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<東京怪談ノベル(シングル)>


暗殺指令 ミッション04
自衛隊、《特務統合機動課》
 自衛隊の中に非公式に設立された暗殺、情報収集等の特別任務を目的にした特殊部隊である。魑魅魍魎の類のせん滅も重要な任務としている。
 その特務統合機動課に所属する戦士が一人水嶋・琴美(みずしま・ことみ)19歳。
 代々忍者の血を引き継いだ家系の生まれで、現代の世でもくの一としてのクナイを主要武器として扱うプロフェッショナルである。
 はちきれんばかりのバストとくびれたウェスト、形の良いヒップ。その豊満な肉体から発する隠しきれない艶やかさは数多くの男を魅了する。
 危険な任務に従事しながらもこれまで数々の任務を完璧にこなしておりその体には傷が一切なかったが、今回は任務に失敗し無残なほど傷を受け、美しい肢体をさらけ出していた。
 琴美は指令を受けIO2の施設に潜入し、鬼鮫(おにざめ)と呼ばれる暗殺対象と対峙していた。

「ざまあねえな、おい」
 ヒュッ! ドスン!
 鬼鮫が日本刀を捨て拳を大上段から振り下ろす。
 頭からその拳を受け、倒れこむ琴美。
「くっ……」
 琴美は立ち上がろうとするが、蓄積されたダメージではそれもやっとで、ともすれば崩れ落ちそうになる体を必死に支える。
「ほら、立てよ」
「いわれ……なくとも……」
 必死に立ち上がろうとするが、自らが流した血溜まりに足を取られて滑ってしまう。
 すでに着物は裂かれ乳房が露出しており、スカートも切られてスパッツのみとなっている。
 鬼鮫はそんなグラマラスな肢体の琴美を舐めるような視線で見つめながら立ち上がるように促す。
「こ……の……」
 琴美は太ももからクナイを抜いて鬼鮫に向かって投げる。だが――
 チャリン――
 軽い音を立ててクナイは地面に落ちた。
 すでに満足にクナイを投げる力すら、琴美は持ちあわせていない。
「はは……その程度か。情けない。情けなすぎていらつくぜ、ああ!」
 暗殺者の技量に満足なものを見いだせなかった鬼鮫は、その事実に怒りすら覚えていた。
 鬼鮫の拳がボディに入る。
「くふっ……」
 吐血し崩れ落ちる琴美。
「おっと、おねんねにはまだはやいぜ」
 鬼鮫は琴美の見事なロングヘアを無造作に掴むと引っ張り上げる。
「ああああああああ…………」
 頭の皮が引っ張られるのを堪えながら必死に立ちあがろうとする琴美。
 琴美が立ち上がると鬼鮫はようやく髪から手を話す。そして右左のワンツーパンチ。
 琴美の美しい顔が無残にも腫れ上がる。
 とどめにアッパー。
 風を割いて迫ったその一撃は正確に琴美のアゴを捉え琴美は脳震盪を起こす。
 そして無様にも崩れ落ちた。
「ちっ……終わったか」
 鬼鮫はつまらなそうにつぶやくと琴美の肢体を観察した。
 艶やかな黒い長髪――
 腫れ上がったがもともと美しかった顔――
 首筋から鎖骨へと至るライン――
 盛り上がった二つの乳房と折れて陥没している肋骨――
 くびれた腰のラインと柔らかそうな腹部――
 スパッツが際立たせる下肢のライン――
 そしてブーツを脱がされ裸足となった膝下の美脚――
「いい女だっつうのに、こんな任務につかせるとは……まったく、どこの組織か知らないがもったいないことをするもんだぜ」
 鬼鮫は琴美の腹部に蹴りを入れる。
「っくはぁ……」
 細い息を吐いて意識を取り戻す琴美。
「立てよ。まだ足りないんだよ」
 鬼鮫は琴美を無理やり立ち上がらせると、回し蹴りを喰らわせる。
 全体重を載せたその重い一撃は琴美の背中に激しい重圧を与える。
 頭から倒れる琴美。
 ヒュー、ヒュー。
 細い息を吐いてどうにか呼吸をつなぐ琴美を見下ろし、鬼鮫は残虐な笑みで囁やく。
