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<東京怪談ノベル(シングル)>


牙を折る者 第3話

とある山中にある屋敷の地下。その薄暗い部屋の中で男と女が対峙している。
お互い服のあちこちが破れ、血の染みがいくつも出来ている。女の方は破れた部分から覗く皮膚に傷が付き、今もなお血が流れ出している。だが、男の方には傷跡らしきものはいくつもあるものの、この戦いで付けられた、新しい傷は一つも見受けられない。
男が着用している服から見ても、無傷であるはずが無い。だが、現に男は無傷の状態で立っている。何故?

「何故・・何故あなたは平然と立っているのですか?あの傷は致命傷のはず。たとえ立つことが出来ても、このような力が残っているとはとても思えませんわ!」
血を流している女、特殊自衛隊に所属し、鬼鮫を暗殺するためにこの屋敷へ潜入していた水嶋・琴美(8036)もそれが分からず、ターゲットである鬼鮫に思わず質問をぶつけていた。


「はっ、情報収集が甘いんだよ。俺はな、トロールの遺伝子を宿してんだ。火傷だろうが何だろうがすぐに再生できるんだよ」
鬼鮫は琴美に刀の切っ先を突きつけながら言い放つ。
「そ、そんな・・・・」
琴美はそれを聞いて絶句する。運が悪かった。琴美はそう思うしかなかった。
だが、これは運が良い悪いではない。自身の力に絶対の自信を持つことは良いことだろう。だが、それが過信につながり、鬼鮫の能力をきちんと調べることを怠り、た今の状況を生み出してしまった。
だが、彼女にそれに気づく時間も、気づかせてくれる人もいなかった。

「さっさとくたばりやがれぇ!」
鬼鮫はショックを隠し切れていない琴美に、そのショックから立ち直る隙も与えずに斬りかかって来た。
いくつもの傷でまともに立つことすらままなら無い琴美は、刀の直撃だけは避けながら何とか反撃の一手を考える。
だが、剣戟に集中してしまうとそれ以外の攻撃に対して反応が鈍くなる。手傷を負っているなら、それはさらに顕著になる。
鬼鮫は、刀による攻撃を囮に幾多の格闘攻撃を織り交ぜ始めた。刀による攻撃だけで既に防戦一方だった琴美に、それらを避ける術はなく、ほぼ全て直撃してしまう。吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる琴美。
あまりの痛みに気が一瞬飛んでしまう。その隙を鬼鮫が逃すはずもなく、一瞬のうちに間合いを詰めると刀で琴美を切り刻む。

両膝から落ち倒れこむ琴美。やられたっ!そう思い何処を斬られたのか確認しようとする。だが体に新しい痛みが走っていない。体を起こして確認すると体にダメージはなく、代わりに戦闘用特殊素材で作られていたメイド服が切り刻まれ、全て屑切れとなっていた。
「な・・なにを・・」
下着姿となった琴美は、何とか落とさずにすんだナイフを握り締め、片膝を突いたまま鬼鮫を睨みつける。
「はっ、気が変わったんだよ。てめぇが何処の指図で俺を襲ったのか吐かせてやろうと思ってなぁ」
そういい、刀を鞘に収める鬼鮫。

完全に舐められている。自身の力に絶対の自信を持っていた琴美にとって、下着姿に剥かれたことよりも、これ以上の屈辱は他にないだろう。
「ふ、ふざけ」
激昂し、真正面から斬りかかる琴美。だが、最初に襲ったときよりも遥かにスピードが落ちており、鞘に収められたままの刀に肩を打ち据えられてしまう。
「うぐっ」
真上から打ち据えられたため、床に這い蹲る形になってしまった琴美。そんな琴美を鬼鮫は容赦なく追撃する。

「この程度の力で俺を殺そうなんざ甘いんだよ!あぁ!?」
「がはっ」
再び壁まで蹴り飛ばされてしまう琴美。何とか落とさずにすんでいたナイフも今の蹴りでとうとう落としてしまい、カラカラと音を立てて遠くに転がっていく。壁際まで飛ばされた琴美も、腹部を思い切り蹴られた痛みでなかなか立ち上がれない。その場で腹部を抑え、悶える琴美。きめ細かな白い肌のいたるところに切り傷ができ、打撲により青く変色している。のた打ち回るごとに豊かな胸も一緒になって揺れているが、その胸を覆うブラは血に染まり、どす黒く変色している。無論、下も同様に血が染み、ガーターベルトで止められたニーソックスは太ももから膝下にかけて変色している。無論、長く艶やかな黒髪にも血がこびりつき、先ほどまでの艶がまるでなくなってしまっている。

「ったく、マジで何でこんな奴が・・ちったぁ腕の立つ奴をよこしやがれってんだ」
のた打ち回る琴美を見下ろし、鬼鮫が吐き捨てる。

何とか痛みが治まり立ち上がろうとすると、不意に嘔吐感が襲ってきた。それに耐え切れなくなり吐き出すと、吐瀉物が赤く染まっていた。口の中には血の味が広がっている。
「ごほっごほっ・・うぅ・・・・」
四つんばいの状態で自身が吐き出した鮮血を見つめていると、視界に革靴が割り込んでくる。そのま前上を見ると、怒りと退屈さが混ざり合った目をした鬼鮫が目の前でかがんでいた。

「無様だな。さっきまでの威勢のよさはどーしたよ?えぇ!?おらっ、立ちな!」
琴美の髪を掴み、無理やり体を起こさせる鬼鮫。

「もう抵抗する気力も無いってか?あ〜?」
髪を掴んだまま顔を近づけてくる鬼鮫。
「ま・・まだ・・まだ・・ですわ・・その、汚い・・顔を・・近づけない・・で下さい。息が臭く・・て、たまりま・・せんわ」
そう言い返し、髪を掴まれたまま投げ捨てられる琴美。
「はっ、いい度胸だ。だが、そういう台詞は力のある奴が言うもんなんだよぉ!」
琴美が立ち上がるのを待ち、再度襲い掛かる鬼鮫。だが、もはや琴美には避ける体力すら残されていなく、圧倒的な手数の前に殆どなすがままである。
しかし、琴美は諦めない。熾烈な攻撃を受けながら、先ほど落としてしまったナイフが転がっていった方へ、少しずつ戦場を移していく。攻撃に集中している鬼鮫に、それに気づいた様子は伺えない。

『ありましたわ』
視界の端にナイフが映り、心の中でつぶやく。直後、鬼鮫の攻撃でナイフのあるところに吹き飛ばされる。
攻撃の痛みで苦しみ倒れこみながらも、ナイフを体で隠し、鬼鮫の目に映らぬようにする。
「まだまだつった割りに何も抵抗してこねぇじゃねぇか。いい加減終わらせるぞ」
鞘に収めたままの刀で肩を叩きながらゆっくり近づいてくる鬼鮫。目の前まで鬼鮫が来たとき、琴美はナイフを拾い鬼鮫の心臓を一突きにする。

いかに再生能力があろうと、一撃で絶命させてしまえば関係ない。血が鬼鮫の足元に一滴、また一滴と滴る。勝った。必要以上に苦戦。いや、死ぬ間際まで追い詰められたがどうにか任務を果たせた。そう思った。だが・・
「残念だったなぁ。心臓まで届いちゃいねぇよ」
上手くいっていなかなかった。鬼鮫はナイフが刺さる前に左腕でガードしていたのだ。恐らく、琴美本来のスピードであればガードは間に合わず成功していたであろう。だが、傷つき倒れる寸前の琴美のスピードでは、鬼鮫のほうが一枚も二枚も素早かったのだ。


琴美の敗北が近づいてきた・・