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<東京怪談ノベル(シングル)>


浸食する闇と絶望

(「‥‥これは、あたしの判断ミス‥‥」)
 海原・みなもは小さくため息を吐き出しながら心の中で呟いた。彼女は先日『獣の証』というレアではあるけれど呪われたアクセサリーを入手し、それを装備した。
 しかし、彼女にとって良い事も起きたけれどリスクが高すぎと言う事から『ログイン・キー』を使って解呪したのだが‥‥それは海原の身体を獣化が侵食すると言う形になってしまったのだ。
「あたしには見えないけど、獣化が進んじゃってるんだよね‥‥? ごめん」
 瀬名・雫はしゅんとうな垂れながら海原へ謝罪の言葉を投げかける。解呪の為に『ログイン・キー』を使ったらどうか、という提案をしたのは瀬名自身であり、彼女なりに罪悪感があるのだろう。
「雫さんは気にしないで下さい。あの時も言いましたけど、これはあたしの責任です」
 海原は苦笑しながら立ち上がり、ネットカフェ内にあるジュースを貰いに行こうと立ち上がったのだが、がくん、とその場に膝をついてしまう。
「みなもちゃん、大丈夫!?」
 慌てて瀬名が言葉を投げかけてくるが「大丈夫です」と海原は言葉を返し、壁に手をつきながら部屋の外へと出る。
(「‥‥予想以上に日常生活が困難になってきている‥‥」)
 海原は自分の足を見ながら心の中で呟いた。先日の一件で獣化が進み、海原を侵食した場所は足。しかも海原がプレイするキャラクターは猫であり、海原の足も猫のようになっている。
 そのため、普通の人間が歩くような大勢は少しばかり海原に影響を与えていた。
「まだ、今くらいだったら何とか大丈夫ですけど‥‥これ以上の侵食が続いたら、本当にあたしは‥‥」
 その後の言葉は海原は唇をかみ締めて飲み込んだ。口に出してしまえば恐怖が彼女を覆いこんでしまうような気がしたからだ。

「遅かったね、大丈夫?」
 部屋に戻ると瀬名が色々なサイトを見てLOSTについて調べてくれていた。
「あの、実はこの前の時に少女と黒衣の女性が白昼夢のように出てきたんです‥‥お互いに言っている事は全く逆の事なんですけど‥‥」
 2人分のジュースをテーブルへと置きながら海原が呟くと「どんな事?」と瀬名が言葉を返してくる。
「実は――‥‥」
 その時に彼女達が言った台詞をそのまま瀬名に伝えると、瀬名は少し難しい顔をしてしまった。
 まだその2人がどういう意味で言っているのかは分からないけれど、恐らく海原の性格上は少女の期待に応えようと動く事が瀬名には分かった。
「多分、少女の方がフルリアさんで黒衣の女性の方があすらさん、かなと思うんですけど‥‥」
「あたし的には、そのあすらって方が今の段階では信用するに足るかなと思う。実際にあたしが会ったわけじゃないけど、言葉を聞いてると、多分みなもちゃんの事を考えているのはあすらって方じゃないかなと思う」
 瀬名の言葉に「あたしのこと?」と海原が首を傾げて聞き返す。
「そのフルリアって方は自分の事しか言ってないじゃん。だけど、そのあすらって方はみなもちゃんに警告してるような感じがする」
 瀬名の言葉を聞き、2人の言葉を思い返して「あぁ、確かに‥‥」と海原は呟く。
「それに、気になる事はまだある。LOSTは何かを失くす‥‥じゃあ、みなもちゃんは何を失くして獣化してるのかな」
「あ‥‥」
 それは今まで海原が考えなかった事だった。獣化したこと、LOSTの異変に巻き込まれた事、それだけで手一杯で更に奥まで考える余裕がなかったとも言えるけれど。
「あたしが失くしたもの‥‥何を失くして獣化が進んでるのか、そんな事考えなかった」
「たとえば記憶がなかった場合なら、完全にLOST内に引き込む為だとも思える。だけどみなもちゃんの場合は心身の変化。しかも異変はみなもちゃんにしか見えないわけだし、何の目的でこんな事になってるのか分からないよ」
 確かに、と海原は言葉を返す。これで他の人にも異変が見えるならば話は違ってくる。だが異変は海原にしか見えない。
「謎は多くなるばかりで何も解決が見えてこない‥‥怖いね。みなもちゃんはどう考えてるの?」
 瀬名から問われ「あたし、ですか?」と目を瞬かせながら言葉を返す。
「あたしは‥‥」
 海原は少し強く手を握り「他人の意見を聞き流されつつも、自分の意思で判断して、すべての『幸せ』の在り方を求めたいです」と言葉を返した。
「きっと、あたしに他人を信じないとか他人の言うことを聞かないというのは無理でしょうから‥‥」
 苦笑しながら海原が呟く。きっと彼女が選んだのは何よりも困難な道なのだろう。どちらに従うでもなく、どちらの言葉を信じないでもなく、幸せの在り方を求めると言うのだから‥‥。
(「みなもちゃんらしいって言えばらしいんだけどね」)
 瀬名は海原の答えを聞いて苦笑しつつも「あたしも微力ながら手伝うから頑張ろう」と言葉を返した。
「あ、そうだ。前に言ってた塔に行って見る?」
「塔、ですか? そういえば前に言ってましたね。各階にボスが居てとか‥‥」
「そうそう、この前5階まで攻略したんだけど欲しかった武器が手に入ってさ! すっごいテンションあがったよ」
 瀬名の言葉を聞いて「へぇ、良かったですね」とにっこりと微笑みながら言葉を返す。
「結構レアアイテムとかアクセサリー、武器防具とか貰えるし、みなもちゃんも一緒に行こうよ。お試しフロアみたいなのが1階に辿りつく前にあるからさ」
 瀬名の提案に「そうですね、雫さんが手伝ってくれるなら心強いですし‥‥」と言葉を返す。
「そうと決まれば、早速準備に行こうよ。一度入ったらその階のボスを倒すまでフィールドに出る事は出来ないからさ。たま〜に塔の内部に商人が居る事もあるんだけど、まず滅多に出会わないから準備は万全で行かなくちゃ」
 瀬名の言葉を聞き、海原達はそれぞれのキャラクターを操作して道具屋で回復アイテムなどを購入する。
「あ〜、売り切れだ‥‥」
「売り切れ?」
「あ、うん。塔に入ったら別々の場所に飛ばされちゃうから、合流の札を買っておこうと思ったんだけど売り切れだった。塔に行く人が最近増えてるせいかもしれないね」
 少し残念そうに呟き「仕方ない、合流するまでは頑張ろう」と瀬名が言葉を付け足した。
(「最初は雫さんと一緒じゃないんですね‥‥少し不安になってきましたけど、大丈夫でしょうか‥‥」)
 海原は少しだけ不安を感じたけれど、とにかく頑張るしかないという結論にたどり着き、準備を終えて塔へと向かい始めたのだった。



END


―― 登場人物 ――

1252/海原・みなも/13歳/女性/女学生

NPCA003/瀬名・雫/14歳/女性/女子中学生兼ホームページ管理人

――――――――――

海原・みなも様>
こんにちは、いつもご発注をありがとうございます!
今回はいつもより少し納品が遅くなってしまい、本当に申し訳ございません!
諸事情で忙しくてシナリオを出すのが遅くなってしまっていて本当にごめんなさい!

今回の内容の方はいかがだったでしょうか?
少しでも気に入って頂ける内容に仕上がっていれば良いのですが‥‥。

それでは、今回も書かせて頂きありがとうございました!

2010/8/10