「どうだ、どこの組織か喋る気になったか?」
「だれが……吐いたりなど……するものですか……」
 切れ切れに言葉を紡ぎ出す琴美を、鬼鮫は哀れさと嘲りと怒りが綯い交ぜになった表情で見る。
「あわれだな。そんなに忠節を施したところで、暗殺者ごときを組織は助けてはくれないぜ? 組織に取って暗殺者ってのは道具だ」
「道……具……」
 琴美が切れ切れに反復する。
「そうだよ。おまえは道具に過ぎない。使い捨てのな。
 見事任務に成功して無事に帰ってきたら適当に餌を与えておけばいい。失敗したら切り捨ててハイそれまでよだ。
 そんな組織に尽くしたところでどうなる? おとなしく吐けよ。全部ゲロっちまえ。そうすれば傷の手当もして休ませてやるよ」
「戯言を……おっしゃいますこと……どうせ……私のことは犯すか……殺すか……するのでしょう?」
「殺すにはもったいねえな。するなら犯すか……だが、どっちにしろ組織のことをゲロってからだ。
 それまでは、生かさず殺さず、喋る気になるまで傷めつけてやるさ」
 鬼鮫は琴美の顎を持ち上げると、その顔に唾を吐きかける。
「今のおまえには唾棄するくらいの価値しかないんだよ。どうだ、しゃべらないか?」
「だ……れ……が……」
 琴美は鬼鮫に向かって精一杯の見得を切る。
「あああああああああああああああああああああ!!!」
 すると鬼鮫は大声で唸った。
「いらつくんだよ。なんだ、そのプライドは。そんなくだらねえプライドはネズミにでも食わせちまえ」
 もう一度琴美の脇腹を蹴る。
「っかはぁ……」
「おまえはもう虜囚なんだよ。捕虜だ。囚われの身だ。わかるか? おまえは俺に負けて無様に地面に這い蹲る芋虫なんだよ。
 それがなんだ? プライドと忠節だけは一人前だ。ふざけるな。どこの犬だ、ええ? 鳴け。鳴いてみろ。犬なら犬らしく鳴いてみろ」
 さらに琴美の脇腹をける。
「ぐぁっ!」
「ほら、少しはいい声で鳴くじゃねえか、この犬が。無様晒してる分際で、忠犬よろしく忠義立てするんじゃねえよ」
「……だま……りなさい……超常能力者……殺害……常習犯の……霧嶋・徳治。奥さんと……娘さんが……ないて……いてよ……」
「黙れ」
 再び脇腹を蹴る。
「ぐっ!」
「おまえに!」
 さらに蹴る。
「がっ!」
「妻と娘のことなど……」
 狂ったように蹴る。
「はぁ……」
「言われたくない!」
 とどめにもう一度蹴る。
「ギャン!」
「犬が。ホザくな。大口を叩きたかったら、それだけの実力を身につけてからにしろ!」
 琴美の右足を踏みつける。
「ぎゃあああああああああああああああ!」
「ほら、犬が。少しは喋る気になったか?」
「だれが……」
 強情を張る琴美にいい加減に切れたように鬼鮫は叫ぶ。
「ざけんな。ぬかすな。ほえるな。だったら、こっちの足もだ」
 そう言って左足も踏みつける。
 両足共に醜くへし折れている。
「絶対に……意地……に……かけても……口は……割らない……」
 か細い声で琴美がしゃべる。
「そうか。だったら、こっちも意地でも是が非でも、何がなんでも吐かせてやる」
 鬼鮫は怒りの抜けきらない表情で琴美の髪を引っ張ると、琴美を引きずって部屋の中を移動する。
 そして、扉までたどり着くと乱暴に蹴り開け、そこからさらに琴美を引きずっていく。
 奥に待っていたのは虜囚用の拷問部屋だった。
 肉体には負荷をかけぬよう、ありとあらゆる苦痛が与えられる拷問部屋。
 それが、琴美を待っていた。
「あっ……がっ……」
「嫌でも喋りたくなるようにしてやる」
 そして、琴美にまず与えられたのは電気ショックだった。
「ああああああああああああああああああああああ!!!!」
 琴美の悲鳴だけが響き渡る。

 Dark END