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<東京怪談ノベル(シングル)>


Fallen Priestess

雨が降っていた
昨日まではコンクリートのジャングルだった街が、見る影も無く瓦礫と化していた
その瓦礫からはまだ煙が立ち上り、そう遠くない場所からはまだ銃声や怒号が聞こえてくる
その瓦礫の山の中に、少女が一人立っていた。今何が起きたのか分からない。そんな顔をして自分の足元を見つめていた
少女が見つめる先に、一人の女性が横たわり、その下には赤い水たまりが出来ている
不意に少女の膝が砕け、その場に座り込む
「おかあ・・さん・・?」
目を覚ましてよ、と少女は横たわる女性に声をかける。だが、何時までたっても返事は返ってこない
少女は天を見上げ、絶叫する
「あ・・ああ・・あああああアアアアア!!!!」
母さんを殺した戦争が憎い!戦争をする軍隊が憎い!!戦争のある世の中全てが憎い!!!
少女のこの世の全てを憎む絶叫は、彼女の背後に修羅を渦巻かせた

不意に、背後から声が聞こえた
「お前の憎悪、叶えてやろう」
渦巻く修羅に呼ばれた邪龍の巫女が少女に語りかけていた
巫女の声に反応した修羅像が吼え、少女は巨大な火柱に呑まれ、冷たい雨を落とす天へと昇り弾けて堕ちた



『次、三島!』
「はい」
大雨が降る中、神聖都学園の体育館では生徒達の身体測定が行われ、これに合格した者から順に軍服の採寸を行っていた
三島・玲奈(7134)は身体測定に合格し、採寸を行っていた
軍帽の採寸を行っていた老兵が、玲奈の髪を見て嗤う
『軍帽は・・じきクリクリ坊主になるからきつめでいいよね』
それを聞いていた丸椅子に座る玲奈の同級生達が、亡霊の如く前髪を垂らしながら玲奈を睨む
玲奈の後頭部は丸く剃られ、最早男女の識別が困難な新品の軍服姿の同級生達が玲奈を手招く。まるで彼岸だ
玲奈は苦悶し絶叫する
「戦争大嫌い!」
玲奈の叫びと同調したかのように、バリバリと落雷が起こった



何度目かの二学期、玲奈とその友人達が教室で何か話している
『また戦争が始まったみたいだね』
「なんで戦争なんかおきるんだろう、戦争なんか起きなければいいのに。そうすれば誰も悲しまないですむのに」
不老不死で万年女子高生の玲奈だが、戦争が大嫌いなのは変わっていなかった
そんな大嫌いな戦争について話していると、不意に地獄耳で有名な先生が教室へと入ってくる
『君達、ちょっと校長室まで来てくれ』
『え、なんでですか?』
「あたし達呼ばれるようなこと何もしてませんけど」
『いいからついて来るんだ』
「は〜い・・」
しぶしぶといった形で玲奈達は校長室へと向かう

コンコンコン
『校長、私です。三島ら女生徒5名を連れてきました』
『ん、入りたまえ』
『失礼します』
中に入ると、校長が窓のから雨を眺め、立っていた
「あの、何故あたし達がが呼ばれたのでしょうか?」
玲奈が当然の疑問を投げかけ、校長は背を向けたまま答える
『それについてだが、三島君、君達は戦争が嫌いだそうだね』
「あ、はい。そうですが・・」
校長の質問に答えながら、玲奈は横の先生を見る。さっきの話をあの先生が聞いていたのだろう。本当に地獄耳だ
玲奈が横の地獄耳の先生を睨むように見ていると、校長が玲奈の解答に笑顔で頷き
『戦争を嫌がる子は実は優秀な兵士だ。嫌な事は誰も必死で片付ける』
と言ったのである。いきなり何を言うのかわけが分からない。玲奈がぽかんとしていると
『君達には軍学校へと言ってもらうこととする。いいね』
「え、ええ!?な、なんであたし達が!?」
『そうですよ、何でいきなり』
玲奈の友人達も声をそろえて反抗する。だが
『もう決定事項だ。戻りたまえ』
校長はまったく取り合ってくれず、校長室から追い出されてしまう。どうやら、どう足掻いても無駄のようだった

教室へと戻り、玲奈達はぼそっとつぶやく
『どうしてこうなった』
自虐気味に笑う友人達の傍ら、玲奈は一人
「頭を冷やせば名案が浮かぶわ」
と、丸刈り頭を撫でる。ふと、どこかで誰かがほくそえんだ。そんな気がした



『あそこだ、今だ放てーーーー!』
玲奈達の隊は某国の大統領を追い詰めていた
昨日から降り続く雨に打たれながら、玲奈の手には小ぶりのアーミーナイフが握られていた。他の隊員達も弓矢や刀といった原始的な武器ばかりで、銃器を持っている兵は誰一人いなかった。それは大統領側も同じであった。
もう何日も矢による牽制のし合いで、戦況は完全に膠着状態だった

何故銃器を持っている兵がいないのか。それは、此処が石油施設であり、下手に重火器を使うと引火し敵味方関係なく爆発に巻き込まれてしまうからであるからに他ならない。誰だって、敵もろとも吹き飛びたくはないだろう
(大統領を殺せば確かにこの戦争は終わるかもしれない。でも、殺意の連鎖は、きっと止まらない・・)
にらみ合いが続く中、玲奈は何度も同じことを考える。その時、ごうを煮やした上官から突撃命令が下る。突撃隊には玲奈の女友達も混ざっていた
彼女を死なせたくない。こんな戦争なんかであの子を死なせてたまるか。その一心で玲奈は賭けに出る。彼女の能力である霊感を用い、大統領夫人へ話しかけたのだ

「大統領夫人、もうこんな男の身勝手さから始まった戦争は終わりにしませんか?今降伏してもらえれば、まだ大統領も大統領夫人も助けられるはずです」
『そうよね男の横暴はご免だわ』

なんと、あっさり大統領夫人は頷いてくれた。直後、今まさに突撃隊が決死の覚悟で飛び込もうとした時、石油施設の一室の窓が割れ、女性の怒鳴り声が聞こえ、男の悲鳴が響いた
玲奈以外の兵は何がおきたのか分からずぽかんとしてしまう。敵の兵も攻撃をしてこない。どうしたものかと上官が考え込むと、大統領が大統領夫人に腕をひねり上げられて出てきたのだ

こうして、女達の無血革命が成り世界戦争は去った


宮殿で玲奈コールが巻き起こる。この戦争を終わらせた英雄を称える声がそこかしこから聞こえてくる
玲奈は侍従に戴冠式までに鬘を誂えさせた。だが、玲奈の運命を操り、男性社会の破壊を成した巫女のほくそ笑みまでは見えていなかった