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<東京怪談・PCゲームノベル>


「三島玲奈さんのお手伝い、させてください!」 その2



「すいませんけど、ソリのチャーターはしてないですぅ。これ、お手伝いじゃないですぅ」
 などと、物凄く嫌そうな顔でステラに言われた。
 町は大変なことになっているというのに、なんてのんきな娘だろう!
 三島玲奈は地団太を踏んだ。
 幻のB級グルメで賑わう港町は、今や貧乏神と悪魔の暴れまくる最低最悪な状況だというのに!
「あたしなんて生気を吸われちゃっているのよ!」
「へー」
 ステラは、興味などないようだ。
「ステラには見えないの? この町の有り様が!」
「…………ここまでひどくなってるのって、三島さんが原因じゃないんですか?」
「んなっ!?」
「能力の高い三島さんが遊びにきちゃって、しかも油断してたからこんなに悪魔? とか貧乏神? とかが力つけちゃったんじゃないんですかぁ?」
 半眼で言うステラは、少し上空に浮いたソリに乗ったままだ。
「自分で蒔いた種ですぅ」
「そう言われても、もう遅いじゃない」
「知りませんよぉ」
「……なんだかステラ、冷たくない?」
「……そう思うのなら、三島さんてそんなに鈍くないんですねぇ。
 それで? ソリでなにする気だったんですか?」
 玲奈や街の運気を吸い混乱したところに悪魔が現れ、町民たちを言葉巧みに悪の道へと引きずりこもうとしている……というのが今の状況だ。
 討伐を頼まれたものの、玲奈本人がすでに標的にされているので、あまり意味のない討伐依頼でもある。
 助っ人に呼んだのはサンタ便を営むステラ。報酬が気に入ればお手伝いをしてくれるという奇妙な金髪娘である。ちなみに本物のサンタともっぱらの噂だ。
「報酬は文化カツ。どうかしら?」
「文化カツってなんですか?」
 冷ややかに目を細めたステラに、不思議そうに玲奈は瞬きをする。
 食べ物に目がないステラにしては珍しい反応だ。
「幻のB級グルメなのよ、知らないの? 揚げたハムカツをソースと麺つゆのタレで食す幻の食べ物なの!」
「…………」
 少しは瞳が揺らいだようだが、それよりも顔をしかめたので彼女の理性が勝利したようだ。
「内容にもよります。何させる気なんですか?」
「貧乏神の好物であるミソを塗った布で誘い出すの。ステラのソリを使って」
「嫌です。おミソくさくなります」
 手綱を握り、ふよふよとソリの高度を徐々にあげていくステラに玲奈が困惑の声を向ける。
「あたしが凧揚げされて呼び寄せるって手でも構わないわ!」
「嫌ですぅ。なんでそんなことしなきゃいけないんですか。危ないことはしません」
 下手をすれば人殺しだと言外に言ってくるステラだったが、玲奈の身を少しは心配してはくれているようだ。
 つまり、危ないことに加担する気はないと言いたいのだろう。
「勝手に自分でやればいいじゃないですかぁ。
 そもそも三島さんはうちゅーせん持ってますし、自分で飛べるでしょう? なんでわたしを頼るのか意味がわかりません」
 指摘された通りだった。
「せ、生気を吸われてうまく飛べないの」
「…………」
 玲奈はいつもとは確かに違っていた。
 体はやせ衰え、華奢というよりはがりがりの肉体と表現したほうがいい。
 頬杖をつくステラはこちらを見下ろしてきた。
「とにかく、生気が戻ればいいんでしょう? そこは協力してあげますけど、ソリを変なことに使うのは許可できません」
「なによ! ステラのケチ!」
「ケチでけっこう。わたしがケチなのは今に始まったことじゃありません。
 無茶苦茶言うひとに付き合う義理もありませんし、わたし、これでも感情がちゃんとあるんです」
「? どういうこと?」
「なんでもかんでも引き受けるわけじゃないってことですぅ。
 わたしが一番嫌なのは」
 と、そこで区切り、ステラはムッとした表情に切り替わった。
「三島さんて、わたしを便利な道具みたいに扱うからイヤなんですぅ。食べ物与えたらイチコロなんて思わないでください。
 わたしにだって、ひとを見る目はあるんです」
 つまり、遠回しに嫌っていると彼女は言っているようだ。
 玲奈は驚いた。ステラにそんな風に思われていたとは知らなかった。
 確かに前回も彼女を振り回したが、最終的には喜んでくれたと思っていたのに。
 だがステラを便利のいい道具のようにここに呼び寄せたのは確かだ。しかも、絶対に引き受けると勝手にふんでいた。
 つまり……わがままに付き合いたくないとステラは言っているのだ。
 彼女は自分の白いサンタ袋から栄養ドリンクを取り出して渡してきた。
「はい、どうぞ。それで生気はおおかた元に戻ると思いますよ」
「なんでこんなの持っているのよ?」
「そんなの三島さんに関係ないですぅ。いらないなら返してください」
「…………」
 玲奈は困って手の中のドリンク剤を見遣った。
 ふと、気になってステラに尋ねる。
「これを返したらがりがりのままなのよね? ねえ、そうしたら、短パンルックで夏を凌ぐしかないのかしら?
 それともサマードレス?」
「突然なんですか?」
「女を捨てるズボンは嫌……。ステラ、助言をもらってもいいかしら?」
「…………」
 ステラの目が一瞬怒りに染まり、すぐに沈静して冷めた。
 完全に玲奈がステラの「地雷」を踏んだ証拠だ。
 ステラはふいっと視線を逸らして、「そうですねぇ」と冷めた声で呟く。
「三島さんの好きにすればいいんじゃないですか?」
「それでは助言になっていないわ」
「する気がないですぅ。世のズボン穿いて頑張ってる女性に謝ってくれたら考えてもいいですよ」
「なぜよ? ズボンなんて女を捨てるも同然じゃない」
「…………ズボンって言い方がまず古臭くてびっくりですぅ」
 呆れた、というよりは侮蔑の表情になっているステラは、軽く首を傾げた。
「工場で働いている女性の方や、危ないお仕事をされている方は足を怪我しないようにパンツ姿の方が多いですぅ。
 汚れやすいですし、ひらひらしたスカートなんて穿いてませんよね」
「え」
「そういう人たち全員を、三島さんは今馬鹿にしたんですぅ。本気で腹が立ちました」
「ステラ」
「女を捨てると思うなら、思う存分好きな格好しちゃってください。わたしは関与しませんから」
 どーぞ、と言って、ステラはしゃんしゃんと鈴の音をさせてそのまま急速に空へとのぼっていった。
 完全に怒らせてしまったようだ。
「パンツスーツ姿の働くOLさんを前に今のをもう一回言ってみてください。絶対に嫌な顔されますから。
 殴られないといいですね。それじゃ」
 ステラは旋回し、そのまま速度をあげて飛び去ってしまう。
 残された玲奈は、回復の栄養ドリンク片手に呆然と突っ立っていた。



