コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談・PCゲームノベル>


「新藤たくやさんのお手伝い、させてください!」



「はじめまして、ステラさん」
 きょと、とした幼い少女がこちらを見上げてくる。きっと彼女からは相当な年齢の男に見られていることだろう。
 なにせ彼女の見た目がすでに小学生だ。
 彼はぺらり、と彼女が街頭で配っていたチラシを見せた。あ、と彼女が目を丸くする。
「お手伝い、よろしく?」
 軽く言って首を傾げてみせると、彼女は微妙な表情をした。やはり今の動作は年齢に合わない仕草だったようだ。



 新藤たくやは現在40という年齢に達していた。色々なことを経験し、それなりに大人になっていると思う。
 自分で自分のことを少々の変わり者だという自覚はしていた。
 駅に立ち寄った時に、珍しいものを発見して足を止めたのだ。
 夕暮れの中、チラシを配っている子供がいた。あまりにも夕焼け色に染まっているなと目を細めると、それは少女が真っ赤な衣服に身を包んでいるせいだった。
 全身真っ赤という珍妙な格好ではあったが、顔立ちや色白のせいか違和感はない。くるくると巻かれた金髪のツインテールが可愛く揺れている。
「どうぞ〜、サンタ便ですぅ」
 ついつい近寄ってチラシを受け取ると、思わず吹き出しそうになった。
 子供のラクガキのような有り様に、なんだか可哀想な気分になって彼女を見つめる。元々、たくやは他人を観察するのが趣味とも言えた。
 笑顔でチラシを配る彼女は、相手にされていなくてもまったく挫けない。根性があるのは認めよう。
 はっ、とした顔をして彼女は辺りをきょろきょろと見回すと、一気にタタターッと駆け出して去ってしまった。
 彼女が去った後、いわゆる「おまわりさん」が来て辺りを見回していたので、なるほど、あの真っ赤な少女を補導するつもりで来たのだろう。
(なかなか面白い子です)
 というのが、第一印象。
 チラシに目を遣ると、連絡先が書いてある。
 なんでもお手伝いします、要相談。そんな文字が隅のほうにあって、笑い出したくなった。
 小学生の女の子のお手伝いとはどんなものか。でもまずは、このサンタ便について調べなくては。



 驚くべきことに、サンタ便は本当に存在していた。都内で利用している客は少ないが、顧客はそこそこにいるようだ。
 大手の会社とは違っているから、引き受ける依頼も少ないらしい。ただ、急な配達でもそこらの宅配よりはかなり早く届けてくれるようで重宝している者も少なくないという。
 そのサンタ便を営んでいるのは16歳の西洋人の少女というからさらに驚いた。イメージが駅前のチラシ配りの少女と直結してしまうが、頭を振って追い出した。
 あれはどう見ても16歳じゃない。そんなことがあったら詐欺だ。
 だがどうやら本当にあの少女は16歳で、知る人ぞ知る、という人物らしい。そんなばかな。
 配達業だけで経営が成り立たないから「お手伝い」というものをするようだ。
 早速依頼したたくやは、彼女がやって来るまでの間、頼まれていたオカルト記事を作成していた最中だった。
 手が離せないのでステラに「お願い」をしようというのである。
(なんでも屋さんというわけではないのでしょうけどね)
 ちょうどその時、インターホンが鳴った。
 キーボードを叩いていた手を止めて立ち上がり、たくやは玄関に向かった。
 ドアをそっと開いた先には、あの時に見た、真っ赤な衣服の西洋人の少女が立っている。
 メモを片手にこちらを見遣り、「えーっと」と呟いた。
「新藤さんのお宅で間違いないですか? 依頼されてやって来た、サンタ便のステラですぅ。はじめまして」
 ぺこりと可愛らしくお辞儀をした彼女は、すぐに困ったように眉を下げた。
「あの、依頼内容を詳しくお聞かせくださると助かるんですけどぉ……。場合によってはお断りすることだってありますぅ」
「そうですか」
 けろりとした態度で応じるたくやを、ステラは不審そうに見てくる。明らかに怪しんでいるようだ。
 それもそうだ。依頼は、こちらに来てから頼むという形にしていたのだから。
 たくやは微笑んだ。
「はじめまして、ステラさん」
 チラシを出して彼女によく見えるように掲げる。
「お手伝い、よろしく?」
「…………いや、あの、ですから内容を教えてください〜」
「冗談ですよ。
 私のお手伝いをしてもらえるとのことで」
「いえ、ですから内容によっては〜」
「お昼ですね。お腹がへりました」
 唐突な話題の転換にステラは頭上に疑問符を浮かべている。それがまるで、目に見えるようでかなり面白い。
「お昼になりましたので、駅前に新しくできたハンバーガー店でチーズバーガーとポテトのセットを買ってきてもらえますか?」
「…………はあ?」
「報酬は、ステラさんのぶんのハンバーガー。あなたのぶんも買ってきて構わないということで」
「…………ええ?」
「新しくできたばかりで、しかも昼時で……かなり混雑してると思いますが、気をつけていってくださいね」
「ちょちょちょ! ちょっと待ったぁー!」
 ストーップ! と、ステラが掌を向けてくる。
「待ってください! まだ引き受けるとは言ってません! 勝手に話を進めないでください! わたしの意志は無視なんですか!」
「……でもこのチラシになんでもお手伝いすると書かれていますし」
「わたしは新藤さんのパシリじゃないんですぅ! もっと頼み方ってものがあるでしょう!」
 さすがに憤慨するステラは、その場でダンダンと足踏みをしている。元気が有り余っているようだ。
 やがて腕組みし、ステラが偉そうに唇を尖らせて胸を張った。
「確かに、報酬に応じてお引き受けしますし、無茶を言われない限りはだいたい引き受けますよ?
 でもでも! 新藤さんはなんですか! いい年したオジさんが、こんないたいけな乙女に駅前の新設のバーガーショップへご飯調達とは!」
「……そ、そうですかね」
「そうですぅ! そもそももうお昼じゃないですか!
 そういうことは、朝から、いえ、わたしに依頼した時すでに言っておくべきでしょう!
 新設したハンバーガーショップがどれくらい人気かわかりませんけど、並ぶんならもっと早い時間に頼むのがセオリーってもんですぅ!」
 一気に喋ったステラは肩でハァハァと息をしている。
「しかも!」
 ずばしっ! と人差し指をたくやにステラが向けた。
「大人のくせに、心がこもってない言い方ですぅ! いくらなんでも子供に頼むのに、心がこもってないとは大人げなさすぎですぅ!」
「いやぁ、お仕事ですからね、一応」
「お仕事でも、まだ引き受けてません!」
 はっきり言い放ったステラは渋い表情だ。
「要約すれば、お昼になっておなかすいたからメシ買って来いよ、ってことでしょう? 正直……自分で行ってくださいと言いたくなりますぅ。
 店屋物でいいと思いますけどね、わざわざわたしに頼まなくても」
 白い目で見てくる彼女の言うことはもっともである。
「どーしてもその駅前のお店のものが食べたいなら、それなりにアピールするなり、なんなりしてください!
 ただの使いっぱしりをするほど、わたし、落ちぶれてません!」
「そうですか……」
 どうやらよほどたくやの言い方が気に障ったようだ。確かに報酬によって依頼を受けるようなことはチラシに書いてあったが、相手にも拒否権があることを忘れていた。
 じっと二人は見つめあう。いや、ステラは睨んできていた。……まったく怖くないけれど。
 初対面の娘に気軽に言うにはちょっと馴れ馴れしい内容だったことも否めない。
 なってません! と態度で示してくるステラだったが、途中でやれやれというように肩を落とした。
「ダメ大人なんですかねぇ……新藤さんて」
「ダメ大人?」
「……もういいですぅ。わかりました。では今回だけですぅ。
 報酬はいただきますので、先払いでお願いしますね」



