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<東京怪談ノベル(シングル)>


見えるモノと見えないモノ

(「あたしは‥‥何を失っているんだろう‥‥」)
 海原・みなもはベッドに横たわりながら自分の手足を見る。彼女には自分の手足が猫の前足と後足に見える――が、他の人間には海原の手足は普通に見える。
「自分しか認識出来ないって‥‥良かったのか悪いのか‥‥」
 はぁ、と小さなため息を吐きながら海原は起き上がり、ネットカフェに行く為の準備を始める。普通ならば大して時間も掛からない準備なのだが、変化してしまった手足のせいで倍以上の時間がかかるようになってしまったのだ。
「雫さんにも迷惑ばかりかけて‥‥でも、1人だったらきっと耐えられなかった」
 ぽつり、と海原は言葉を漏らす。自分だけが変化していく、他人には理解してもらえない異変。
 もし、自分1人で悩んでいたら――と思うと海原はゾッとした。
「靴とか手袋は大丈夫なのでしょうか‥‥」
 海原は寒くなっていくこれからの季節の為に取り出しておいた手袋を着けてみようとするのだが‥‥びり、という音と共に無残な姿になってしまった手袋が視界に入ってきた。
「爪に引っかかって‥‥靴も上手く履けないし‥‥靴下のまま出て行かなくちゃいけないんでしょうか」
 海原はため息混じりに呟く。手袋と同じように靴も爪が引っかかってしまい、上手く履く事が出来ないのだ。仕方なく海原はサンダルを履いて外に出る事にした。持っている靴の中で一番まともに履けそうなのがサンダルだったからだ。

「おっそ〜い! みなもちゃん遅刻だよ〜」
 待ち合わせ場所のネットカフェに海原が到着すると既に瀬名・雫は来ており、壁に背を預けながら海原に言葉を投げかけてきた。
「ごめんなさい、ちょっと色々と準備に手間取ってしまって‥‥」
 苦笑しながら海原が呟くと「冗談、別に怒ってないし。早く中に入ろう」と瀬名は海原の手を引っ張りながらネットカフェの中へと入っていったのだった。
「相変わらずあたしには何も見えないんだけど、手とか猫のまんまなの?」
 瀬名が小さな声で問いかけてきて「えぇ、全く戻る気配はありません」と海原も小さくため息を漏らしながら瀬名に言葉を返した。
「考えたんだけど、みなもちゃんは『何』を失っているのかな?」
 瀬名の言葉を聞いて海原は少しだけ驚く。何故なら『何』を失ったのかなど、海原自身も考えていた事だからだ。
「外見が猫の身体に変わっていくって事から『人間の身体』かなと思ったんだけど、それならあたしとかにも見えるだろうし‥‥本人だけにしか見えないなんて、あんまり意味のある事にも思えないし‥‥」
 うーん、と瀬名は唸りながら首を傾げ、一生懸命海原が元に戻れるようにと考えている。
「ねぇ、逆転の発想なんだけど‥‥失っているんじゃなくて、得ているんじゃないかな?」
「得ている?」
「そう、猫の獣化だよね? みなもちゃんのPCは猫タイプ。だからもしかしたらみなもちゃんが失っているんじゃなくて、人間から遠ざかっているんじゃなくて――LOSTの住人にみなもちゃんが近づいているのかもしれないよ」
 瀬名の言葉に海原は大きく目を見開き、言葉を失う。
「結果として状況は同じなんだけど、LOSTって言葉にだまされすぎかもと思っただけだし。ログイン・キーを使った事で獣化が進んだわけだし」
「ログイン、キー‥‥もしかして、LOSTのPCと自分を繋ぐための、鍵だとしたら‥‥?」
 海原が呟いた瞬間、くらりと立ちくらみがしてがくりとその場に膝折れる。
「みなもちゃん! 大丈夫!?」
 瀬名が慌てて駆け寄るが、瀬名の言葉など海原の耳には届いていなかった。もし瀬名の言う通りならば、ある程度辻褄の合う事がある。現実世界を離れたからこそ戻るすべがなく闇の街に集まる住人。現実世界とLOSTを繋ぐログイン・キーを持たぬ為に戻れない。
「雫さん、今まで私がログイン・キーを使った時に影響とかありましたか?」
「え? 別になかったはずだけど‥‥」
 そうですか、と言葉を返し海原は再び考える事に戻る。つまりログイン・キーは選んだ持ち主にしか効果を示さない。
(「でも、周りの環境には影響が出ている‥‥あたしは靴が履けなかった、手袋がつけられなかった‥‥」)
「つまり、持ち主の周りには影響するけれど、他の人物には影響を及ぼさない。どういうシステムなのかな?」
 その時だった、個室のパソコンが勝手に起動し始め、カタカタと文字を打ち始める。

『そう、そうやってよく考えなさい。貴方の命は等しくアレと天秤にかけられているのだから』

 それだけ文字が表示されるとぷっつりと消えてしまい、再びシンとした空気が流れ始める。
「みなもちゃんの命が、等しく天秤にかけられている? アレとって‥‥一体何なの?」
 瀬名が呟く、謎を解き明かす為に検証を始めたはずなのに謎が深まっていくばかりで、海原は頭ががんがんと痛むのを感じていた。


END



―― 登場人物 ――

1252/海原・みなも/13歳/女性/女学生

NPCA003/瀬名・雫/14歳/女性/女子中学生兼ホームページ管理人

――――――――――

海原・みなも様>
こんにちは、いつもご発注いただき、本当にありがとうございます!
今回はまたまた謎が深まっていくばかりの内容になってしまい、ごめんなさいっ。
内容の方はいかがだったでしょうか?
少しでも気に入って頂けるものに仕上がっていれば幸いです。

それでは、今回も書かせて頂き、ありがとうございました!

2010/9/16