、それを見事に完遂して戻ってきた子供のような感じ。
「おかえり」
「ごくろうさん」
所々危うくはあったものの、無事に役目を果たして戻ってきた海斗を、笑顔で迎える仲間たち。
まぁ、実際大したことはしていないのだが。これしきのことで温かく迎えられるだなんて、
普段、いかに海斗が問題を起こしてばかりの厄介者であるかが窺える光景である。
とはいえ、ナナも、そうやって温かく迎えてしまう仲間の一人。
「ありがとうなのです。海斗」
ニコリと微笑み、感謝を述べるナナ。
まだ熱が引かないせいもあってか、林檎のように赤く火照るナナの頬は、可愛らしさの中に、どこか儚さを感じさせる。
海斗は、感謝を述べるナナにいつもの笑みを返しつつ、火照るナナの頬に両手をあてがい、
少し大袈裟に熱がる素振りなんかも見せながら、依頼人から受け取ってきた白い糸をナナに手渡す。
もう、深く詮索するのはやめよう、と心に決めていた海斗だが、
やはり、実際、ナナという本人を目の前にしてしまうと、興味がわいてしまったのだろう。
「お前さぁ、普段っつーか、こっちに来てない時って、どんな生活してんの?」
ナナの頼みこそ請け、その役目は果たして戻ってきたものの、結局、あのトランクの中に何が入っていたのかは最後までわからずじまい。
結構な距離を持ち運び歩いたが、重いとは一度も微塵も感じなかったので、おそらく極端に軽いものであろうとは思うのだが。
ジーッとナナの顔を見つめ、返答を待つ海斗。
どんな生活してんの? という質問の中に、あらゆる疑問が詰まっているのは明白だ。
だが、ナナは、クスクス笑ってフイッと顔を背け、曖昧な言葉を返すだけに留まる。
「人を幸せにするお仕事をしているのです」
「へ? 何だそれ。意味わかんねーよ。もっと詳しく、具体的に説明ぷりーず?」
当然、ナナの曖昧な返答に、海斗は食い下がり更に追求するのだが、
「はいはい、そこまで。病人なんだから、あまり無茶させちゃ駄目よ」
「ナナちゃん、シャーベット、まだあるけど、食べる?」
千華と梨乃が、間に入るような形でその追求を阻止。
まぁ、千華も梨乃も、ただ単にナナの身体を気遣っただけなのだとは思うが、
追求を阻害された海斗からしてみれば、みんなが何かを隠してる! だとか、
何かオレだけハブられてる気がする! とか、そういう不満を抱いてしまうのも無理はない。
「何だよ! お前ら、何か知ってるだろ、さては! なぁ、オレだけハブってどゆこと!? 一番の功労者はオレだよなっ?」
「あぁ、もう、静かにしなさい。梨乃、海斗にもシャーベット与えてあげてくれる?」
「はい、了解です」
「バカ! お前ら、バカっ! オレは、そんな餌に釣られるほど馬鹿じゃねーぞ!」
「はいはい」
いつもの調子で騒ぐ海斗。
そんな海斗を適当にあしらう梨乃と千華、不憫そうな目で見やる浩太と藤二。
海斗がこうして戻ってくるだけで、その場の雰囲気が、こうも賑やかに明るくなる。
この賑やかな雰囲気こそ、時狭間って感じ。何だか、すごくホッとする。
本人にその自覚があるのか否かは定かではないが、やっぱり、海斗はムードメイカー的な存在なんだなぁ、と。
ベットに横たわり、賑やかな雰囲気に微笑むナナは、そんなことを考えていた。
「ふふ」
トランクの中に入っていたもの。海斗に運ばせたもの。
それが、等身大の人形であり、なおかつそれが、錠を解いて開け、
名前をつけると魂が宿る 『ソウルドール』 という特別な 『商品』 であること、
そして、それを商品として売るナナが 『人形師』 として生計を立てている事実が、
ナナの口から、直接、海斗たちに公表されるのは、もう少しばかり先の話。
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The cast of this story
8381 / ナナ・アンノウン / 15歳 / 黒猫学生・看板娘
NPC / 海斗 / 17歳 / クロノラビッツ(時の契約者)
NPC / 梨乃 / 17歳 / クロノラビッツ(時の契約者)
NPC / 浩太 / 17歳 / クロノラビッツ(時の契約者)
NPC / 藤二 / 24歳 / クロノラビッツ(時の契約者)
NPC / 千華 / 24歳 / クロノラビッツ(時の契約者)
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Thank you for playing.
オーダー、ありがとうございました。
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