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<東京怪談ノベル(シングル)>


牙を折る者 第4話

薄暗い部屋の中、一人の男の胸に一人の女がもたれかかるように立っていた。
もたれかかっている女は下着姿であり、下着の以外に身に着けているものと言えば、ガーターベルトで止められたニーソックスとブーツだけである。
彼女、水嶋・琴美(8036)は息も絶え絶えに男に体を預けているように見える。

だが、よく見ると琴美の体は傷だらけであった。本来ならば男女を問わず思わず見とれてしまうであろう彼女の肢体は、酷く無残な状態になっていた。
腕や脚には多数の切り傷が、腹部は打ち身による内出血だろうか、青黒く変色してしまっている。黒く艶のあった長髪にも血がこびり付いており、辛うじて難を逃れている下着も血を吸い込んで変色してしまっている。
これらの傷は全て目の前の男。鬼鮫(NPCA018)によって付けられたものであり、服を着ていないのも鬼鮫の攻撃で切り刻まれてしまったためである。

琴美は、鬼鮫を暗殺するため、山中にある屋敷へと潜入し、この地下室まで潜り込んでいた。だが、己の過信から琴美は、今、窮地に立たされていた。


「残念だったなぁ。心臓まで届いちゃいねぇよ」
鬼鮫は琴美を突き飛ばすと、胸をガードした左腕に刺さったまま残っていたナイフを抜き取りその場で叩き壊した。ナイフという栓を失った傷口から血が溢れ出すが、鬼鮫のトロールの遺伝子を宿すが故の能力によりすぐに再生していく。十数秒も立つと、傷は綺麗に無くなってしまっていた。

「舐めた真似しやがって。もっと甚振られないと分かんねぇみたいだなぁ!」
目の前でナイフを壊され、琴美の武器は完全に失われてしまった。今までの幾多の攻撃により体力も尽きかけている。最後の望みを賭けた今の攻撃も、体力の低下から失敗してしまった。
今まで傷一つ負うことなく任務を終え、それから自身の力に絶対の自信を持っていたが、鬼鮫の攻撃を全身に浴びてしまい、服も切り刻まれ、今こうして突き飛ばされしりもちをついてしまっている。

だが、諦めるわけには行かない。せめて、鬼鮫の能力のことだけでも持ち帰り、再び暗殺の機会を伺わなくてはならない。その一心で琴美は辛うじて意識を保ち、この状況から脱出する術がないか考える。
『この屋敷で働いている他のメイド達はは、鮫が所属している組織となんら関係はありませんでしたわ。鬼鮫が一般人には手を出さないことは、屋敷に潜入しメイドとして働いている間に分かりました。ならば、なんとかこの地下室から逃げ出し、一般人が近くにいるところに出ることさえ出来れば、鬼鮫は手を出せず逃げることが出来るはずですわ』

だが、一番の問題となるのがこの地下室からの脱出であろう。鬼鮫がそれを感嘆に許してくれるはずも無く、何か隙を作らないと出られそうに無い。


「んだぁ、その目は。気にいらねぇなぁ。弱いくせによぉ!」
尻餅をついたままの状態で琴美は鬼鮫のことをじっと見据えていた。そのまま壁に手を付いて立ち上がるが、鬼鮫に隙は何も見当たらない。そして、琴美が立ち上がるのを待っていたかのように鬼鮫はまた琴美を襲う。
琴美も必死に逃げようとするが、体力が落ちてスピードが落ちた体では鬼鮫からは逃げられない。髪を掴まれ、引き寄せられてしまい、また腹部に痛烈な一撃を受ける。
「う、あぁ!」
鬼鮫はこの戦闘の最初から一切琴美の顔を狙っていない。女の顔は傷つけないとかそういうことではなく。顔を狙うと意識を感嘆に失ってしまうからで、腹部なら、意識を保ったまま地獄の苦しみを与えられるからである。

