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<東京怪談ノベル(シングル)>


天神さんに竜来る

「たーまやー」
 人多く集まる天神さんの花火大会。
 川岸にも、近くの建物にも観客が集まり、少し優雅な夜にしたい者は屋形船に乗り込んだりもしていた。
 三島玲奈も屋形船に乗船していた者の1人で、他の参加者とご機嫌に宴会をしつつ、夜空に彩られた華を眺めていた。優雅な夜はそのまま幕を下ろすのかとおもいきや、そうは問屋が卸さないのが玲奈の日常なのである。
 船頭にいって花火をもっと楽しもうと移動した玲奈が身を乗り出すと、突然乗船客が悲鳴を上げ始めた。何があったのがはわからないが萎えるなぁ、なんて思っていると、
「お嬢さん、危ない!!」
と、声をかけられた。
 はっ、と玲奈が前を見るとそこには竜を模った津波があがっていて、玲奈に目をつけると口を大きく開いて襲ってきた。
 早めに他の乗客が声をかけてくれたので、間一髪のところでよけられた玲奈自身には怪我はなかったが、着ていた制服の裾を食いちぎられてしまった。
 これでは花火を楽しめないと憤慨する玲奈であったが、周囲の人間はそもそもそれどころではないだろうと一斉に心の中で突っ込んだ。


 竜津波のせいで花火大会は中止となり、当然屋形船は岸へ戻ることになった。玲奈はとりあえず、これでは帰れないと、一番近いビルの化粧室に入り、着替えることにした。
「まったく……どこの水神かは知らないけど、こんな日に出てくるなんて空気読めなさすぎね」
 ぷりぷり怒って着替えていると、ぼそぼそと微かに男性の声が聞こえる……様な気がしたが、玲奈は淡々と着替えを続行する。
『娘さん……』
 今度ははっきりと背後で聞こえたが、玲奈はやはりガン無視。
『私どものせいで申し訳ない。あの竜神は私達衢壌島運河に関わった者に怨みを持っている……』
「それで私が巻き込まれたとか、凄く意味がわからないわ。無関係じゃない。言い訳はいらないし、聞きたくないの。話を聞いてもらいたいのなら他の人のところにいってくれない?」
『他の方ではとても……これは着物を多く持っていらっしゃる貴女にしか話せませぬので……』


「――ということよ、ブレスさん。いざ戦国時代へ!!」
「いやいやいや、レイナさん。僕、意味がわからない」
 結局、庄屋という立場にあったらしいあの幽霊の事情を聞いた玲奈が着替え終わった後そのビルに呼び出されたのは同じく天神さんに来ていたらしい知人、ブレッシング・サーチャー(通称 ブレス)であった。
 庄屋の話によると、慶長に起こした治水工事の際、銅銭を掘り起こしたのが始まりだという。その銭を工事の資金として使ったところ、地域の水神である竜が自分の物を許可を取らぬうちに使ったと怒り、災害を起こしたところ、1人の武将に倒され、その恨みが未だに彷徨っているということらしい。
「ようはネコババした人間に怒ってらっしゃるんでしょ?何で僕もよ?」
「竜に銅銭を返して呪いを解くのが今回のミッションよ。すでに竜は死んでるから蘇生する必要があるの」
「なーる。で、蘇生の為に魔力を温存したいから攻撃魔法が得意で近距離もOKな僕に前へ出ろと」
「そーゆー事です。ほら張り切ってゲート開いてよ。庄屋さんにキーも貰ったし」
「Yes,mam。キーまで貰っちゃってるなら手伝うよ」

 庄屋から貰った時代を特定するキーで跳んだ先は戦国と江戸の境目とも言える慶長年号の時代。
 まず玲奈達の取った行動は、現代から持ってきた玲奈の衣装等を勘合貿易で売り払った。これは庄屋からこの時代は着物が高値で取引されており、銅銭を稼ぐのに一番嬉しい物だと聞いたからである。
 次に、竜を蘇生し、掘り起こした銭に、ちと色をつけて返す。
 ただ、これには1つ問題があり、竜を倒した武将の城へと乗り込み、討ち取った敵として飾られている竜骨を取ってこないといけないのである。
「いい?何度も言うけど近現代の武器はNG。私は弓とその命中率を補う魔法しか使えないからね」
「うん、それは何度も聞いたけどさ。レイナさん、その格好クノイチってやつ?」
 着ていた服までも売り払った玲奈は水着に胴衣を纏うという大胆な姿だ。確かにアクション漫画なんかに出てきそうな格好ではあるが、
「それ、間違った日本観だから」
と、ハリセンでブレスはたたかれてしまった。
 夜陰にまぎれてこともなく終わりたかったのだが、そうも行かないのは流石とでも言っておこう。慌しく足音が轟く城内にブレスは大きなため息をつく。
「どうやら正攻法しかありませんね、レイナ司令官?」
 なんておちゃらけつつも、彼女の愛刀・天狼を掲げて迫りくる武士の中央に突っ込んでいく。玲奈も弓を番えてその後に続き、何とか2人は天守閣にまでたどり着いた。
「ブレスさん、近くでいいからここから跳べる?」
「あー……、僕そゆのもあんま得意じゃないから本当に見つからない程度の近くにしか跳べないけど」
「それでももう1回同じ道を通って帰るよりはいいわ」
「だね。竜を倒す程の実力を持ったジョウシュサマと鉢合わせしてもめんどくさいだけだし、頑張るかなー」


 頑張ったブレスのおかげでなんとか近くの水場まで移動できた玲奈は早速竜骨に蘇生魔法をかける。よみがえった竜は骨の間のこともなんとなくわかっているようで、玲奈とブレスに頭を一つ垂れた。
「これ、ここの庄屋さんからの返金よ。利子も付いてるから末代まで祟ったり、未来で関係のない人の前に現れるなんてもってのほかだからね」
『承知した』
 こうして竜は住んでいた運河へと帰っていった。
「これで現代のショーヤさんも還ってるかな」
「多分ね。でも花火が堪能できなかった文句は言い足りないわ」
「まぁまぁ、タイムスリップって言う貴重な体験が出来ただけよしとしようよ」
 そう不機嫌な玲奈にブレスが苦笑すると同時に前方で轟音と共に華が夜空に咲き誇った。
「……今回はこれでいいことにするわよ」
「はいはい」
 玲奈たちは過去の花火を楽しんでから無事現代に戻ったという。