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<東京怪談ノベル(シングル)>


龍の咆哮
 富士の奥底で龍たちがうなる。
「彼奴が斃れたか」
 一匹の龍が炎を吐きながら言った。
「哀れ老兵よ、だが陽動と偵察は成功した」
「まさか結界で簀巻きとはな! 愚かな娘め、切札に二枚目は無いぞ」
 龍たちは咆哮をあげるとマグマの底へと沈んだ。

 空前の風水ブームに沸く東京。
龍脈という霊的インフラを経て富士山から御利益を得る龍の置物が人気。
先の富士塚噴火テロ未遂事件を隠蔽すべくIO2が流した噂が一人歩きした結果だ。
 置物が泥棒に吼えたという話もあり番犬代わりに添い寝する者もいる。
「テロは端から欺瞞よ! 龍脈は都民の霊的支配網だ。人質だ」
 龍は嗤う。IO2の噂すら利用し、龍達は都民という人質を手に入れたのだった。

 漫画即売会場、先の表現規制で滅んだSF物を神話伝説物が穴埋めしていた。
 ここでも龍は大人気だ。龍をモチーフにした同人誌も多い。そして、龍のコスプレも。
 玲奈のブースにも龍のコスプレ客が来た。その客は玲奈の前に来るやいなやぞんざいな口調で尋ねた。
「三島玲奈だな?」
 その客からは硫黄の口臭がする。彼は人間ではない。コスプレではない。本物の龍が人形に変化して来たのだ。
「本物の龍が何の用?」
「最近龍の置物が人気だろう?」
「そうね……」
 玲奈は警戒する。
「あれは我らが龍脈を構築するための道具」
「どういうこと?」
「テロは端から欺瞞よ! 龍脈は都民の霊的支配網だ。人質だ」
「なっ!」
 驚愕する玲奈。
「それで、どうするつもり?」
「なに、簡単なこと。エミグレ文書を渡してくれればいい」
 玲奈は突っぱねる。
「虚構を操る智慧は渡せないわ」
「ならば客を殺す」
 すると、龍はそう脅してきた。
「そうはさせないわ」
 玲奈は光線を放とうとする。
「おっと光線はよせ、ここは火気厳禁だぞ。大事な同人誌が燃えてしまうからな」
「くっ……」
 龍はそう言って嘲笑うと、玲奈の胸元に爪を立てる。
「貴様は正体を暴かれ、かつ人間の前で無力だ。さてどうなる? クックックッ……」
「卑劣な……」

 その頃鍵谷は会場の倉庫で歴代の見本誌を発見していた。
「お宝ゲット! 脳が飛んでる夏の龍とは彼の事ね! 虚構を砕くエミグレ文書は逆用もOK。この新開発の創作するAIにSF同人誌をかければイチコロよ♪ いでよ白馬の王子ロボ」
 虚構をものにするエミグレ文書を応用した鍵屋の創作AIがSF同人誌をスキャンし、騎士の姿をしたロボットを創りだす。
 玲奈はシャツを割かれ、その上ブルマのゴムを切られてビキニ姿となり風前の灯。そこへ警備班の腕章をした騎士が出現した。
 騒然とする出店者と来場客たちを押しのけ騎士ロボは龍のところへと駆けていく。
「鍵屋さん!」
「待ってな、玲奈!」
「逮捕シマス」
 騎士ロボットはそう言って手錠で龍を捉えた。
「なっ?!」
 龍が戸惑う。
「今だよ玲奈!」
 その隙に人狼化した玲奈は消火栓へ駆ける。
 ベルを鳴らし消火栓を作動させる。即売会会場にけたたましい音が鳴り響く。
 騎士へ火焔を吐く龍。
「ここは火気厳禁よ! 同人誌が萌えちゃう、じゃなかった、燃えちゃうでしょ!」
 龍の口に瀑布が注がれる。消火栓から吐き出された水は龍の炎を消し彼の口の中に入っていく。
 哀れ、龍は消火栓の水を浴びて溺死した。
 だが、煽りお受けて騎士ロボも水を被り、漏電して故障してしまう。
 そして暴れだした騎士ロボは剣で鍵屋を下着姿に剥いてしまう。
「きゃーっ!」
 そして鍵屋が怯んだ隙に空から飛来した龍が騎士ロボを破壊しその頭部ごとAIを奪い去った。
 ビキニ姿と下着で抱き合い震える少女らに空から龍の勝どきが聞こえる。
「AIは戴いたぞ! 我らの勝利だ」
 そして龍は高らかに吼える。勝利の咆哮だった。
 エミグレ文書を応用したAIが奪われた。それは竜たちに虚構を操る道具を渡してしまったことになる。
「なんてことなの……」
 玲奈は呆然と呟いた。