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<東京怪談・PCゲームノベル>


 クロノラビッツ - 嘘 -

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 何となく、わかっていたのかもしれない。
 こうなることを知った上で、ここに来たのかもしれない。
 何のために? それは …… わからない。うまく言えない。
 でもね、
「 …… どっち?」
 そうやって、返答を急かす君の目を見ていると、何となく、こんな気がしてくるんだ。
 あぁ、そうか。ずっと、伝えたかったのかもしれない、って。
 キミに対する気持ちを、ずっと、伝えたかったのかもしれない、って。
 好き? 嫌い? どっち?
 今にも泣きそうな顔で尋ねてきたキミに対する気持ち。
 俺は、はぐらかすばかりで、向かい合おうとしなかったかもしれない。
 覚えてないから、知らないから、なんて言い訳、もう …… できないんじゃないか、って。

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 矛盾、とか。
 支離滅裂、とか。
 そういう感じの表現がピッタリだと思うよ。
 だってさ、おかしいよ? どうして、そんなこと聞くの?
 嫌われたくないって思うなら、嫌われることが怖かったなら、どうして、あんなことしたの?
 ちょっとさ、俺自身をね、キミに置き換えて考えてみたんだけど。どう考えても、おかしいんだよ。
 大切なひと、大好きなひと、失いたくないと思うひと、ずっとずっと一緒にいたいと思うひと、かけがえのないひと。
 まぁ、そうやって考えたとき、俺の場合は、真っ先に妹が頭に浮かぶんだけど。
 妹をね、苦しめたりさ、悲しませたりさ、そんなこと、できるわけないんだよ。
 大切に思うなら、なおさら。
 どうすれば、ずっとずっと一緒にいられるだろう。
 どうすれば、ずっとずっと笑顔でいてくれるだろう。
 大好きなひとの涙なんて、見たくないよ。あたりまえでしょ?
 だから、考えるんだよ。俺は、いつも考えてる。どうすれば、妹を笑顔にできるか。
 俺が何か悩んでいたり、不安定だったりすると、妹にもそれが伝染って落ち込ませてしまうから、
 妹の前では、悩んだりヘコんだり、そういう姿は見せないようにしてる。
 疲れないのかって? 疲れるよ? そりゃあね。
 でも、それを苦痛に思ったことはない。一度たりとも。
 嫌なんだ。俺のせいで妹の表情が曇ってしまうだなんて、耐えられない。
 勘違いしないでね。俺は、妹に心配されることが嫌なんじゃなくて、妹を心配させることが嫌なの。
 理解 …… できないって顔、してるね?
 まぁ、当然だね。キミには、キミたちには、きっとずっと理解できない感情だと思う。
 だってさ、キミの場合、嬉しいでしょ? 喜んじゃうでしょ? もしも俺が、キミのことを心配したら。
 満足するでしょ? 幸せだって思うでしょ? そればかりか、もっともっと心配されたいとか思っちゃうでしょ?
 で、欲張った挙句、もっと無茶なことするでしょ? 心配させるために。
 それじゃあ、駄目なんだよ。
 わかりやすく説明するなら、キミたちは、いつも自分本位。
 自分が嬉しい、幸せな気持ちになるためなら、どんなことだってする。
 考えてないんだ。相手のことなんて、これっぽっちも。
 そういうことされて、心配しているほうは、気が気じゃないのにさ。
 確かに、キミは幸せかもしれないけれど、相手は、ちっとも幸せじゃないんだよ。
 心配ばっかりかけて! まったくもう! 幸せ! ありがとう! …… なんて、そんなこと言う人いるわけないでしょ?
 中には、そういうキミを放っておけない、とか思って、何度心配かけさせられても健気に傍にいる人もいるかもしれないけど。
 残念ながら、俺は、そうじゃない。まぁ、心配かけされられた覚えも、心配した覚えもないけど。例え話だよ、今のは。
 …… そもそもさ、キミは、キミたちは、やたらと俺に執着するけど。
 キミたちが執着しているその "大雅" って存在は、本当に "俺" なのかな?
 間違えるはずがないって、キミたちは、そうやって自信満々に言うけれど。それって、本当に俺?
 こんなこと言うと、またややこしくなるんだろうけどさ。
 違和感っていうの? こう、モヤモヤッとする感じ。あれが拭えないんだよね、俺。
 確かにキミたちは "大雅" を欲しているんだろうけれど、俺自身、それを自覚できていなかったりするんだ。
 どういうことか、わかる?
 つまりね、キミたちが欲している "大雅" は、もういないんだ。
 覚えてるよ? 忘れてないよ? キミたちと過ごした日々も、共有した時間も。
 でも、それを懐かしいと思ったり、愛おしく思ったりはしない。それが、キミたちと俺の決定的な違い。
 キミたちが "大雅" を欲して近付いてくる度、そんな人知りません。人違いですよ。
 とかね。そうやって邪険に突っぱねたい気持ちに駆られるんだ。俺はいつも。
 今も、そうだよ。

「 …… 海斗たちを待たせてるから、もう行くね」
 ずっと伏せていた目をようやく開き、リオネが視界に映り込むと同時に小さな声で呟いた大雅。
 クルリと身をひるがえし、何事もなかったかのように颯爽と歩いていく。
 リオネがそれを引き止めたのは、当然の成り行きだ。
 まだ、聞かせてもらっていない。質問に答えてもらっていない。
「返事を、聞かせて」
 必要ないでしょう。もう十分でしょう。
 いくら自分のことばかり考えている自己中心的な人だとて、今の "諭し" は理解できるはずだ。
 リオネの引き止めに、そんなことを思う。だが、大雅は、足を止めた。引き止めに応じた。
 聞こえないフリをして、無視をして、そのまま歩いていくこともできたのに。
 憐れみや同情ではなく、決意。
 決意したからこそ、大雅は立ち止まった。
 ここでまた曖昧な言葉を返してしまえば、同じことの繰り返し。
 だから、大雅は告げた。躊躇うことなく、はっきりと。

「嫌い」

 あの日を境に止まってしまった時間。
 共有していた時間があったことは確かなのだけれど、
 一旦止まってしまったその時間が、再び動き出すことはない。
 巻き戻す術も、進める術もなく、ただ、停止したまま在り続けるだけ。
 嘘と決別。リオネが一人で背負うには些か重すぎるであろうその返答は、
 明白な軽蔑を孕んでいた。

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 The cast of this story
 8372 / 王林・大雅 / 18歳 / 学生
 NPC / リオネ / ??歳 / クロノハッカー
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 Thank you for playing.
 オーダー、ありがとうございました。