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<東京怪談・PCゲームノベル>


 クロノラビッツ - 嘘 -

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 何となく、わかっていたのかもしれない。
 こうなることを知った上で、ここに来たのかもしれない。
 何のために? それは …… わからない。うまく言えない。
 でもね、
「 …… どっち?」
 そうやって、返答を急かす君の目を見ていると、何となく、こんな気がしてくるんだ。
 あぁ、そうか。ずっと、伝えたかったのかもしれない、って。
 キミに対する気持ちを、ずっと、伝えたかったのかもしれない、って。
 好き? 嫌い? どっち?
 今にも泣きそうな顔で尋ねてきたキミに対する気持ち。
 私(僕)は、はぐらかすばかりで、向かい合おうとしなかった。
 覚えてないから、知らないから、なんて言い訳、もう …… できないんじゃないか、って。

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 気まぐれとか、何となくとか、そういう気分で訊いているわけじゃないんだって、そのくらいは、わかります。
 まっすぐな気持ち。本心から、あなたは、あなたたちは、それを尋ねている。
 差し向けられたその気持ちから、目を逸らすなんて野暮な真似、しませんよ。
 でも、ひとつ。ひとつだけ、その質問に答える前に、ひとつだけ。私から、あなたに、尋ね返しても良いですか?
 どうして "今" なんでしょう。好きか、嫌いか、ふたつにひとつ。曖昧な返事は無効。
 あなたは、あなたたちは、どうして、今、それを訊くのですか。
 理由は? 目的は? 今、この瞬間に、それを尋ねなければならない、理由があるんですか?
 …… 答えて、くれないんですね。いえ、答えることができないって、そう言ったほうが正しいでしょうか。その反応は。
 あなたは、あなたたちは、昔からちっとも変わらない。外見もそうですが、それよりも何よりも、気持ちの面で成長が見えない。
 普通の "ヒト" でさえ、もっと上手に生きますよ。言葉を覚えて、意思を持って、大人になっていくんですよ。
 私も、偉そうなことは言えませんけれど …… ゆっくりと、でも確実に、目的地へと向かっています。
 私だけじゃありません。兄だって、海斗だって、梨乃だって。仲間はみんな、目的地へと向かっています。
 努力するんです。ただボンヤリと歩いているだけでは、辿り着けないことを知っているから。
 考えるんです。どうすれば辿り着くことができるか、近道はあるのか、寄り道は有効なのか。
 時には、自分がどこを歩いているのか、わからなくなってしまうときもあるけれど。
 私も、仲間も、決して引き返すことはしません。
 振り返ることはあっても、引き返すことはだけは、絶対にしない。
 過去は、何にも勝る経験です。でも、縋るものじゃない。過去に縋ってちゃ、前には進めない。
 ココロというものを持ち合わせる者はみな、それを本能的に知っています。誰もが、前進することで生きています。
 けれど、あなたは、あなたたちは、違う。ずっと、ずっと、過去にしがみついている。
 あの頃の自分、あの頃の私、あなたたちは、いつも、そうやって過去を匂わせる。
 楽しかった日々を懐かしく思う、懐古の情は、私にもあります。
 でも、そこに戻りたいとは、思わないんですよ。
 思ってはいけないんです。そう思ってしまったら、抜け出すことが困難になってしまう。
 どうしてか、わかりますか? …… 不可能だから、です。
 どんなに切望したところで、過去に戻ることは、誰にもできない。不可能な芸当なんです。
 それでもなお、過去にすがり、過去を欲し、あなたたちは、戻ろうとする。強引にでも、戻そうとする。
 あなたたちを見ていると、切なくて、悲しくて、憐れで、仕方ありません。見るに堪えません。
 救ってやれないものかと、私は、そう思った。けれど、あなたたちは、酔っている。
 過去に縋るばかりか、過去に酔っている。
 自分に酔っている人を救うこと、目を覚まさせることは、非常に困難です。それこそ、不可能に等しい。
 私が、あなたたちとの距離を縮めようとしないのは、この距離を保つのは、いわば、諦めのそれです。
 あなたたちを救うことはできない。救いようがない。そう悟った証です。
 だから、これで最後にしましょう。
 最後にひとつ、僅かな望みを託して。私は、あなたにこの言葉を贈ります。
 あなたが、あなたたちが、夢から覚めてくれますようにと、そんな淡い期待をこめて。
「嫌いです。私は、あなたのことが嫌い」

