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<東京怪談ノベル(シングル)>


夢見る未来は、自分次第
 膠着していた戦況もやっと一段落。
 あたしは、ファングの顔を盗み見る。
 ファングは、傭兵である。戦闘以外にしか興味がなくて、それ以外にはあまり関心を持っていない。寝食でさえ、雨露が凌げ、空腹が満たされればそれでいいみたい。
 でも、他人の価値さえも戦って面白いかという彼は、すごく純粋だと思う。
 あたしは、いつしか…ファングを視線で追うようになった。思考が彼を埋め尽くしていた。つまり、ファングに恋をした。
 あたしは、不躾にならない範囲で彼を見る。
 ファングは、午後三時の遅い昼食を取ろうというところ。腹が減っては戦は出来ぬということなのだろうけれど、食べることに興味がないファングの料理は、空腹を満たすことを目的としているだけで、美味しく食べようとする意味合いはない。
 手際は悪くないけれど、ただ、食べるだけなんて勿体無いわ。
「ちょっと、貴方」
 あたしは思わず、その背中に声をかけていた。
 ファングが振り返ると、紅の瞳が何だとばかりにあたしを射る。
「何の用だ、貴様」
「その料理は何?ガサツすぎるわ」
「大きなお世話だ」
「こんな時だからこそ、食事は大事でしょう?」
 口に入ればそれでいいとでも言わんばかりのファングはあたしに背を向け、調理を再開させる。
どうやら平行線を感じ、会話を終了させたみたい。
 ファングは芋、人参、戦闘の巻き添えになって死んでいった小動物の肉を無造作に切り分けていく。武骨にも程があるわ。
「そんなんじゃ栄養もつかないわよ、ファング。幾ら戦闘中だからと言って、食べるものはしっかり食べなきゃ」
「……」
 ファングの答えはない。けど、全く無視という訳ではなく、あたしが声をかければ、手を休ませず、こちらへ視線を寄越す。まるで、何かに気づいてほしいみたいに。
「ファング、あたしの話、聞いてる?」
「余計なお世話だ。俺の挙動に無駄は無い」
 ファングの言葉があたしの言葉を遮る。
 ねぇ、ちょっと、そういう言い方はないんじゃない?
 あたしは、ファングが心配だからそう言ってるのに…。
 でも、そういうファングだからこそ、あたしは好きなのかもしれないと思うと、何か、悔しい。
 あたしがムッとしたのを感じ取ったのだろう、ファングは素っ気無く言葉を続けた。
「戦場ではぶつ切りが合理的なんだよ。…解るだろう?」
 あたしは、そう言われ、ピンと来た。
「そうね、火の通りが良く、無駄がないわ」
 あたしの言葉にファングはニヤリと笑い、彼が気づいてほしい『それ』に気づいた。
 ああ、そういうことだったの。
 でも、ファング、作る料理の説明まで、『無駄』、はないんじゃない?
 危うく気づかないところだった。
「じゃあカレーにしましょう。海軍ではカレーは必須食なのよ。知ってるでしょ?」
 あたしはファングの隣に立つと、彼を手伝うべく、まずは水道で手を洗う。
 ファングは調理の手を止めず、どこか楽しそうにあたしに言葉を返す。
「…ああ、香辛料は塩分過多を防ぐんだ。そうだろ?」
「ええ、そうよ」
 あたしがファングを見つめて微笑むと、ファングもあたしの微笑を受け止めるように微笑んだ。いつもの不敵な笑みとは違う、素の微笑。少し、ファングの傍に近づけたような気がする。
 ファングは、決してあたしの気を惹くような会話はしない。
 でもね、あたしは、それがいいの。
 あたしのご機嫌取りをするような男なら、願い下げ。
 どこまでも純粋なファングだから、あたしは好き。
「戦闘の合間だが、悪くない時間だ」
「あら、奇遇ね。あたしも、同じことを思っていたわ」
 あたし達は、二人肩を並べて他愛ないお喋りをしながら、カレーを作る。こうしていると、何だか、結婚したばかりの若い夫婦みたい。ファングも悪くないって言ってくれるのもあって、実は、勘違いしちゃいそうな位に嬉しい。
 あたし達は平穏とはあまり縁がないけれど、でも、少しでもファングとこんな時間を過ごせたら、なんて、図々しいかな?
 出来上がったカレーを盛り付けると、あたし達は向かい合ってテーブルにつく。
「玲奈」
 ファングが短くあたしの名を呼ぶ。
 何?と応じようとした口に、ファングがスプーンでカレーを一口、あたしの口に放り込んだ。
 ?!
 真っ赤になりながらも、口の中のカレーを咀嚼するあたし。
 あたしが、ごくりと喉の奥に仕舞い込んだのを見て、ファングはニヤリと笑った。
「奇遇だな。俺も、同じことを思っていた」

 その瞬間。

 頭に鈍い衝撃を喰らって、あたしは目覚めた。
 顔を上げると、そこは普通にオフィスだ。
 呆れ顔の上司と視線がぶつかり、あたしは今まで自分が居眠りしていたことに気づいた。
 そっか、夢か、そりゃそうだよね。夢じゃなきゃ、あそこまで展開がスムーズじゃないよね。
 あたしは上司に謝罪すると、ファングの背中を見る。彼がこちらに振り向く気配はない。振り向かれても、あんな夢を見た直後だから、意識しちゃうし、ちょうどいいんだけど。
─奇遇だな。俺も、同じことを思っていた。
 あの先は、何だったんだろう。
 知りたくもあるし、知らないままでいいとも思う。
 だって、あれは夢だったけど、夢を現実にするのは、あたし次第じゃない。
 だから、全てを夢で見なくていい。
 出来ることを一つずつした先に、あの未来が待っていればいい。
「全ては、あたし次第」
 あたしは小さく呟くと、自分の仕事を再開させた。

 気のせいか、視界の端のファングがこちらを振り返ったような気がした。