 それからステラが戻ってくるまで2時間以上かかった。
 戻って来たステラはハンバーガーショップ店の紙袋を持ち、不機嫌そうに玄関ドアの前に立っていた。
「ほら言ったじゃないですか。できたばかりのお店に列ができるのは当然ですぅ。
 お昼に行って、お昼に買えるとは限らないじゃないですか」
 ぶすっとして言う彼女は、たくやのほうへと紙袋をずいっと突き出してくる。
「超特急で飛ばしてきたのでまだ温かいと思いますけど、次回からはちょ〜っと考えてください」
 いい大人なんですから、とステラは付け加える。一言多い子供だ。
「ステラさんのはないんですか?」
「ありますよ。ソリに置いてます」
 ソリ?
 思わずドアから乗り出して外を見る。……何もない。
 よくわからないが、どこかに置いているのだろう。
 彼女はおつりを出してきて、たくやに渡してくる。おつりからして、彼女もたくやと同じものを購入したようだ。
「で、これが領収書とレシートですね。はいどうぞ」
「これはご丁寧に」
「当然ですぅ」
 やれやれというように言うステラは、ちら、とたくやを見る。そしておもむろに「ハァ」と溜息をついた。
 なにか言いたいのなら言って欲しいが、彼女は言う気がないのだろう。
「これで依頼は終了です。いいですね?」
「もちろん。ありがとうございました、ステラさん」
 紙袋の底はまだかなりあたたかい。あたたかい昼食にありつけるのは彼女のおかげだ。
「…………今回だけですぅ」
 苦々しく言うステラは唇を尖らせていた。
「そんなに気に障りましたか? ステラさん」
「障りましたよぉ! いきなり『おなかすいたから、新しい店で昼飯買って来い』だなんて、フツー……ありえないですぅ」
 どこの中学生のパシリですか。
 プンスカと怒る彼女は「それじゃ!」と勢いよく言い放ち、ずしずしと足音をたてて去っていった。
 と、思ったらくるりとこちらを向いた。
「本当に困ってる時に依頼してください!」
「………………」
 今度こそ本当にステラは去って行く。
 残されたたくやは後頭部を軽く掻いた。
「……そこそこ困ってはいたんですけどね」
 やはり言い方がまずかったのだろう。



 部屋に戻って紙袋を開けると、できたてのチーズバーガーとポテトが現れた。
 食べると、やはり温かいのでかなり美味しい。
 片手でポテトをつまみつつ、味を堪能した。
「う〜ん、駅前のあのお店のものを頼んで大正解だったようですね」
 さてと。
「もうちょっと頑張りますか」
 食べ終えてから、また仕事だ。
 締め切りまであと少し。



□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

PC
【8396/新藤・たくや(しんどう・たくや)/男/40/フリーライター】

NPC
【ステラ=エルフ(すてら=えるふ)/女/16/サンタクロース】

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

 ご参加ありがとうございます、初めまして新藤様。ライターのともやいずみです。
 一応ステラへの依頼は達成されましたが、いかがでしたでしょうか?
 少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。