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<東京怪談・PCゲームノベル>


【D・A・N 〜Fourth〜】


 ハロウィンパーティ中の遊園地。
 珂月と幾つものアトラクションを楽しんだ黒蝙蝠スザクは、陽が落ちると同時に、珂月と入れ替わるように目の前に現れた人物に、にっこりと笑いかけた。
「こんばんは、せーちゃん。お月見には良い夜ね」
「こんばんは、……スザクさん」
 挨拶と共に、静月は小さく笑んだ。
 先日に引き続き、どこか柔らかい雰囲気だ。これが自分に心を開き始めてくれている表れだったらいいな、とスザクは思った。
 珂月と違って静月はあだ名へは言及しないらしい。その由来――珂月が動なら、静月は静。そんなイメージからつけたのだと、珂月に説明したからだろうか、と考える。
 と、静月が怪訝そうに眉根を寄せて、視線を己の身体に落として――。
「…………」
 何とも言えない微妙な顔になった。
「せーちゃん?」
 呼びかけてみると、ハッと我に返ったようにスザクに視線を戻す。
「いや、……その、この格好が」
 いつになく歯切れの悪い静月の様子に、スザクは首を傾げる。
 静月の格好は、珂月の身に着けていた狼男の衣装がそのまま引き継がれている以外は、静月の私物らしい服に変化している。
 ということは、戸惑っている感じの静月が言いたいのは、その狼男の仮装についてだろう。
(かっちゃんはやっぱり可愛い感じだったけど、せーちゃんはカッコイイし似合ってると思うけど)
 珂月も静月も顔立ちが整っているのは同じなので、きっとどちらも似合うだろうとは思っていたけれど、同じ衣装でここまで印象が変わるとは思わなかった。
「スザクは似合ってると思うんだけどな」
「……そう、なのか? このような格好は馴染みがないから、よく分からないのだが」
 再度自分の姿を見下ろし、頭の上のケモノ耳を触って首を捻る静月。
 その様子が何だか少し可愛く見えて、つい笑ってしまう。
 ますます困惑した表情になった静月を見つつ、スザクは考える。
(せーちゃんと観覧車乗りたいけど…乗ってくれるかな。なんか乗り物は苦手そうなイメージだけど…)
 そもそもあんまりこういう娯楽とかにも興味がなさそうな気がする。
 しかし考えていても埒が明かないので、とりあえず訊いてみることにするスザク。
「せーちゃん、乗り物って大丈夫?」
「乗り物?」
「ええっと…例えば観覧車、とか」
 言うと、静月は一瞬考えるように目を伏せた。それから口を開く。
「乗った事はないが、大丈夫だと思うが。乗りたいのなら付き合おう」
「え? 一緒に乗ってくれるの?」
「そういう意図で訊ねたのだと思ったが、違うのか」
 淡々と返されて、返答に困る。確かにそうなのだけど、半ば諦めていたのだ。無理なら無理で、ライトアップされた園内を眺めながら歩くのも素敵よね、などと考えていたのに。
 こんなにあっさり一緒に乗ってくれることになるなんて、予想外もいいところだったりする。
 けれど、一緒に乗ってくれるというなら、それを断る理由はない。
「ううん、違わない。一緒に乗りたいなって思ってたから嬉しい!」
 声を弾ませるスザクに、静月はまた少し笑んだ。それはどこか寂しい笑みで――。
「では、行こう。こういう物には待ち時間というものがあるんだろう?」
「あ、うん。えっと、観覧車はこっちよね。行こう、せーちゃん」
 静月の浮かべた笑みが気になったものの、それに言及する前に移動を促されてしまい、結局そのまま観覧車へと向かうことになったのだった。

◆ ◇ ◆

 観覧車がゆっくりと上昇する。窓越しに見えるのは、園内を彩るイルミネーションと、煌々と照る月。
 静月の肩越しにそれを見て、スザクはふと思った。
(……せーちゃんには静かな月夜が似合うなぁ)
 静月自身が静かな夜の気配を纏っているからだろうか。どのような場所――例え祭りや遊園地のような賑やかな場所であっても、静月の傍では静謐な夜の雰囲気を感じる。
 いつになくぼうっとした様子で窓の外を見下ろす静月を見ながらそんなことを考える。
 そのままじっと見ていたら、流石に視線に気付いたらしい静月が、少し困ったような顔をした。
「そう見られると、少し居心地が悪いんだが」
「あ、ごめんなさい。せーちゃんって月夜が似合うなぁって思ってたら、つい」
「……『似合う』か。そんなふうに言われたのは、初めてだ」
 そう言う声が、どこか複雑そうな響きを含んでいたように聞こえて、咄嗟に返す言葉に詰まる。
 ふい、と視線が逸らされて、静月はまた窓の外を眺め始めた。
(……今日のせーちゃん、何だかいつもと違う、よね)
 そう多く時間を共にしたわけではないが、それでも分かるほど、今日の静月の様子は常と違っている。
 それがどうしてか、胸をざわつかせた。

