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<東京怪談・PCゲームノベル>


「奏磨彩さんのお手伝い、させてください!」



「りょ、う、り……ですか」
「はい!」
 元気よく言って頷いたのは、奏磨彩だ。彼女の目の前にはちまっとした金髪の西洋の少女が立っている。
 彩は街頭でビラ配りをしていた金髪少女――ステラにそう申し出たのだ。
 最初はこんな会話だった……。



「サンタ便ですぅ。どうぞ〜」
 そう言って、駅を出た時に渡された手作りのビラ。
 そこには大きく配達の「サンタ便」と書かれており、隅に小さく「依頼」について書かれていた。
 報酬は相談によるもので、なんでも手伝う、というものだった。ただし、おそらく彼女にも拒否権はあるだろう。
「あの、お願いしたい依頼があるのですが」
 そう、ビラを持って小さく申し出た彩のほうを、彼女はきょとんとして見て、動きを止めた。
「あぁ、はい。依頼ですね。どんな内容でしょう?」
「え……? あなたが受けてくださるんですか?」
 こんなに小さくて可愛らしいのに?
 彩の驚きの表情に、ステラは唇を尖らせる。
「こ、こう見えても16ですぅ」
「16……私と同じですね」
 微笑む彩に毒気を抜かれたのか、ステラはぽかんとしてからすぐに我に返った。
「えと、それでご依頼というのは……」
「あ、はい! あの、私に料理を教えて欲しいのです!」
「りょ、う、り……ですか」
 ステラの声が引きつり、目が泳いだ。心なしか、表情にかげりもみえる。
 しかし気づかない彩は言葉を続けた。
「はい! 私は不器用で、料理を作ると黒焦げにしたりしてしまい、自分のご飯ひとつろくに作れないのは……その、恥ずかしいと思いまして……」
「なるほど……」
「お家で練習しようと思ったのですが、台所に立つと心配性の家族に『危ないから自分がやるよ』と止められてしまうのです」
「そ、それはものすごい過保護ですねぇ」
 同情的になってきたステラは、彩をうかがってくる。愛くるしい碧眼の少女に、彩は照れてしまった。
「家族には悪いのですが、留守のうちにこっそり練習したいのです。場所は、私の家になりますけど……いかがですか?」
「りょ、りょうり……」
 またステラが口元をひくひくさせた。
 彼女は渋い顔つきになり、肩を落とす。
「そのぉ……わたし、そんなに料理上手じゃないので、ひとさまに教えるような腕前じゃないんですぅ……」
「どんな料理でもいいんです!」
「ど、どんな料理でも……?」
 ステラは彩の勢いに押され、半歩後退した。
「はい、どんな料理でも!
 あ、でもまずは簡単な料理だと嬉しいのですが……あなたの得意料理でも構いません」
「と、とくいりょうり……」
 またも顔が引きつっている。
 ステラは少し顔を俯かせ、左右の人差し指の先をもじもじと合わせた。
「あの……本当にまともに料理できないんですけど、いいんですかぁ? できるのって、インスタントとか、あと、もやし料理とか簡単なものですよ?」
「それで結構です!」
「はぁ……そ、それなら」
 彼女はぐっ、と拳を握ると顔をあげて彩を見つめてきた。
「あなたのお手伝い、させていただきます!」



 後日、ステラが彩の家へと訪ねて来た。
「ようこそ、ステラさん」
 玄関のドアを開けると、行儀よくぺこりと頭をさげたステラがいた。
「こんにちはですぅ」
「さあ、上がってください」
 招き入れると彼女は「はい!」と笑顔で言う。その笑顔が愛くるしく、彩は頼んで正解だったと思った。
 彩も充分に愛らしい容姿をしているのだが、あまりにも家族に過保護にされるので自覚が足りないのである。

 キッチンへと足を踏み入れたステラは、持ってきたエプロンをつけている。不思議なことに彼女は衣服どころかエプロンまで真っ赤だ。
(ステラさんは赤色が好きなのでしょうか?)
 気にはなるけれども、今は依頼した料理が先だ。
 ステラはこちらに振り向くと、まるで戦闘体勢が整ったように腰に両手を当てていた。
「では! 本日はわたしの最も得意とする料理、もやし炒めをご披露いたします! しっかりついてきてください!」
「はい、ステラさん!」
 彩も可愛らしいピンクのエプロン姿で応じる。
 冷蔵庫に二人は近づき、ドアを開けた。ステラが「うっ、まぶしぃっ!」と小さく洩らす。
 なにがどうまぶしいのかは、彼女の様子で一目瞭然だった。貧乏暮らしをしているステラにとって、彩の家の冷蔵庫の中は憧れの食材がたんまり入っていたのである。
「ぶ、ぶぶぶ豚肉とか! ヒッ! ソーセージとかハムとかベーコンまでありますぅ!」
「え? そ、そんなに変なことなのですか?」
「へっ、変!? いえ、変じゃないですよ? 変じゃないですとも!」
 明らかにステラの様子がおかしい。混乱しているように妙な笑顔まで浮かべていた。
 彼女は冷蔵庫から豚肉ともやしを取り出した。
「あとは塩と胡椒で味付けすればいいだけですぅ。簡単な炒め物ですぅ」
「へぇ」
 彩は興味津々でステラの動きを追った。
「……あぁ、豚肉と一緒にもやしを炒めるなんて……! くっ!」
「? あの、ステラさん……なぜ泣いているのですか?」
「うぅ! 違うんですっ。目にゴミが入ったんですぅ!」
「??? そ、そうなのですか」
「そうですぅ!」
 どうにもただ泣いているようにしか見えないのだが……。
「ひいぃ! しかもこの豚肉、しゃぶしゃぶ用なんですが……!」
「え? そ、それはすごいことなのですか?」
「たいそれた材料を使ってできるのがもやし炒め……なんて勿体無い! いやでも、依頼は料理ですから……。
 な、なんでもありませんよ、奏磨さん」
 とても「なんでもない」ようには見えないのだが……。

