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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


+ 空に咲く花のように咲いた +



 八月某日。
 夏休み真っ盛りのある日曜日。
 常原 竜也(つねはら りゅうや)とセリス・ディーヴァルは自分達の通う学区にて催される夏祭りにクラスメイト達と行く約束をしていた。


 夏祭り当日、竜也を中心とした仲良しグループの男子組と合流する為、留学生であるセリスを加えた女子組が向かった先は商店街の入り口。
 そこから自分達の通う高校へと続く道に夜店が並ぶ。そして高校の校庭は本日解放され盆踊り会場となっているのだ。
 地域の祭りとはいえ夜には花火もあがる本格的なもので、多くの人が集う。
 参加する女子メンバーは皆事前に竜也の祖母とその友人に作って貰っていた浴衣を着付けて貰ってから、待ち合わせ場所に集合する事になっていた。


 そしてセリスは初めての夏祭りという事で少々緊張していた。
 日本文化を学びに日本にやって来ている彼女にとって今回の夏祭りはまず浴衣の着付けからして初めてなことだらけ。女子に手伝ってもらい銀色の髪の毛を持ち上げ、和柄の花飾りを簡易的に取り付けただけでも彼女にとっては初体験の事なのだ。
 周りの友達にあれやこれやと教えて貰いながら進む道は、まだ会場に着いてもいないのにドキドキとわくわくでいっぱいである。


「セリス、セリス」
「はい、なんでしょう?」
「んーっとね……――後で、竜也との時間、作らせてあげるよ」
「は、はい?」


 急に友人の一人である女の子に耳打ちをされたかと思えば、先ほどの言葉である。
 動揺を隠し切れずにあわあわとするセリスを見て女子は親指をぐっと立てた。どうやらセリスの想いに気付いていないのは竜也だけらしく、今はまだいない男子組もそれとなく協力してくれるとの事。自分の気持ちを周りに公表していないつもりでいたセリスにとっては思いがけない『協力』だった。


「私達は人混みでそっと離れるから、二人はそのままはぐれたふりをしてなよ」
「大丈夫。何かあったら携帯で連絡は取れるから、ね!」
「は、はいっ! が、がん、がんば、頑張りますぅ〜!」
「大丈夫大丈夫、そんなに慌てなくても安心して!」


 やがて屋台の列が並び始め、時間が経つにつれて人が多くなり始める。
 男子組と合流すれば当然その中には竜也の存在も有り、今更ながらセリスは友人達の言葉に胸が高鳴るのを感じた。あの協力の言葉があるからこそ余計に意識してしまっているのだろうと自分でも分かっており、なんとか肩の力を抜こうとするも上手くいかない。


 女子組は髪や小物などに気合を入れて自分を着飾り、男子もまたそれなりに身形を整えている様は新鮮さを感じてしまう。
 やがて意識的に好意のある男子と女子二人がペアになり「今年は手直しで済んだ」だの「俺は作り直しして貰った」など他愛ない会話をしつつのんびりと歩き始める。
 結果的に――いや、計画的に協力者の手によって無事竜也の隣を歩く事ができたセリスは、物珍しい日本のお祭りに目を輝かせていた。


「竜也さん、これ、これなんですか!? 凄くふわふわしてます〜っ」
「あれは綿菓子って言って、砂糖のお菓子。食べたい?」
「はいっ!」
「おっちゃん、これ一つ」


 すぐ外国人だと分かるセリスがはしゃいでも、周りの視線はとても温かい。むしろ可愛い少女がはしゃいでいる様は微笑ましかった。おまけと称して何かしらサービスをしてくれたり、遊戯関係なら丁寧にやり方を教えてくれたりと店側も優しい。
 次第にセリスの緊張も解け、竜也にあれやこれやと日本の祭りについて色々教えて貰いながら花火が上がる会場近くへと進んでいった。


