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+ 奥様談義―羨ましい悩み― +
休日の商店街に美女が二人並んで歩いている。
一人は妖艶な雰囲気を纏う美女、そしてもう一人は清楚な雰囲気を纏う美少女だ。
その姿は人々の視線を集める事が容易く、今もまた一人男が振り返る。だが彼女達に声を掛けナンパをしようという者はいない。むしろ彼女達のために進んで道を開き、気遣う様子を見せる。
理由は至って簡単だ。
黒髪に金色の瞳を持つ美女の背中には幼子が背負われており、かつ彼女の腹部が大きく膨れ上がっている事にある。つまり、美女――ノアール・ーは妊婦なのだ。
そんな彼女の傍にいる黒髪黒瞳の美少女の名は御崎 綾香(みさき あやか)。
彼女はノアールのバッグを持ち、始終周囲とノアール自身に気を配る。彼女が誰かにぶつかったりこけたりしないようにだ。お腹の中にはノアールとその旦那の大事な第二子がすくすくと育っている。安定期にはとっくに入ってはいるが油断は出来ない。
彼女達の関係は至って簡単。
綾香の婚約者の先輩がノアールの旦那様なのだ。つまり二人は奥様仲間……と、こういうわけである。そのため綾香は何かとノアールに「奥様」としての先輩として何かと相談に乗って貰っており、本日も綾香の悩みに妊婦でありながらもノアール自身が付き合ってくれている。
やがて二人が辿り着いたのはノアール行き着けの衣服店。
ノアールの目的は子供服、そして綾香の目的は個人的な事情――つまり今回の「悩み事」関係だ。
「私もですが、いつの間にか胸元がきつくなるのは贅沢といえば贅沢な悩みですね」
「っ――さ、最初は気のせいかと思ったんだ。思ったんだが……」
「あらあら、顔が真っ赤」
「わ、私は店員と相談してくる! ノアールさんは子供服の方を見ていてくれ!」
「ええ、じゃあ私はあちらへ」
ほんわかと笑うノアールの言葉に綾香は紅潮し、慌ててその場から逃げようと足を動かす。
店の中なら店員もいるしノアールに危害は及ばないだろう。ちらほらと見える他の妊婦の姿をみやりながら綾香は自分の用事を済ますために店員を捕まえた。
「バストアップですか。では測りなおしが必要ですね」
「やはりそうなってしまうのか……」
「シャツなどの上からで構いませんので試着室で脱いで頂けますか。あ、ブラは外すようにお願いしますね。それからメジャーにて測らせて頂きます」
「分かった」
綾香は案内された試着室にて言われるがままにブラを外し、薄手のシャツ一枚へと姿を変えた。
店員は「失礼致します」と一言告げると素早く綾香のバストサイズを測りに掛かる。ノアールのバストには及ばないが、綾香のバストサイズもそれなりに大きく店員は少しだけ目を見開いて驚いていた。
「そうですね。お客様のサイズですとアンダーは取り寄せ、上着の方は手直しという形となりますがいかがでしょう」
「それで構わない。取り寄せはいつ頃になりそうだ?」
「そうですね、今日ですと……」
無事綾香はバストサイズを測り、着替えを終える。
そこから先は店員と色々相談しつつ、取り寄せ日や手直し方法について相談を重ねた。すると、ノアールが二つほど袋を持って綾香の元へとやってきた。彼女は彼女で無事目的を達成出来たようで綾香も内心安堵する。
「ふふ、可愛い服を見つけたから思わず二人分御揃いで買っちゃったわ〜」
「良い服があったなら何よりだ」
「綾香さんの方は順調?」
「ああ、取り寄せと手直しで済んだ。今日はこれで終わりだ」
「じゃあ、帰りましょうか」
「折角だし、うちに――私の婚約者の家に来てくれ。休憩も兼ねてお茶くらい出せるから」
「じゃあお邪魔しますわね」
綾香はノアールが購入したばかりの袋をそっと受け取ると、再び周囲を警戒しながら店を出る。
商店街に再び美女二人が現れ、またしても視線を集める事になるが――結果は同じで、彼女たちはやはり気遣われる立場のままだった。
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そして綾香の婚約者宅に着いたノアールは背中からわが子を下ろす。
飼われている子犬に子猫、そして白鳥に興味を抱いた子供はすぐにきゃっきゃと笑い声をあげながら動物達と戯れ始めた。
ノアールはそんなわが子を優しく見守る。続いて綾香が注いでくれた冷たい麦茶を飲むとほうっと息を吐き出した。
「服と下着の件は仕方ありませんよ。綾香さんはモデルさんもびっくりのスタイルですから」
ちょっと待て、と綾香は突っ込みそうになるが、そこはあえて口には出さず。
スタイルだけでいうならば自分よりもノアールの方がナイスバディなわけで、……と綾香の中でもやっとした気分が浮き、少々恨めしげに視線を送ってしまう。
だがそんな風に見つめ続ける事は失礼に値する。
彼女は気を取り直して、ソファに座っているノアールの隣へ腰を下ろしそして妊婦である彼女の腹部をそっと見やった。
とても、とても大きな腹である。
それは誰が見ても「命」を育んでいる母の腹部だった。
「ノアールさん、予定日はいつですか?」と問う。
「もう少し、ですね。今回も運よくあの人の休養期間になりそうです」
ノアールは幸せそうな笑みを浮かべる。
一瞬だけ綾香に向けていた視線はすぐに正面に向けられ、動物にじゃれる子供へと注がれた。第一子である愛しい、愛しい子供。
それは本来ならば人間を堕落させ、魂を刈り取る存在である悪魔――いや、今は悪魔でも人間でもない存在になってしまったノアールにとってかけがえのない命だ。
綾香もつられてノアールの子に視線を向ける。
動物達は非常に賢く、幼子に対して怪我をさせる真似はせずむしろ面倒をみているような対応を取っている。それが何より安心出来た。
「綾香さんも、すぐに子供服やマタニティドレスを買うことになりますよ」
不意にノアールが口にした言葉。
かぁあっと一気に綾香の顔に熱が集まるのが感じられた。それは――やはり「そういうこと」。綾香と婚約者の未来について彼女は指摘してくれたのだ。綾香達の仲も非常に順調で、問題なく二人は結ばれるだろう。だからこそ、綾香は紅潮せずにいられない。
そんな綾香に対してノアールは「妻」として、そして「母」の先輩として様々な事を伝える。
それがやがては「妻」になる綾香に対して出来ることだと知っていて。
「……ああ、そうだな。早く、そうなりたいものだ」
婚約者の前では口に出来ない女同士だからこその本音。
綾香はノアールの優しげな視線を受けながら自身の頬を撫で、早くこの熱が引かないものかと、心中祈っていた。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【5124 / 御崎・綾香 (みさき・あやか) / 女 / 17歳 / 主婦(?)・巫女】
【5639 / ノアール・ー / 女 / 22歳 / 元・悪魔/スーパー主婦】
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■ ライター通信 ■
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こんにちは、いつも発注有難う御座います!
今回は奥様同士の会話ということでほんわかと書かせて頂きましたv
しかしバストアップの悩み……結構バスト問題って難しいですよね(ごにょごにょ)
子供を持つノアールさんの視点と将来妻を持つ綾香さんの視点は今は違ったものだと思いますが、やがては同じ視点からみれるようになったらいいなと、こっそりお祈りいたします。ではでは!
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