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<東京怪談・PCゲームノベル>


【D・A・N 〜Extra〜】



 黒蝙蝠スザクは、携帯の画面を前にぱちりと目を瞬いた。
 表示されているのは、先程返ってきたメールの文面だ。相手はとある縁で出会った二人組――この言い方が相応しいかは微妙だが――の片割れである珂月。
 近々開催される遊園地の一日ハロウィンパーティーに、甘い物が好きだと聞いた珂月を誘ってみたのだ。それに対する返答がこのメールだった。
 そこには、珂月自身は問題ないが、誘う相手は自分でいいのか、というようなことが書いてある。昼間しか活動できない、長く共に居られない自分でいいのか、と。
 その言い回しに、スザクは小さく首を傾げる。
(……かっちゃん、普段はあまり自由に出歩けない場所に居るのかな?)
 もしそうなら、スザクと彼は制限がある中で、偶然に出会えていることになる。偶然にしては高い頻度の遭遇率を誇っている気がするから、随分と縁があるということだろう。
 そういえば、初めて静月と会った時、彼は去り際に『縁ができたからまた会うこともあるだろう』みたいなことを言っていた気がする。それからも、静月も珂月も、時折『縁』がどうとかと口にしていたはずだ。
(スザクが思うより、二人にとってはもっと深い意味合いのある言葉なのかな)
 通常口にされるようなイメージ的な……言ってしまえばあやふやなもの、ではない気がする。
 その後に続けられていた文にも目を通して、それに対する返答と、先程抱いた疑問も打ち込んで送信する。
 そう経たないうちに携帯がメールの着信を知らせて、スザクはまたメール画面を開いた。
『昼間しか活動できないってのは、静月と入れ替わるからってこと。縁については、そうだな、また今度。会った時にでも。』
 スザクの問いに対する返答は、そんなふうに書かれていた。
 活動制限については自分の考えすぎだったらしい。『昼間』というのは『陽が出ている間』という意味だったようだ。
 『縁』について、メールで答えなかったのは、直接話す方が楽だからか――それとも、直接話す方が相応しい内容だからなのか。
 珂月と静月。二人に何らかの事情があるのだろうことは分かっているし、気にならないと言ったら嘘になる。けれど、果たしてそれに踏み込んでしまっていいのか――踏み込む覚悟が自分にあるか、スザクはまだ分からないでいる。

   ◇

 待ち合わせ時間は遊園地の開園時間ちょうど。待ち合わせ場所は入り口にある大きなジャック・オ・ランタンの前。
 貸衣装を選ぼう、とメールした通り、スザクが着いた時には、もう珂月はそこに居た。
「おはよう、かっちゃん。待たせちゃった?」
「おはよ、スザクさん。別に待ってない、ってか時間通りだし。……マジで呼ぶんだ? そのあだ名」
「かっちゃん、好きに呼んでいいって言ったよね?」
「言った。別に不満があるとかじゃないけどさ、なんていうか、自分のイメージを再考したくなるんだよね、それ聞くと。スザクさん、オレにどーいうイメージ持ってんの?」
 問われて、少し考えてみる。が、答えはあっさり出た。
「とりあえず、かっちゃんってカッコイイより可愛いイメージの方が強いなあ」
 スザクがそう言うと、珂月はちょっと微妙な顔になった。
「オレ一応男だから、可愛いって言われてもあんま嬉しくないんだけど」
「そうなの?」
「そーなの。まあ自覚はあるっちゃあるけどね。やっぱ見た目が問題なんだよなー。こればっかりはホントどうしようもないから諦めてるけどさ」
 その言い方が、単純に可愛い系統の顔立ちをしているからとかそういう感じじゃなく聞こえて、スザクはどう返すべきか一瞬戸惑った。
 珂月はそれに気付いているのかいないのか、「っていうか、さっさと衣装選びに行かない?」と移動を促してくる。
 食い下がるような話題でもないか、と思って、スザクは「じゃ、行こっか」と珂月に笑顔を向けたのだった。

