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<東京怪談ノベル(シングル)>


総力戦【富嶽】 氷菓子の宴

 最近の暑さは異常だと三島・玲奈は思う。高校生の彼女は本来ならば勉学に励むべきであろうが、こんな暑さが続くと勉強どころか何かをするのも億劫に感じられる。
「「おいしーい♪」」
 そんな時だった。瀬名・雫と共に理科実験室から液体水素を拝借して氷菓を作る競争を三島と瀬名は行っていた。
 だが勝負は互角のようで、決着などつきそうもない。
「そういえば‥‥何で氷と違って水素って凝固しないんだろう?」
 三島は氷菓を食べながら、ふと疑問を口にする。
「そういえば、何でだろ?」
 瀬名もかくりと首を傾げながら三島の問いに疑問系で言葉を返す。
「分からない時は」
「聞きに行くのが一番だね♪」
 瀬名と三島はお互いの顔を見合わせた後、先生に聞く為に職員室へと向かいだした――のだが、聞きに行ってしまった事で理科実験室に忍び込んだ事、そして液体水素を勝手に使った事を白状してしまった形になり、先生から質問の答えを聞く前に、三島と瀬名はまず先生からの説教を聞く羽目になってしまった。
「そういえば何で水素が凝固しないかについてだったな」
 ひとしきり説教を終えた先生が思い出したように呟き「超低温化では色々と不思議な事が起こる、いいか? 取り扱いに注意しろ」と言いながら先生が注いだ液体水素がグラスの壁を勝手に伝って零れ始める。
「うわっ、何これ」
 瀬名が驚いたように呟くと「超低温では物事が曖昧になり、物理法則が色々とスルーされるんだ」と先生が言葉を返した。
「ふーん、物理無視ってバーチャルの世界だね」
 瀬名が何気なく呟いた言葉。だがその言葉を職員室の外で聞いていた者達がいた。効いていた者達――それは札付きの不良であり、勿論聞いていたからと言って良い事に使うはずがない。

 しかし、翌日――学校にトラックが突入し、液体水素のボンベが盗まれるという事件が起きていた。
「ねぇ、これって‥‥」
「まさか、でもタイミングが良すぎだよね‥‥?」
 瀬名と三島は互いに顔を見合わせながら呟く。確かにタイミングが良すぎる。前日に先生に聞いていた次の日にこんな事になっているのだから。
 幸いにもトラックの行き先を知る事が出来て、三島と瀬名はトラックが目指した山奥へと向かい始める。教師達は危険だからと止めたのだが、彼女達のも多少の罪悪感があり、どうしても自分達で解決をしたかったのだ。


 そして、液体水素のボンベを盗んだ者達はと言えば――‥‥。
「物理法則をキャンセルできるならどんな魔法も可能だ!」
 拳を強く握り、組長と呼ばれる者はくわっと目を見開きながら叫び、液体水素ボンベを要求した――が「その前に俺の嫁を実体化する約束だ!」と仲間の1人は液体水素ボンベを渡そうとはしない。
「そんな事――当然、断る!!」
「は!?」
 勢いよく断られ、仲間が驚いている隙に組長と呼ばれている人物は液体水素ボンベを奪い取り、それを頭から被る。
 しかしそこで予期せぬ出来事が起きた。液体水素を頭から被った後、刺青の龍が蠢きだしたのだ‥‥。

 一方、瀬名と三島は赤外線カメラを使って液体水素を発見し、屋敷へと突入を行っていた。
 まさか龍が蠢いているという出来事が起きている事など知らずに。
「何か、凄く冷えてる‥‥」
 屋敷に突入した三島が小さく呟く。そして大広間の方が騒がしく、三島がそろりと気配を隠しながら大広間の方へ向かうと――‥‥。
「りゅ、龍!?」
 そこには冷気が漂う中で暴れまわる龍にたじたじな組長とその仲間達がいた。天敵とも呼べる存在である龍の出現に三島の血が滾り、愛刀・天狼を強く握り締める。
 そして、床を強く蹴り、大広間の中に入って龍へと斬りかかる。だが、龍も素早く、三島が一撃繰り出したら龍も一撃繰り出すという一進一退の攻防が続いていた。
「もしもし!? 先生? 液体水素ってどうすればいいの!?」
 瀬名自身も驚いているのだろう、上手く言いたい事を電話の向こうにいる先生に伝えることが出来ない。
「液体水素は圧力をかければ無理矢理凍る。何かあるなら圧力をかけて凍らせてしまうのが一番良い方法だろう」
 瀬名は先生からの言葉を三島へと告げ、三島は霊的結界で液体水素ボンベを封じた。しかしここで僅かな行動の差が出てしまう。龍は三島へと攻撃を仕掛けようと勢いよく襲い掛かってくる‥‥が、三島のスカートの裾を踏んで転倒してしまう。
(「やばいっ!」)
 三島自身も転倒しており、起き上がったのは龍のほうが先。はっきり言って三島にとっては最大級のピンチなのである。
「‥‥え?」
 だが、いつまで待っても攻撃は来ない。そろりと三島は目を開き、目の前を見ると「ははー」と平伏している龍の姿があった。
「えっと‥‥?」
 何が何だか分からない三島に「その御紋は三島王朝の!」と濃紺地に二本の白線。あられもない三島のブルマ姿は龍族の穏健派が信奉する姫君が持つ家紋だった。
「まさか、味方だったなんて‥‥」
 きょとんとした顔で龍を見上げ、三島は苦笑しながら呟く。まさかの偶然に救われた三島、そして瀬名は液体水素ボンベを盗み出した組長らを警察へと引渡し、三島を姫君と慕う龍たちとの氷菓パーティーを開始し始めたのだった。
(「でも、液体水素で虚像が実体化するなんて‥‥」)
 龍たちとの氷菓パーティーを楽しんでいる最中、三島は心の中で呟く。今回のことも悪用しようとして持ち出した者がいたのだ。恐らく彼ら以外にも悪用しようと企む者は数多く存在するだろう。
「姫君? どうなされた?」
 三島が考え込んでいると、龍が話しかけてくる。楽しい宴の中で表情を曇らせた三島を心配しているのだろう。
「ううん、何でもない」
 とにかく楽しもう、氷菓パーティーはまだまだ続き、瀬名、三島、そして龍たちとの宴にはまだ暫く終わりなど来そうもなかった。
 ハッピーエンドのように見えるが、事件はまだ一端のみしか解決されていない。恐らく彼女にとっては束の間の平和になるのだろう。


END


―― 登場人物 ――

7134/三島・玲奈/16歳/女性/メイドサーバント:戦闘純文学者

NPCA003/瀬名・雫/14歳/女性/女子中学生兼ホームページ管理人

――――――――――

三島・玲奈様>
こんにちは、今回はご発注いただきありがとうございます!
上手くご要望にお答えできていると良いのですが‥‥。
話の内容の方はいかがだったでしょうか?
少しでも楽しんでいただけたら幸いです。

それでは、今回は書かせて頂き有難うございました。

2010/7/31