◆ ◇ ◆

 観覧車から降りてスザクが真っ先にしたのは、静月にお菓子――手作りの南瓜のきんつばを振舞うことだった。
 珂月にも「うん、ウマイじゃん。これなら静月も食べられるだろ」と太鼓判を捺してもらったので大丈夫だろうと思っていたが、割合あっさりと静月は口にしてくれた。
「……初めて食べたが、美味しい、と思う。あまり食に興味を持った事がないから、比較はできないが」
 そう言って、また少し笑んだ。
 そして、観覧車で上から見た光を眺めながら園内を歩き回った後。
 一休みのために、自販機で買った飲み物を手に備え付けのベンチに座ったところで、スザクは思い切って切り出した。
「せーちゃん、聞きたいことがあるの」
 静月は一瞬動きを止めて、それから静かにスザクを見下ろす。
「……内容を聞こう」
 深い漆黒の瞳は、感情を映さず凪いでいた。
 ふと、いつかの再現のようなシチュエーションだ、と思った。『呪具』について静月に聞いた時。あの時も、こんなふうに飲み物を手に、ベンチに並んで座っていた。
「かっちゃんにメールで聞いたら、『また今度会ったときにでも』って言われたんだけど、話せなかったから……せーちゃんに聞きたいんだけど、」
「…………」
 静月が、少し目を細めた。
「二人が時々言う『縁』って、特別な意味合いのある言葉なの? 最初に会った時、かっちゃんは何かの術を使っていたし、せーちゃん達は術式を扱う職業…ううん、家柄とか血筋なんじゃないの? だからそういうこともあるのかなって思ったんだけど……」
 静月は思案するような間の後、小さく溜息を吐いて、口を開いた。
「……メールの事があるから、本来は珂月に話させるのが筋だろうが――聞かれたのなら答えよう。……『縁』という言葉自体は、一般に使われるような意味合いで私も珂月も使っている。ただ、私達の在り方に『縁』が与える影響が格別である、という意味では『特別』と言えるだろう。家や血自体に関わりがあるわけではない。……いや、ある意味では関わりがあると言えるのかもしれないが」
 どこか抽象的な静月の答えを、逸る心を抑えながら、スザクは自分なりに咀嚼する。
(『在り方』って……二人が身体と記憶――『存在』を共有してるっていう状態のことだよね。それに『縁』が強い影響を与える…?)
「二人は元々別の人として存在してたんじゃないかって思ってたんだけど、違う?」
「……いや、その通りだ」
 一瞬、静月の瞳が揺れた。何の感情によってかは、読み取れなかったが。
(別々に存在していた二人が、今は違う形で存在してる。……それには何か理由――『原因』があるはず。せーちゃん達には何か『目的』があって、それは『呪具』とか『魔』が必要になるようなもので……)
 思考を中途で留めて、スザクは更なる問いを口にする。
「前聞いた、探していたっていう『呪具』は、人の心を喰らうモノだって言ってたわよね?」
「そうだが」
「それは、……誰の心を喰らわせるためのものなの?」
 訊いた瞬間、静月は何かを堪えるように眉根を寄せた。
 踏み込んだのだ、と理解する。二人が抱えるものに手が届く位置に、自分は踏み込んだのだと。
 それはきっと、二人には喜ばしくないことなのだろう。今の反応からも、そして今までの二人の言動からも、それは容易に推測できる。
 ――…けれど。
「教えてほしいの、二人のこと」
 尚もスザクは言い募った。
 自分は選んだのだ。二人の事情に踏み込むことを。
 二人が関わらせまいとするのなら、自分から関わるまで。自惚れでなければ、二人は自分に多少は心を開いてくれているはずだ。
 知らないままじゃ、助けにもなれない。だから、スザクは聞かなければならない。
 静月は深く深く息を吐いて、それから自嘲するように口元を歪めた。
「……そうだな、きっと、潮時なんだろう」
 そう呟くように言って、目を伏せた。どこか遠い場所に思い馳せるような、そんな仕草だった。

 



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【7919/黒蝙蝠・スザク(くろこうもり・すざく)/女性/16歳/無職】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、黒蝙蝠様。ライターの遊月です。
 「D・A・N 〜Fourth〜」にご参加くださりありがとうございました。

 前半は静月と遊園地のハロウィンパーティに参加、後半では『秘密』に踏み込む為のお膳立て、といった感じになりましたが、如何だったでしょうか。
 一応『秘密』編ですが、今回は前哨戦といった感じです。もうなんだかデフォルトで続き物仕様となりました…。
 静月も色々思うところがありつつ、覚悟を決めた模様です。

 ご満足いただける作品に仕上がっているとよいのですが…。
 リテイクその他はご遠慮なく。
 それでは、本当にありがとうございました。