  ◇

 開園からそう経ってないこともあって、衣装はかなり豊富に揃っていた。選びたい放題と言っても過言ではない。
 とはいえ、スザク自身は貸衣装のお世話にはならない。何故なら自前で持ってきているからだ。その旨を珂月に伝え、一足先にハロウィン仕様へと着替えるスザク。
(やっぱりゴスよ、ゴス!)
 自分の好きな衣装を着るとなると、自然テンションが上がってくる。パーティーとなれば尚更だ。
「お待たせっ」
 弾んだ声で着替えの終了を告げると、スザクの姿を視界に入れた珂月が、僅かに目を丸くした。次いで「似合うじゃん」と人好きのする笑みを浮かべる。
 スザクの衣装は、自前の黒ゴスドレスに眼帯、手首と足首に包帯を巻きまくった包帯娘だ。こういう時でもないと人前ではできない、ゴシック要素を全面に推し出した衣装。何の憚りも無く自分の好きなものを身に纏えることが嬉しくて、自然と笑顔になる。
「かっちゃんは衣装決まった?」
 スザクが着替えている間、衣装を物色していただろうと思って聞いてみる。しかし珂月は首を横に振った。
「まだ。こんだけ衣装あると、何かもう選ぶのもメンドクサイ気がしてくるんだよなー」
 どうやら珂月は仮装に心躍らせるタイプではないらしい。非日常空間にテンションが上がったりもしないのか、至ってマイペースに衣装を眺めている。
 そんな珂月の様子を見て、スザクは思いついて提案する。
「だったら、スザクが決めちゃってもいい?」
「……スザクさんが? 別にいいけど。女装以外なら」
 わざわざ『女装以外』と注釈をつけたということは、選びかねないと思われたのだろうか。珂月はスザクのつけたあだ名に関して自分のイメージ云々と言っていたけれど、スザクもちょっと己を省みたくなる。一体どういう人物と思われているのだろう。
 それについて気にならないでもないが、今は衣装選びだ。珂月の仮装姿なんてこの先見れるかわからないのだし、せっかくの機会をふいにするのはもったいない。
 珂月の顔立ちは整っているので、きっと大抵のものは似合うだろう。ならばここはいっそ自分の趣味で選んでしまってもいいかもしれない。どうしてもイヤなら、珂月は拒否するだろうし。
 考えて、スザクは脳内決定した衣装を探し、手に取った。そしてのんびりと後を追ってきた珂月の眼前に掲げる。
「可愛いといえば獣耳……ってことで狼少年っていう方向性はどう?」
 スザクの手の中には、狼男モチーフだと思われる貸衣装。
 それを半ばつきつけられるような形になった珂月は、驚いたように軽く目を瞠った。それから狼男の衣装と満面の笑みを浮かべるスザクとを交互に見て、少し呆れたような表情で口を開く。
「いや『どう?』って言われても。何、見たいの? オレのケモノ耳姿」
「うん、見たい!」
 即答したスザクに、珂月は今度こそ呆れた顔をして、けれど小さく苦笑した。
「イイお返事ありがとう。……まあ、別にいいけど。そんな奇抜な衣装でもないし」
 ケモノ耳くらい可愛いもんだしね、と言いながら、珂月は衣装を手に着替えに向かったのだった。