 用意されたのはフライパン、油、塩と胡椒、豚肉、もやし。以上だ。
 あまりにも材料が少ないので彩は不安になる。けれどもステラはやる気満々だ。
「きっと奏磨さんもできますよ! とっても簡単ですから!」
「そ、そうですか?」
「はい! なにせ、炒めるだけですからね!」
 ふふふんと鼻息荒く言うステラは早速調理を開始する。彩にフライパンを持たせた。
「? どうするんですか?」
「炒めます」
「はい?」
「ですから、炒めるんです。実践です!」
「ええっ! でも焦がしますよ!」
「ところがどっこい! わたしが傍で見てますから、そんなことにはなりません! この!」
 ふところから取り出した奇妙な笛をババーン! と彩に見せる。
「『お知らせアラァム』があれば、焦げそうな時に知らせてくれますぅ!」
「……それ、なんですか?」
「通販で買ったんですぅ」
 つうはん?
 不思議になりつつ、彩はステラの指示に従って、まずは油を使う。初めてのことなので、手が震えた。
「これでいいですか?」
「はい、オッケーです。火加減はいいですね? じゃあそうですねぇ……」
 遠くを見るような目をして、ステラはぼそりと洩らす。
「もやししか普段使わないので、どうなんでしょう……まぁいいか」
「え?」
「なんでもないですぅ! じゃあ豚肉を入れてください」
「もやしはいつ入れるんですか?」
「……頃合になったら適当に入れますぅ」
「ころあい?」
 よくわからないが、適当な大きさにステラが切ってくれた豚肉をフライパンに入れてみた。そして、箸で焦げないように焼く。
 これだけで料理ができるものなのだろうか? 心配になっていると、ステラが「のわっ!」と声をあげた。
「焦げますぅ! 火加減が強かったんですね。焦げそうになったら火の勢いを調節するんです」
「あ、なるほど」
「強火のままにしておくと絶対に焦げますから。あ、じゃあもやしを入れましょう」
 本当に適当な言い方であった。彩はまたもよくわからずに洗ったもやしを入れる。
「順調なので、他にも料理を幾つかお教えしますぅ!」
「本当ですか?」
「はい。簡単なのをあと2つか3つ。蒸し料理とか」
「わあ……!」
 喜びながらも、視線はフライパンから離さない。
 ただ焦がさないように彩は必死だった。



「出来ました!」
 食卓の上に並べられたのは豚肉ともやしの炒め物、それに野菜と豚肉を一緒に蒸したもの、あとは生春巻きだった。
 出来上がったものに彩は感動して「わあ!」と声をあげる。
 どれも焦がしていないし、きちんと出来ている。
 ステラは額の汗をふき、「ふぅ」と洩らした。
「よかった……もやし以外の食材を使うのは久しぶりだったのですごく心配しました……」
「え? ステラさん今なにか言いましたか?」
「え! いえ、なんでもないですよ?」
 引きつり笑いを見せるステラだったが、彩はそれどころではない。
 こんなにきちんと料理を作るのは初めてだったからだ。味付けはほとんどしなくていい料理だったとはいえ、それでもこれはかなり嬉しい。
「あの、ステラさん……依頼のお礼はこの料理になるんですけど……それでも大丈夫でしょうか?」
「へえ? そ、そうだったんですか?」
「い、一緒に、ど、どうでしょう?」
 頬を少し染めて俯きながら言う彩をぽかんとした顔を見てから、ステラはテーブルの上の料理を眺めた。よだれが垂れそうになるのを彼女は我慢する。
「よ、喜んで!」
「……あの、ステラさん、顔がすごい引きつってますけど……」
「これは喜びの表情ですよ?」
 そうは見えないというか……喜びの頂点に至りすぎて、超越してしまった表情だった。
 だがすぐに彼女は悔しそうに唇を尖らせた。
「こんなことなら、もっと高そうな食材使えば良かったですぅ。普段の貧乏性が出てしまいました〜……」
「え? 声が小さくて聞き取れなかったんですけど、なにか言いましたかステラさん?」
「へえ? なんでもないですぅ」
 アハハとステラが笑うので、彩は気にしないことにした。
「ではでは! いただきましょう、奏磨さん!」
「え? 今すぐですか?」
「当然ですぅ! ささっ、座って座って!」
 無理やり背中を押され、テーブルにつかされる。向かい側の席にはステラが座った。
 二人は仲良く食事を開始する。
「お、美味しいですステラさん!」
「うっ、ほ、本当ですね! これはわたしもびっくりですぅ!」
「………………え?」



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC
【8378/奏磨・彩(そうま・あや)/女/16/高校生】

NPC
【ステラ=エルフ(すてら=えるふ)/女/16/サンタクロース】

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■         ライター通信          ■
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 ご参加ありがとうございます、初めまして奏磨彩様。ライターのともやいずみです。
 ステラの料理教室、いかがでしたでしょうか?
 少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。