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<東京怪談ノベル(シングル)>


塔に潜む悪意たち

「これでよし――と‥‥」
 海原・みなもは自分のキャラクター・みなものアイテムや装備などを確認しながら小さく呟く。
 今回は瀬名・雫の提案で塔のお試し版の方に行ってみる事になっていた。実際の『塔』になればレアアイテムや装備品などが貰えるらしいのだが、お試し版でもそこそこのアイテムが貰えるのだと瀬名はやや興奮気味に海原に説明をしていた。
「でも‥‥大丈夫でしょうか‥‥」
 塔のお試し版に行くにあたり、海原には一つだけ不安な事があった。
 それは塔内部に入ってしまったら一緒に塔に入ったキャラクターが居ても別々の場所からスタートと言う事になると瀬名から聞いていた。
(最初は私だけ‥‥)
「みなもちゃん、そんなに緊張する事ないってー! お試し版ってだけあって敵も弱いし、一階から先みたいにボスが居るわけじゃないしね」
「そうなんですか?」
 瀬名に言葉を返すと「うん、一階から先はボスとかが結構レアアイテムとか持っててねー。でも中々手に入らないんだけど!」
 そう言いながら瀬名はみなもの装備や所持アイテム欄などを見ていく。
「装備は猫の着ぐるみ武具で、回復アイテムとかもちゃんと持ってるし‥‥あ、みなもちゃん、毒消し持って行った方がいいよ? たまに毒にしてくる敵がいるから」
 瀬名の言葉を聞き、道具屋で毒消しを5つ購入して塔のお試し版へと出発する事になったのだった。


「それじゃ、いくよ? お試し版にはマップ中央に天使のオブジェがあるから、そこで待ち合わせしよう」
「分かりました」
 せーの、の合図でクリックすると画面が真っ白になって次第にどこかの庭園のような背景が映し出され、みなもはマップ中央のオブジェを目指して歩き始める。
「この場所で何か分かればいいのですが‥‥」
 ログイン・キーを持つ海原は他のプレイヤーとは存在そのものが異なる。だからこそ少しのミスですら許されない、というプレッシャーが常に海原には圧し掛かってきているのだ。
「あ、敵‥‥」
 ゴブリンが現れ、みなもは『獣の爪』を使用してゴブリンに攻撃を仕掛ける。
「あ、あれ‥‥?」
 スキルを使用して攻撃して、いつもならもう2、3ターンは時間がかかるのに、今回は一撃でゴブリンを退治する事が出来た。
「何で? レベルはあれからあがってないのに‥‥」
 そう、みなものレベルはあれからあがっていない。あの時と今と違う事があるとすれば――‥‥。
「‥‥この、手?」
 両手両足が猫の手に変化したくらいしか理由が分からない。
「‥‥体に異変があるたび『みなも』は強くなっていく‥‥?」
 ゲームの中の出来事が現実に影響して、そして現実で変化した体がゲームの中でも影響して‥‥そう考えると海原はゾクリとするものを感じた。
「こんにちは〜」
 ふいに塔内部を歩いていると声をかけらて、海原も「こんにちは」とキーボードを叩いて挨拶を返す。
「あ」
 ふいに海原はログイン・キーの事や錆びた剣、最後のフィールドといわれている『絶望宿る希望の鐘』について聞いてみる事を思いついた。
「あの‥‥ログイン・キーとか、錆びた剣とか‥‥特殊なフィールドについて何か知りませんか?」
「ログイン‥‥錆びた? わかんないなぁ‥‥でも特殊フィールドについては人から聞いた事があるよ」
「ほ、本当ですか? 教えてください!」
「光の道と闇の道のどちらを選んだかでエンディングが変わるって聞いてるけど、そもそもこのゲーム自体にまだエンディングなんて配信されてないから本当かどうかも分からないんだけどね」
 海原は教えてくれたキャラクターに礼を言って別れる――が頭の中にはエンディングについての事でいっぱいだった。
(恐らく光と闇の道って‥‥フルリアさんとあすらさん達の事‥‥でも、エンディングを迎えた人がいるなら、あたしは選ばれなかったはず‥‥)
 つまり、まだエンディングが来ていない――‥‥海原は小さく呟き、拳を握り締める。
「あ、みなもちゃん、みーっけ」
「え?」
 気がついたらいつの間にか天使のオブジェの所まで来ていたらしく、海原は「あ、いつの間にか来てたんですね」と苦笑しながら言葉を返した。
「えーっと、後はこの道を突っ切ればお試し版クリアなんだけどね――え?」
 瀬名が突然言葉を止め、海原も画面を見ると‥‥そこには巨大なモンスターが立ちふさがっていた。
「ちょ‥‥こんなのがいるなんて聞いた事がないよ」
「ろ・ぐ――い――」
(ログイン・キーの事を知ってる?)
「とりあえず、あたしのレベルだったら何とか倒せるはず‥‥みなもちゃん、ヒットポイントに気をつけて戦ってね!」
 瀬名は呟くと武器を構えて巨大なモンスターに攻撃を仕掛ける。海原もスキルを使用して攻撃を繰り出したのだが‥‥そこで不思議な事が起きた。
 瀬名の攻撃するダメージよりも海原が攻撃したダメージの方が大きいのだ。
「何なの、このでたらめな事は‥‥でもそんな事を言ってる場合じゃないか」
 瀬名は呟き、海原と連携して攻撃を繰り出し、何とか巨大モンスターを退治する事が出来た。
「あれ? 何かアイテム落としてるけど‥‥」
 モンスターの落としたアイテムは薄汚れた布。なんだろうと思い、海原が手に取ってみる――そこで一つ思い出した。
「あ、もしかして‥‥錆びた剣?」
 海原は錆びた剣をクリックして薄汚れた布を使う、と選択する。
「あぁ! 錆がほんの少しだけど取れてるよ!」

 これを手にする終焉の者へ
 いつか終わりが来ると信じて託そう。
 未来への鍵と、切り開く刃を。

「あー、これ以上はまだ錆びちゃってて読めないね‥‥まだ柄の所に色々書いてるのに、これ以上を読みたければまだ錆を取れって事なのかな」
「未来への鍵と切り開く刃‥‥」
「よし、難しい事は後から考えるとしてとりあえずは塔から出よう! さっきみたいなモンスターが出てきても困るしね!」
 瀬名の言葉に海原も首を縦に振り、お試し版の塔から抜け出し『おめでとう! あなたは塔・お試し版をクリアしました!』という文字が表示された。
(でも謎が増えた‥‥エンディングのこと、そしてこの剣のこと‥‥この錆びた剣は、誰かが最悪の事態に向けて用意した対抗策なんだ‥‥)
 海原だけが色々な考えが巡っており、素直にクリアできた事を喜べないのだった。



―― 登場人物 ――

1252/海原・みなも/13歳/女性/女学生

NPCA003/瀬名・雫/14歳/女性/女子中学生兼ホームページ管理人

――――――――――
海原・みなも様>
こんにちは、いつもお世話になっております。
今回はシチュノベのご発注ありがとうございました!
私事で納品が遅くなった事をお詫びします、申し訳ありませんでした。

今回の内容はいかがだったでしょうか?
お気に召していただけるものに仕上がっていれば良いのですが‥‥。

それでは、今回は書かせて頂き、ありがとうございました!

2010/10/20