「いい声で鳴くようになってきたじゃねぇか。もっと鳴きな!そして泣いて許しを請え!!何処から来たか言えば逃がしてやるからよぉ!!!」
だが、何処から来たのかだけは言うわけにはいかない。言えば仲間達を危険にさらすことになる。」
「さ・・さぁ・・何の・・こと・・ですの・・」
「いぃ度胸だ。だったらもっと痛めつけてやるまでよ!」
琴美が素性をはくことを拒むと、鬼鮫は二発、三発と最初と同じ、いや、もっと威力のこもった拳を琴美の腹部にめり込ませていく。
「う、ごほっ・・うぅ・・・・や、やめ・・」
既に青黒く変色していた腹部は、さらにその面積を広げ腹全体に及んできた。内臓が傷ついてしまったのだろう、殴られるたびに琴美の口からも血が噴出す。

最初のうちは殴られるたびに喘ぎ声を出していた琴美だが、直に声を出す気力も失ってきた。
鬼鮫もそれを確認すると、部屋の隅へと琴美を投げ飛ばす。

「かはっ」
何度目か分からない吐血。口から大量の血を吐き出すと、琴美は今自分がいる位置が地下室の出入り口のそばだと言うことに気づく。鬼鮫が投げ捨てた位置が、たまたま扉のそばだったのだ。
このチャンスを逃したらもう自分の生きる道は無い。鬼鮫がゆっくりとこちらへ近づいてくる。
ただ逃げようとしても鬼鮫は自分を逃がしてくれないだろう。ならば、例え再生されたとしても、何か鬼鮫に傷を与えてその隙を付く他無い。ならば・・

朦朧とする意識の中、琴美は何とか考えを纏める。その直後、鬼鮫に首を掴まれ持ち上げられてしまう。
「どうだぁ?もう十分痛い目見ただろ?いい加減吐いちまいな」
そのまま琴美の顔に自分の顔を近づける鬼鮫。その瞬間、琴美は鬼鮫の両目を指で思い切り突き刺した。

「ぐあああああああああああ」
いくら再生できるとはいえ、痛いものは痛い。それが、人体の弱点ならばなおのことである。
琴美を掴んでいた腕からも力が抜け、琴美は鬼鮫の腕から逃れる。必死の力を振り絞り、ドアへと手をかける。だが、
「糞がぁ!」
鬼鮫が鞘に収めたままの刀を横薙ぎに振っていた。狙いは闇雲だったのだろうが、鬼鮫に背を向ける形となっていた琴美は。──背を向けていなくても避けられなかっただろうが──強かに背を打ち付けられ、ドアとは違う方向へ吹き飛ばされてしまう。しかも、今の一撃でブラのホックが壊れてしまった。吹き飛ばされ床を転がるうちに完全に脱げ、豊かな胸を隠すものが何もなくなってしまった。

「そん・・な・・」
背に受けた攻撃の痛みに悶えながら琴美は絶望する。出入り口から遠ざかってしまい、ドアの目の前には目を押さえ苦しみながらもその目を再生させている最中の鬼鮫がいる。もう指一本動かす力も残っていない。琴美は完全に手詰まりとなった。

「ふ、ふざけやがってぇぇぇ!」
両目の再生を終えた鬼鮫の目には、先程より更に強い怒りが満ちていた。
抗う力の残されていない琴美に近寄り、出入り口とは真逆の壁へと蹴り飛ばす。途中、先程壊されたナイフの破片の上を転がり、そのときに切れてしまったのだろう、唯一残っていた下着も裂け、下半身もむき出しになってしまう。
琴美は暗殺者としてだけではなく、女性としての尊厳も奪われ、完全に意識を失った。


「けっ、とうとう意識を失いやがったか。畜生には似合いの格好だがな。気が付いたら拷問して素性を吐かせてやる。」
琴美の傷だらけとなった肢体を舐めるように見ると、鬼鮫は琴美のすぐ後ろの壁を蹴飛ばす。すると、隠し扉が開き、更に暗い部屋が奥へと続いていた。その中へと琴美の髪を掴み引きずっていく。


その後、琴美の行方を知る者は誰もいない。