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<東京怪談ノベル(シングル)>


 ―― 呪具・獣の証 ――

 その日、海原・みなもは瀬名・雫と共にLOSTのクエストを一緒に受けていた。瀬名は海原よりも早くLOSTをプレイし始めており、LOST内に詳しい。
 だから一緒に来てもらえるというだけでも海原にとっては心強く感じていた。
 クエスト内容は至ってシンプルな物。魔物退治をしてくれ、退治したら報酬をあげよう――的な内容で、レベルの高い瀬名と一緒だった為にクエストそのものには苦労する事はなかった。
「報酬はみなもちゃんが貰っていいよ」
 クエストをクリアした後、報酬を貰いに行く途中で瀬名が海原へと言葉を投げかける。
「え? いいんですか?」
「うん。あたしは今の装備が凄く気に入ってるし」
 瀬名の言葉に甘えてクエスト報酬は海原が貰う事になり『獣の証』というアクセサリーを海原は入手した。
「おお、獣の証じゃん。これって結構なレアアクセサリーだよ?」
 瀬名が海原の画面を覗き込みながら「知り合いに持ってる人がいたなー」と瀬名は言葉を付け足しながら言葉を返した。
 だが、言い終わった後に「あ、でも‥‥」と瀬名は少し言い難そうに海原のキャラクター・みなもを見ながら言葉を続ける。
「その獣の証って、みなもちゃんみたいな『獣スタイル』専用のアクセサリーなんだけどちょっと厄介なアクセサリーなんだよね」
 瀬名の言葉に「厄介、ですか?」と海原は首をかくりと傾げながら聞き返す。瀬名がレアアクセサリーと言うだけあって、海原は全く『獣の証』について分からない。アクセサリー説明欄にも『獣スタイル専用のアクセサリーだが‥‥?』としか書いておらず、実際に装備をしたらどのようにステータスが変化するのかなどは一切説明されていない。
「それねぇ、装備したら呪われて外せなくなるアクセサリーなんだ。説明に何も書かれていないのはランダムで有利不利効果が決まるからなの」
「ランダムで‥‥?」
「知り合いは装備したら、攻撃力は馬鹿みたいに上昇したけど防御力がゼロになったって言ってたかなー。最近はリアルが忙しいみたいでLOSTにログインしてないみたい。ログインしてたら詳しい話が聞けたんだけどね」
 苦笑しながら瀬名は言葉を返す。
(「街には解呪の店もあるし、ランダムとは言え此方にも有利なことが起きるのなら‥‥試してみる価値はありそうですね」)
 獣の証、と書かれたアクセサリーを見ながら海原は心の中で呟く。他のプレイヤーと違って、海原には――そして分身であるキャラクター・みなもには『負けられない理由』がある。逆を言えば、自分が生き残る為には形振り構っていられないと言った方が正しいのかもしれない。
(「たとえどんなリスクがあるアイテムであろうと、それを使って生き残れるのなら、最後まで『あたし』でいられるのなら‥‥」)
 海原はごくりと喉を鳴らした後に「あたし、装備してみます」と瀬名に告げた。
「え!? 装備するの? 危ないから止めて置いた方がいいんじゃないかなぁ‥‥」
 瀬名が心配そうに目を瞬かせながら言葉を返すのだが「‥‥あたしには、負けられない理由があります――色々試す価値はあると思ったので」と海原の決意は固いらしく、まっすぐに瀬名の目を見て答えた。
「‥‥そっか、もしかしたら大した不利効果にならないかもしれないしね」
 瀬名の言葉を聞いた後、海原は『装備』をクリックしてみなもに『獣の証』を装備させた。