 竜也は竜也で楽しげなセリスのその笑顔、特にその美しい横顔にドキリとさせられながら彼女が変な人間に目を付けないように気を配っていた、が――。


「あれ、アイツら何処に行った?」
「え」
「あー、こりゃはぐれたかな」


 不意に竜也が事態に気付いて口に出した言葉に一気に現実に引き戻される感覚をセリスは味わう。
 竜也が左右に顔を振ってクラスメート達を探す様をじっと見つめ、彼がセリスへと苦笑しながら視線を向けてくれば顔が赤らみそうになるのを必死に耐えた。
 竜也が携帯を取り出し、「はぐれた」友人達に連絡を取ろうとする様子を見つめる。此処で止めるのは可笑しい。でも二人きりでいるためには連絡は取ってほしくないと二つの思いを抱えてしまったのは恋する少女としては至極当然のこと。
 だが、竜也が通話ボタンを押す前に遠くで何か物音が上がった。


―― ドンッ!!


 一瞬にして空が明るくなる。
 セリスは腕に巻いてある細い銀の時計へと視線を落とし、竜也は無意識に彼女の手首を掴むと同じように時間を確認した。


「お、花火打ち上げの時間だ」
「そうみたいですねぇ」
「じゃあ、ま、連中に水を差すのも悪いし。暫くは自由時間っつーことで」


 通話ボタンへと乗せていた指を反らし、表示されていた番号を消去すると携帯を仕舞い込む。
 仕組まれた距離に気付かず、皆に気遣っている竜也をセリスは真摯に見つめる。それこそ空に咲く花火よりも真剣に。
 そして竜也もまた彼女へと顔を向ければ、花火の光に照らされ仄かに色付いた少女の顔が其処にあった。
 すぐに視線を花火へと向け適当に日本の花火の説明を口にするが、セリスを見る度に目があってしまうものだから、以前よりセリスと温かな交流をする度に胸の中に何かモヤモヤしたものが再発する。
 けれど不快ではない。
 決して不愉快ではない、それは……。


「あ、また綺麗な花火咲きましたね〜」


 彼女が笑う度に。
 彼女が竜也を見る度に。


「竜也さん?」
「あ、うん。そうだな。とても――綺麗だ」


 声を掛けてくれる度に湧き起こる『想い』。


 いつかセリスと竜也は冗談で言い合った。
 ボクシングに対する思いを竜也が語った時にセリスが言ってくれた小さな言葉。


―― 私がずっと側で応援してあげますね。
―― 介抱の方もずっとお願いできる?


 たったそれだけの無自覚なやり取りは「彼女にずっとずっと傍にいて欲しい」という心からだったのだと今の竜也ならば分かる。
 彼女にとっては意味のないことでも、もう竜也の中では深く支えになった言葉。


 いつか機会があったら彼女に想いを告げよう。


 大輪咲く夜空を見上げながらそう彼は誓う。
 セリスが自分をどう思っていてくれているかは分からないけれど、自分の思いを伝えずにいられないから。


 セリスもきゅっと自分の手を握り込みながら誓う。
 自分が竜也を想っている事はもうとっくに自覚していたから。
 この夏祭りをきっかけにもっともっと近づいていきたいから。


 空を見て、二人で笑えば幸せを感じる。
 二人は互いにすれ違うように、想いを深めていく。
 それはまだまだ未発展の恋。
 実るかどうか分からない――二つ分の恋心。


 だけどこの二人きりの時間が出来るだけ長く続けばいいのにと、互いに想っている事は伝わる事はなかった。







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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【8178 / 常原・竜也 (つねはら・りゅうや) / 男 / 17歳 / 高校生/プロボクサー/舞台俳優】
【8179 / セリス・ディーヴァル (せりす・でぃーう゛ぁる) / 女 / 17歳 / 留学生/舞台女優】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、夏祭りの発注有難う御座いました!
 本当に暑い季節になりましたね。でもやっぱり夏祭りは外せず!!
 今回は自覚編ということでやんわりと甘め描写でお届けさせて頂きますv