  ◇

 狼少年と包帯娘の仮装をした珂月とスザクは、同じように様々なハロウィンの仮装をした人々とすれ違いながら園内を進んでいた。心持ち早歩きの珂月を、スザクが小走りで追いかけるような形で。
「衣装そのものは何とも思ってなくても、薦めてきた本人に笑われるとビミョーな気持ちになるんだなーって教えてくれてアリガトウ、スザクさん?」
「だから、ごめんって言ってるでしょっ? 似合わないとかじゃなくって、似合いすぎて笑っちゃったんだから許してよ」
「っていうか『耳だー』で吹き出すって何? そりゃ狼男なんだから狼の耳があるでしょーよ。むしろ無かったら何の仮装だって感じだし」
「もう、ごめんってば! 機嫌直してよー」
 わざとらしい珂月の言葉に、スザクはどう対すべきか思いあぐねていた。衣装に着替えてきた珂月に対する自分の反応が原因でこんな状況になっているのだが、どうすれば機嫌を直してくれるのかわからない。
 悪意あっての反応ではなかったとはいえ、珂月が不快に思ったのならきちんと謝らなければならないだろう。もう一度改めて謝ろうかと考えたところで、唐突に珂月が立ち止まる。
 急なことだったのでスザクが数歩前に出る形になって、何事かと珂月を振り返ると。
「……ジョーダン、だって。そんな怒ってないよ」
 僅かに目を細めて、口元を歪めて、――苦笑するような、何か痛みを堪えるような、そんな表情の珂月が、スザクを見ていた。
(どうして、そんな顔するの)
 口をついて出そうになった言葉を、スザクは咄嗟に飲み込んだ。どうしてか、それを訊ねてはいけない気がして。
「――ビミョーな空気にしたオレが言うのもアレだけど、気ィ取り直してさ。何かアトラクションとか、乗らない? スザクさんが好きなアトラクションって何?」
「え? 好きなのは観覧車とかメリーゴーランドとか……ゆっくり動く乗り物系、かな」
 いつも浮かべているような楽しげな笑みに表情を摩り替えた珂月の問いに、スザクは半ば反射的に答えていた。
「へー、やっぱ女の子ってカンジだなー。じゃ、お詫びもかねて最初はスザクさんの好きなヤツからってことで。ここから近いのは――メリーゴーランドの方か」
 少々強引とも言える話運びに、けれどスザクはあえて異を唱えることはしなかった。きっと珂月は、この場を誤魔化して、うやむやにしてしまいたいのだと直感したからだ。
 その真意はスザクにはわからない。わからないから、踏み込んだらどうなるのかも予測できない。
(かっちゃん達については、そんなことばっかりだなぁ)
 思って、心の中で小さな溜息をついた。

  ◇

 メリーゴーランドに向かう最中、すっかり話題に出すのを忘れていた物のことを思い出して、スザクは声を上げた。
「あ、そうだ! リクエストのお菓子!」
「お菓子? ……ああ、メールの」
「うん。南瓜使ったやつって言われたから、南瓜のきんつばにしてみたよ。和風なお菓子だけど、素材の甘みそのままだから、せーちゃんの口に合うかなって」
「まあ、ハロウィンだからって和風のお菓子はダメってことはないだろうし――って、『せーちゃん』?」
 言いかけた言葉を切って、珂月は怪訝そうにオウム返ししてきた。それにスザクは笑顔で答える。
「珂月さんが『かっちゃん』で、静月さんが『せーちゃん』!」
「いや、それなら『しーちゃん』か『しずちゃん』が妥当だと思うけど。……ま、別にいっか。呼ばれるのオレじゃないし。静月にとっては『せーちゃん』だろうがそれ以外だろうが変わんないだろうし? ってか、多分あだ名で呼ばれること自体初めてじゃないっけ」
 最後は記憶を探るように目線を浮つかせながら珂月が言う。
「オレも最初っから『静月』って呼んでたしな。つまりスザクさんは静月の『ハジメテ』のお相手ってことになるワケだ」
 ワザと妙な言い回しをした珂月を、スザクは上目遣いで睨む。対する珂月は全くこたえた様子もなく、楽しげに笑っている。
「そういや、結局どうすんの?」
「何のこと?」
「今日、静月も付き合わすワケ? ま、陽が落ちるまで居るんだったらその方がいいと思うけど」
「付き合わせるって言うか……せーちゃんさえよければ、夜に会ってもらえると嬉しいな」
 スザクの言に、珂月は数瞬沈黙して、それから「『別に構わない』だって」と笑ったのだった。





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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【7919/黒蝙蝠・スザク(くろこうもり・すざく)/女性/16歳/無職】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、黒蝙蝠様。ライターの遊月です。
 「D・A・N 〜Extra〜」にご参加くださりありがとうございました。

 珂月とハロウィンパーティーに参加、ということで、こんな感じになりましたが如何だったでしょうか。
 何気に珂月も割と素直に楽しんでる感じです。色々と変化とか揺らいでいる部分もあったりなかったり。

 ご満足いただける作品に仕上がっているとよいのですが…。
 リテイクその他はご遠慮なく。
 それでは、本当にありがとうございました。