『全ての獣系スキルを常時発動しました』
『攻撃力、素早さ、防御力などが上昇しました』

「へぇ、意外と良い有利効果みたいだね」
 瀬名がメッセージウインドウを見ながら呟く。

『貴方をモンスター登録しました』
『今後、一切のアイテム装備、店などの利用が出来ません』

「ええ! 何これ。モンスター登録って何!? あ! 全部の装備が外されてるよ!」
 瀬名が画面を指差しながら言い、海原が其方に視線を動かすと確かに全ての装備が外されており『装備不可』という文字が表示されている。
「モンスター扱い、これが不利効果なんですか‥‥でもいきなりモンスター登録なんて」
「とりあえず、店に行ってみようよ。もしかしたら表示だけって事もあるし」
 瀬名の提案に「そうですね、とりあえず行ってみましょう」とシズクとみなもを動かして道具屋へと移動する。
「ひっ! 何でこんな所にモンスターが! 出ていってくれ! あんたに売るモンなんか1つもないよ!」
 道具屋の主人はみなもを見て怯えたように言葉を返してきて、強制的に道具屋から退出させられてしまう。
「ほ、本当に店が使えなくなってる‥‥どうしよう? 店が使えないってかなりの大打撃だよ? 回復アイテムも買えないし、クエスト内には購入して渡すっていうものもあるし‥‥」
「この街、確か解呪屋がありましたよね? とりあえず行ってみます」
 海原は呟き、呪いを解く事を専門にしている解呪屋へと向かった――のだが、解呪屋自体も『店』としての扱いになっている為、海原は店から強制的に退出させられてしまう。
「解呪屋が使えないとなると、どうしようも――‥‥あ」
 瀬名が小さな声で呟き、何かを思いついたのか「でも、危険かもしれないし」と首を横に振りながら言葉の続きを言おうとはしない。
「何か思いついたんですか? 何でもいいから言って下さい」
 海原が「このままではどうしようもありませんし‥‥」と苦笑しながら呟くと、瀬名は少し間を置いてから「ログイン・キー」と言葉を返してきた。
「恐らく、それなら解呪が出来るんじゃないかな、とは思うんだけど‥‥でもそれの使いすぎはみなもちゃん自身が危なくなるだろうし‥‥」
「ログイン・キー‥‥」
 呟きながら海原は『ログイン・キー』を見つめる。これを使ってなら確かに解呪できる、確証があるわけではないけれど、海原の中では確信に近い何かがあった。
「‥‥使います」
 少しだけ震える声で呟き「え?」と瀬名が聞き返す。
「確かに有利効果は魅力的ですけど、今後一切のアイテム装備も、店が使えないと言うことも大きなデメリットになります。だから、解呪します」
「で、でも‥‥」
「何も考えなかったわけではないけれど、これを装備しようと思ったのはあたしです。だから、解呪する上で何か起きても、それはあたしの責任です」
 呟き、海原は『ログイン・キー』を使用して『獣の証』の解呪を行う。
 すると、海原の目の前が真っ白になり――その先には『ログイン・キー』をくれた少女と黒衣の女性が立っている姿が見えた。
(「これは、何? 今までの出来事でこんな事、なかった、筈‥‥」)

「貴方には期待しているわ、今度こそ、貴方こそ私の願いを叶えてくれる‥‥その為にログイン・キーを与えた――私の期待にこたえてね」

「自分で考えなさい。自分でどう在りたいかを考えるのよ。他人に流されず、他人の意見を聞かず、自分の意思で在り方を決めなさい。それはきっと、貴方の全てに関わる事だから」

 少女と黒衣の女性はそれぞれ正反対の事を言って溶けるように消えていった。
「みなもちゃん!」
「え?」
 ぱっと目が覚めるとそこには心配そうな表情で海原を覗き込む瀬名の姿があった。
「解呪した後にいきなり倒れちゃうんだもん、びっくりしたんだから!」
「え? 倒れた?」
「うん。いきなり倒れたの。でも解呪は出来たみたいだよ」
 瀬名に促されて画面を見ると『獣の証』はアイテム欄に戻っていて、有利不利などの効果も消えているけれど、装備品などもきちんと元に戻っておりみなもに装備されていた。
(「さっきのは‥‥いったい何だったんでしょう‥‥」)
 海原は心の中で呟き、とりあえず呪いからは解放された事に心から安堵するのだった。



―― 登場人物 ――

1252/海原・みなも/13歳/女性/女学生

NPCA003/瀬名・雫/14歳/女性/女子中学生兼ホームページ管理人

――――――――――

海原・みなも様>

こんにちは、いつもご発注ありがとうございます!
いつもLOST番外編のシチュノベをご発注いただき、凄く感謝しております!
本編の方が少し、いえかなり予定から遅れているのですが、もう少し待っていただければと思います(><)
今回の話が気に入って頂けるものに仕上がっている事を祈りつつ、失礼します。

今回は書かせて頂き、ありがとうございました!

2010/7/25