 ジッと、カージュを見据えながら告げた慧魅璃。
 発されたその言葉、その返答は、怒りや憎しみといった、負の感情に満ちていた。
 けれど、カージュは、気付く。見落とすはずがなかった。見落とすわけにはいかなかった。
 嫌いだと、そう言ってのける慧魅璃の瞳、ダークレッドに沈んだその瞳が潤んでいたのだ。
 今にも泣きそうな、その表情を前にして、期待を抱くなだなんて、到底無理な話。
「 …… 慧魅璃」
 カージュは、そっと触れた。慧魅璃の頬に。
 優しく触れるその手は、いびつながらも確かな愛情を孕んでいて。
 そのせいか、慧魅璃は、頬に触れるその手を拒むことができずにいる。
 いや、そればかりか、触れるその手に、そっと自分の手を添えようとすら ――
 バチッ ――
「いっ …… 」
 そう上手くはいかないというか。
 絶妙なタイミングで、入れ換わる。
 慧魅璃が裏で深い眠りにつくと同時に表に出た紅妃は、現れると同時にカージュの手を弾き飛ばした。
 電撃が走ったかのような痛みに眉を寄せつつ、自身の手を見つめるカージュは、さも、面白くないといった表情。
 どうして、いつも、こうなるんだよ。どうして、いつも、邪魔するんだよ。カージュの目は、そんな不満でいっぱいだった。
 そんなカージュを見やる紅妃もまた、何ともいえぬ表情。
 確かに、紅妃は、慧魅璃の身に危機が及ぶと判断した際、慧魅璃の意思を無視して表に出る。
 例え、慧魅璃が大丈夫だからと言っても。自分が駄目だと、不愉快だと思ったら、その意思を無視して表に出る。
 だが、今日は、そういった理由で表に出たわけじゃない。ただ単に、交代の時間がきてしまっただけ。
 要するに、これは意図したものではない。偶然というタイミングが重なっただけのこと。運がない。それだけのこと。
 カージュは、紅妃が自らの意思で表に出て、慧魅璃を無理やり裏に引っ込めたのだと思っているようだが、
 紅妃にその意思はなかった。確かに不愉快だとは思っていたけれど、今回ばかりは、慧魅璃の意思を尊重せざるをえなかった。
 いつものように、無理やり裏に引っ込めようとしても、慧魅璃がそれを頑なに拒んだから。
 一心同体、二人でひとつ。
 そういった身体になって、途方もない時間が経過したが、こんなことは初めてだった。
 強い自我、強い意志。慧魅璃の確固たるその想いの前では、紅妃すらも無力と化してしまう。
(これが、どういうことか、何を意味しているか、お前にわかるか?)
 わからないだろうな。お前らには。
 いつだって、自分のことしか考えない、愚かなお前らには理解できないだろうな。
 慧魅璃は、嘘をついている。
 嫌いだなんて、そんなこと、これっぽっちも思っちゃいない。
 その証拠を見せろと言うのなら、今、お前らが五体満足でいられている状態が、まさしくそれだ。
 お前は知らない。知らないんだ。慧魅璃が、お前たちを護っていること。その事実にすら気付かない。
 そこらじゅうに潜伏している悪魔。中には、目に見えない厄介な奴もいる。
 慧魅璃は、そういった厄介な悪魔から、お前たちを護っている。いつからなんて、そんなの覚えてない。
 ただ、お前の、お前たちの首。お前たちが自分で見ることのできない位置で、今も "印" が淡く輝いている。
 それは紛れもなく、慧魅璃自身が、お前たちのことを思って施したものだ。ずっと昔、気が遠くなるほど昔にな。
 あの頃から、慧魅璃は変わっちゃいない。身体は確実に大人びていくけれど、根っこはいつまでたってもガキのまま。
 成長するにつれて、誰もが忘れ、薄れていく、ガキならではの発想、無垢な気持ち。慧魅璃は、今もそれを持ち合わせている。
 だからだ。だからこそ、俺たちは、それが不快で堪らない。
 嫌でも目につくんだ。お前たちの首に施されたその印が、見たくもないのに目に入る。
 不快なこと極まりないが、事実として、お前たちの首にある印。それが、慧魅璃の本心なんだ。
 わからないだろうな。お前たちには。わかるはずがない。だから、俺たちも知らないふりをする。教えてやらない。
 教えたら、お前たちは大喜びするだろう? だから、教えてやらない。幸せな気持ちになんか、させてたまるか。
 お前たちを喜ばせるための代弁だなんて、虫唾が走る。死んでも御免だ。
「 ………… 」
 何も言わず、ただしばらくカージュを見やった後、その場を立ち去る紅妃。
 いつもなら、何やかんやと悪態をつくのに。何も言わず、何もせずに立ち去るだなんて珍しい。
 疑問を抱いたカージュだが、立ち去って行くその人物が "慧魅璃" ではなく "紅妃" だったがゆえ、追うことはしなかった。
「 …… 慧魅璃が本気で人を嫌ったら、それこそ、俺たちの出番なんてねぇんだよ」
 苦笑しながら、小さな声で呟いた紅妃。
 あまりにも小さなその声が、カージュに届くことはなかった。
 潤んだ瞳と渾身の嘘。
 嘘、ついてないか? と、そう問い正す無垢な臆病さをカージュが持ち合わせていたなら、或いは ――

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 The cast of this story
 8273 / 王林・慧魅璃 / 17歳 / 学生
 NPC / カージュ / ??歳 / クロノハッカー
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 Thank you for playing.
 オーダー、ありがとうございました。