「ん……?」
 たしか……ステラに助言を頼んで……それから……。
 どうなったっけ?
 怪訝に思いつつ、瞬きを数度繰り返した玲奈は、自分が草間興信所にいることに気づいた。
 幸いなのか、覗き込んでいるステラ以外に人の気配はしない。
「あれ……ステラ……?」
「はい、ステラですけど」
 顔をしかめるステラが離れ、玲奈はようやく起き上がった。
「あら? さっきまで一緒に貧乏神と……」
「びんぼうがみぃ? なに寝ぼけてるんですかあ? またどうせ、ハチャメチャな夢でもみてたんじゃないんですかぁ?」
「そういえば、ステラに手伝いをお願いしたのに珍しく頼みを聞いてくれなかったわね……」
「?」
「ソリのチャーターをお願いしたの! そのお礼に、文化カツを奢ると言ったのよ!」
「してませんし! 三島さん、自分の宇宙船あるのになんでわたしのソリを貸さなきゃいけないんですか。
 いやです」
 きっぱりとステラが言い放った。
「そもそもどうせろくでもないことにわたしのソリを使おうとしたんでしょう?
 いくら報酬があっても、嫌ですぅ。草間さんのお手伝いして、おにぎりもらったほうがマシですぅ」
「そこまで言う!?」
 唇を尖らせる玲奈にステラは冷ややかだ。
「以前だって、ハワイで無茶苦茶なことやろうとしてたじゃないですかぁ!
 なんとかわたしの助けでまともな方向へいこうとしましたけど、ガラじゃないんですぅ!
 三島さんの言うこと、はちゃめちゃすぎるんですぅ!」
「そんなことないわ!」
「そうですか。じゃ、今までみてた夢のこと教えてくださいよ」
 ぶすっとして言われ、玲奈は半ば信じられないことだが……夢だという内容を話して聞かせた。
 話を聞いたステラが唖然とする。
「し、支離滅裂な内容にまずびっくりですけど……」
「どこが支離滅裂なの?」
「なんでわたしが三島さんを凧揚げしなきゃいけないんですか! 危ないにもほどがありますし、夢の中とはいえ、わたしは相当渋ったはずですぅ!」
 その通りだった。
「そもそも三島さんは翼があるんですから、自分で飛べばいい話ですぅ。なんで無理やりわたしを夢に出すんですか」
「そこはステラのソリの機動力が必要だからよ」
「わたしのソリはタクシーじゃありません」
 腕組みしてそっぽを向くステラは相当ご機嫌ななめのようだ。温厚で泣き虫なステラをここまで怒らせるとは、どうやら玲奈の夢は彼女にかなり不愉快な思いをさせたようである。
 夢の中で激怒したステラのことを思い出し、玲奈は同じ質問をしてみた。
「ねえ、私ががりがりに痩せてしまったとするじゃない? そうなると夏を過ごす姿としてはどちらが適切かしら?
 短パン姿? それともサマードレス?」
「どっちでも好きな格好すればいいじゃないですか」
「でも女を捨てるズボンは嫌なのよね」
「……それ、ズボンって言い方古いですけど……。わたしがズボン穿いたら女を捨てることになるんですね。変な考えだし、古い考えですね三島さん。そんなふうに言うなら、勝手に好きな格好すればいいじゃないですか」
 冷ややかに見てくるステラは嫌悪の眼差しを向けてきた。
「同じ女性として、三島さんのそういう無神経なところ、ちょっとどうかと思いますぅ」
「そこまで言う!?」
「言わないとわからない人には言いますぅ」
 ステラは玲奈と会話をする気がなくなったのか、「それじゃ」と小さく挨拶して興信所を出て行った。残された玲奈は、奇妙な夢の内容を思い出してから、安堵した。
「よかった……がりがりになってなくて……」



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC
【7134/三島・玲奈(みしま・れいな)/女/16/メイドサーバント、戦闘純文学者】

NPC
【ステラ=エルフ(すてら=えるふ)/女/16/サンタクロース】

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■         ライター通信          ■
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 ご参加ありがとうございます、三島様。ライターのともやいずみです。
 ひとを凧揚げしたしするようなお手伝いはちょっと無理でした……。
 少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。