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<東京怪談ノベル(シングル)>


暗殺指令 ミッション02
 自衛隊、《特務統合機動課》
 自衛隊の中に非公式に設立された暗殺、情報収集等の特別任務を目的にした特殊部隊である。魑魅魍魎の類のせん滅も重要な任務としている。
 その特務統合機動課に所属する戦士が一人水嶋・琴美(みずしま・ことみ)19歳。
 代々忍者の血を引き継いだ家系の生まれで、現代の世でもくの一としてのクナイを主要武器として扱うプロフェッショナルである。
 はちきれんばかりのバストとくびれたウェスト、形の良いヒップ。その豊満な肉体から発する隠しきれない艶やかさは数多くの男を魅了する。
 危険な任務に従事しながらもこれまで数々の任務を完璧にこなしておりその体には傷が一切ない。
 その琴美は今指令を受けIO2の施設に潜入していた。
 鬼鮫(おにざめ)と呼ばれる危険人物の暗殺指令である。
 施設に無事潜入した琴美は鬼鮫の姿を求めて施設内をさまよっていた。
 大規模な作戦でも発令されているのか施設内に人影はほとんど無く、琴美は順調に施設内を移動していた。
 扉を開ける前には聞き耳を立て、中に人がいるかどうかを判断することも忘れない。
 そうして施設内を次々と移動して言った琴美は、とある部屋の前で大いびきを聞いた。部屋の外まで漏れてくるほどの大きないびきだ。
 琴美は中にいる人物を起こさないように慎重に扉を開くと、するりと滑り込んだ。
 そこは応接室のようなところで、絵画、ソファー、テーブルなどと豪華な調度品が置かれている。
 その人物はソファーで眠っていた。それが誰にしろ仕事の邪魔になるだろうから起きる前に殺さねばいけない。そう考えて琴美はソファーに音もなく移動した。
(これは……)
 琴美の目の前には司令部で手渡されたファイルと同じ顔があった。まちがいない。こいつが鬼鮫だ。
 傍らには日本刀がある。
 ターゲットが寝入っているとは都合がいい。琴美は太ももに括りつけてあるクナイを一本とると殺気をたてずに鬼鮫の喉元へと振り下ろす。が――
 ガキィン!
 日本刀がクナイを阻んでいた。
「そんな、殺気なんて立てていないですのに!」
「殺気をたてずに人を殺すなんて無理だな!」
 琴美の驚愕に、鬼鮫が機嫌が悪そうに応える。
「せっかく気持ちよく寝ていたのに邪魔してくれやがって、おまえ、なにもんだ?」
「……あなたの命を頂きに来たものですわ」
「どこの回しもんだ?」
 鬼鮫が起き上がりながら尋ねる。
「答える義理はありませんわ。超常能力者常習殺人犯、鬼鮫、覚悟!」
 今度は殺気をたっぷりとだしながら、琴美のクナイが空を薙ぐ。
「ぐっ!」
 鬼鮫の肩に琴美のクナイが命中する。肉を裂く感触が琴美の手に伝わる。
「っち……」
 鬼鮫が日本刀で攻撃をしてくる。その速度、神速。その技量、神業。
 されど琴美はそれを読みきってバク転して回避すると、太ももからクナイを取り出して投げた。
 宙を裂いて飛来したクナイは鬼鮫が回避するよりも早く彼の太ももに突き刺さる。
「ってえなぁ…‥」
 鬼鮫がドスの利いた声で呟く。
「まあ、おまえが何もんだろうと関係がねえ。殺すって言われてはいそうですかとおとなしく殺されるわけにもいかねえ。返り討ちにさせてもらうぜ」
「ふふ、出来るかしらね」
 琴美は自信たっぷりに笑う。
 鬼鮫は一瞬にして三閃の剣戟を繰り出すが、琴美はそれをかわし、あるいはクナイで受け止める。
「くっ……重い剣ですわね」
 鬼鮫の剣戟を受け止めジリジリと鍔迫り合いを行う。
「受けきれるかな?」
 鬼鮫は残虐的な笑みを浮かべると刀に力を入れる。
「っ……くう!」
 琴美はこらえきれずクナイを手放す。そこに上段からの切りが襲ってきて琴美はそれをしゃがんでかわす。
 太ももからクナイをとると逆手に持って鬼鮫に斬りかかる。
 鬼鮫の刀をかわし懐に潜り込むと胸に向かってクナイを振るう。
 鬼鮫は背を反らしてそれをかわそうとするが、琴美の踏み込みが一歩優った。
 鬼鮫の胸が薄皮一枚で切られ血しぶきが上がる。
「やるな……」
 だが、鬼鮫は余裕の表情で笑い返す。
「小癪ですわね!」
 琴美は全身の筋肉をフル活用して鬼鮫に迫る。胸を、腕を、腹を、脚を、切り刻んで追い詰めていった。
「ふふ……とどめですわ!」
 そう言って琴美が大きなモーションに出た時だった。
 鬼鮫はトロールのジーンキャリアとしての能力を発揮しすべての傷を一瞬で回復させると、琴美の胸に峰打ちで日本刀を叩き込む。
「ぐがっ……ゲホッ、ゲホッ……」
 肋骨が数本持って行かれた。
「……なん……ですの……いまの……は?」
 切れ切れに琴美がしゃべると、鬼鮫はニヤリと笑った。
「俺はトロールの遺伝子を組み込んでるんだよ。どんな傷だって一瞬で治る」
「……そん……な……聞いて……いませんわ……」
 悔しそうに琴美が言う。
「おまえの組織の調査不足だな……哀れなこった。俺の暗殺なんてどだい無理なんだよ」
 そう言うと鬼鮫はハハハハと笑った。
「おまえには色々と聞きたいことがあるからな、殺しはしない。さて、まず聞こうか。おまえはどこの組織のもんだ?」
「そんな事……言うもの……ですか」
 鬼鮫の蹴りが琴美の脇腹に入る。
「殺しはしないが、言うことを聞かないなら痛い目をみてもらうぜ……」
 残虐そうな笑みを見せる。
 刹那琴美は太ももからクナイを抜いて鬼鮫の目に命中させる。
 だが――
 鬼鮫はクナイを抜くと潰れた目を一瞬にして再生させる。
「そんな……」
「オイタはいけないなぁ……」
 鬼鮫は琴美の脚を踏み潰そうとする。が、琴美は痛みを我慢して飛び退るとクナイを構えた。
「やられるわけには……まいりません……」
「しぶといな。だが、そのダメージでかわしきれるかな!?」
 鬼鮫の神速の一撃が琴美を襲う。
 間一髪で刀を回避するが、最先端の素材で作られた戦闘用の着物が切り取られた。琴美の肌があらわになる。
「くっ……」
「クックック……なかなか色っぽいじゃないか、お嬢ちゃん」
 琴美は踏み込みクナイで鬼鮫の腕の腱を切る。
「ぐああああああっ!」
 鬼鮫の悲鳴。
 だがその傷も一瞬にして再生。
 素早さでは琴美が勝り手数で鬼鮫を翻弄するが、鬼鮫の回復能力の前に苦戦を強いられる。
 そして、やがて琴美の体力が失われてきた……

 続く