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<東京怪談・PCゲームノベル>


【D・A・N 〜Extra〜】




「オレ達に『関わりたい』って言うスザクさんは、これからどうするオツモリで?」
 茶化すような軽い口調で告げられた、けれど何かを試す意図が感じられる問いを向けられて、スザクは思わずふふっと笑った。
「軽口叩けるんなら上等よ」
「はは、何それ皮肉?」
「違うわ。元気になったのなら良かったってことよ」
「そりゃ、あんまり情けないとこ見せられないし。一応オトコノコですからー」
 にこにこと、珂月が笑う。しかしスザクを見る目は笑っていない。何かを見極めようとするような鋭さがそこにはあった。
 スザクはそんな珂月の目を見据えて、先の問いへの答えを口にする。
「……珂月さんの願いを、聞かせて欲しいの。あなたの望みを口にしてちょうだい」
 珂月は一瞬、虚を突かれたように無防備な顔をした。
「……望み?」
「そうよ。望むこと、願うこと――あるでしょう?」
 どんな変化も見逃さないようにと見つめるスザクの視線の先で、珂月は目を眇め、小さく溜息をついた。
「願い、望み…ね。確かにあるよ。オレの願いは、ずっと前から変わらない。静月を、救うこと。静月が何にも縛られず、思う通りに生きること」
 ここではないどこかを見るように、珂月の視線が遠くを彷徨う。
「……でも、今の静月を縛ってるのはオレで。こうなったのは静月だけのせいじゃないのに、静月はずっと悔やんでる。どっちが悪かったかなんて話じゃないのに、自分のせいだって、自分がいなければって思ってる。オレはただ、死なせたくなかっただけだったのに」
 そう呟くように言う珂月こそ、何かを悔やんでいるのではないか、とスザクは思った。
 悔やんで、悔やんで――自分さえいなければ、と思っているのではないかと。
「さっき、静月さんは死にたがってる、でも珂月さんがいるから死ねないって言ったわよね?」
「…ああ、うん。それが?」
「手を離されるのが怖いって、――置いていかれるんじゃないか、って」
「そう、だけど」
 スザクの視線から逃げるように目を伏せた珂月に、一歩近づく。珂月は一瞬肩を震わせたが、その場からは動かなかった。
「珂月さん」
 名前を呼んで、また一歩近づいたスザクは、ダークブラウンの瞳を下から覗き込んだ。そこには微かな戸惑いが映っている。
「手を離されるのが怖いなら、離しちゃだめ。自分からぎゅっと握るのよ」
 珂月の手を握り、真っ直ぐに見つめる。 小さく息を呑んだ珂月は、逃げるように片足を引く。けれど、それ以上は動かない。
 一連の動きに、拒否されているわけではないのだろうと感じて、スザクは言葉を重ねる。
「あなたが静月さんを信じないで、どうするの。過去に深い苦しみがあってそれを乗り越えようとする……並大抵の勇気ではできないことだわ。お互いがとても大切だから、生きることを選んだのでしょう?」
 言った瞬間、スザクの握る珂月の手が、ピクリと反応した。それに後押しされて、スザクは続ける。
「だからスザクも二人に会えたのよ。はっきり宣言して、魔を、心の弱さゆえの闇なんて蹴散らしちゃえ!」
 えいっと大げさに蹴り飛ばす仕草をして、珂月に笑みを向ける。珂月が笑ってくれればいいと――少しでも、勇気づけられるように、と。
 その気持ちが伝わったのだろうか。ふ、と珂月が目元を緩めた。嬉しくなって、握る手に、更に力を込める。
 先よりもやわらかな光が垣間見える珂月の目を見ると、今度はきちんと視線が合った。
「……この手は、絶対離さないよ。スザクは珂月さんも静月さんも、大好きだから。…もう一度『魔』が現れても、平気。『魔』をきっちり送還して見せてちょうだい。珂月さんならできる。そう信じるよ。――…ね、この気持ちを忘れないで」
 思いを込めてそう言ったスザクだったが、対する珂月は何故かきょとんと目を瞬かせた。
 何かおかしいことを言ってしまったかと考えてみるものの、心当たりはない。少し悩んで、スザクは当人に聞いてみることにした。
「どうしたの? 何かおかしいこと言ったかしら」
 だんだん不安になってきたスザクをよそに、珂月は何か考えるように目を細め――それから「ああ、」と頷いた。
「スザクさん、もしかして『魔』が悪いモノだって思ってんの?」
「え、」
 予想外の言葉に、思わず戸惑いの声が漏れる。そんなスザクの反応を見て、珂月は「ナルホドねぇ」と呟いた。
「ま、一般的な認識とかもあるし、オレの説明も悪かったかな。……『魔』は、さっきも言ったけど、『悪魔』とか『魔物』とかそういうののコトだけど、さっき仮送還したヤツは、別にそんな悪いモノじゃないから。そりゃ、ちょっと悪趣味なマネはしてきたけど。アレはオレと静月の一族に古くから関わりのあるヤツで、必要があったから召還したんであって、仮送還だったのもそれをまだちゃんと聞いてないからだし。これからどうなるか――どうするか、聞かないと決められないからさ」
 どうやら自分は少し思い違いをしていたらしい、と珂月の言から悟るものの、何と返せば良いのか言葉に詰まる。詳しいことを訊いてしまっていいのか、まだ踏み込まないでいるべきなのか。
「……まあ、でも、その気持ちは結構、嬉しいかも。気持ちだけ、受け取っとく」
 考えている間に、珂月は少し照れたように――いつも浮かべているようなものではない、微かな笑みを口元に刻んで、そう言った。
 それは以前、『呪具』を探すのを手伝うと言ったスザクに、静月が返した言葉と表情に、よく似ていた。
 二人の事情も、『呪具』を求める理由や『魔』を召還した理由も、何も分からないけれど。
 彼らの助けになりたい、と――そう、強く思った。





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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【7919/黒蝙蝠・スザク(くろこうもり・すざく)/女性/16歳/無職】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、黒蝙蝠様。ライターの遊月です。
 「D・A・N 〜Extra〜」にご参加くださりありがとうございました。

 内容的にはそのまま前回の続きということで、珂月と対話していただきましたが、如何だったでしょうか。
 『魔』に関しては本文中にあるように悪いモノとは言えないので(少なくとも珂月や静月にとっては)、ああいう返しになりました。しかし心意気というか気持ちというかはちゃんと珂月に伝わってますので。

 ご満足いただける作品に仕上がっているとよいのですが…。
 リテイクその他はご遠慮なく。
 それでは、本当にありがとうございました。