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Crimers CAFE - 罪の意識 -
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異界の片隅。
その喫茶店は、確かに存在していた。
Crimers CAFE クライマーズ・カフェ
パッと見た感じは、ごく普通の店。どこにでもある、ちょっとレトロな喫茶店。
ただひとつだけ、ひとつだけ、この店の異質な点を挙げるとするならば、
罪人が集う店だということ ――
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従業員（アルバイト）募集
雇用条件： とびっきりの 「罪人」 であること
希望者は本書持参の上、来店して下さい / 委細面談にて
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絶えず飛び交う笑い声。深夜にも関わらず、ほぼ満席。
賑わうカフェの奥、その罪人は、道端で拾ったチラシを手に姿勢を正す。
やや緊張した面持ちの罪人に対し、テーブルに頬杖をついた状態で微笑みかけるのは、
このカフェのオーナー、カイト。
若すぎるオーナーの実態に、罪人は、まだ少し戸惑いを覚えているようだ。まぁ、無理もない。
カイトは、そんな罪人の反応や動揺を楽しむかのように笑いながら、説明を続ける。
Crimers CAFE クライマーズ・カフェ という、この店の本質。存在意義。
決して上手とは言えない説明だったが、罪人は、何とか自分なりに理解した様子。
さて。ひととおりの説明を終えた後は、質問攻めだ。
普段は何をしているのか、どこに住んでいるのか、など、カイトは、罪人に、あらゆる質問を飛ばす。
それに対し、罪人は、素直に返答していった。嘘や偽り、誤魔化しは、一切なかったと思う。
「そっか。わかった。それじゃあ、最後の質問」
その言葉を発した瞬間、カイトの表情が、少しばかり強張った。
僅かだったが、すぐさまその変化に気付いたのだろう。罪人も、崩れかけていた姿勢を立て直す。
面談の仕上げ。これを聞かないことには、どうすることもできない。
カイトは、罪人の目をジッと見つめ、その質問を飛ばす。
「聞かせてくれ。どんな罪を犯したのか」
罪の意識。
決して消えることのない、罪悪感。
道端で拾ったチラシをギュッと握りしめ、俯く罪人。
扉の向こう、ホールから聞こえてくる笑い声を背に、異質な懺悔。
私が犯した罪、それは ――
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しばし続いた沈黙。
アリスという罪人が、自らの罪を吐きだしたのは、沈黙の開始から五分ほどが経過したときのこと。
その間、カフェのオーナーであるカイトは、急かすことなく、ただジッと待っていた。
アリスという罪人が、自らの口と言葉で、その罪悪感を吐きだすときを。
「私が …… 犯した罪は ―― 」
魔眼。
生まれつき備わる、特殊な能力。
自分に、そういう力が備わっていることを、はっきりと頭で理解したのは、確か、七歳の頃。
理解に至ったその日より以前にも、何度か、おかしいな？ と思うことはあった。
けれど、わからなかった。まさか、自分が "やった" だなんて、思いもしなかった。
生きたまま石化させる、残酷な能力。
私の目には、そういう能力が備わっている。
もちろん、それに気付いた当初は、恐ろしく思った。自分自身の能力を恐ろしく思った。
どうして、私に、こんな能力が備わっているのか。他の女の子と違うのか。深く悩んだ時期もあった。
でも …… 私に備わるこの能力は、先天的なもので。備わっていて当然の能力だった。
悩むことができる生き物は、割り切ることもできる。
良いことなのか悪いことなのか、それはわからないけれど、一度割り切ってしまうと、吹っ切れる仕様だったりもする。
そういう存在なんだ。私は、そういう存在。理解に至った日は、私が、私自身を認めてあげられた日でもあった。
理解に至ったその日から、私は、罪を犯し始める。
自分に備わる、魔眼という能力を利用して "商売" と "コレクション" を始めた。
ただ、見つめるだけで良かった。眼差しを向けるだけで、相手を石化させることができたから。
武器を使わずして、命を絶つ。触れることなく、相手の命を絶てる能力。
殺めた感覚が身体に残らない自分の能力を、私は "便利" で "楽" だと思った。
慣れないうちは、全身が石化させるまで、かなりの時間を要してしまい、気に病んだけれど、
慣れてからは、気に病む暇すらなくなった。躊躇わなくなってからは、もっと楽になった。
誰でも良いわけじゃなくて。魔眼は、その価値がある人にだけ使う。
価値観については、大きく分けて二通り。
一つは、私自身に、一人占めしたいと思わせる人。
外見の美しさは勿論のこと、内面の美しさも重要。可愛いと思える人、愛しいと思える人。
私は、そういう人を見つける度、自分の "コレクション" に加えていった。
もう一つは、私以外の誰か、他人に需要がある人。
私も大概だけれど、世の中には、もっとエゲつない趣味・趣向の持ち主がいる。
私は、そういう人たちのため、石化させたそれを "オークション" で販売した。
趣味と商売。どちらも、おかげさまで充実。
独占欲を満たすことができ、なおかつ、莫大なお金を稼ぐこともできる。
こんなにも恵まれた能力、他にはない。私は、何て素晴らしいものを備えているんだろう。
充実する日々の中、私は酔った。自分自身に酔った。
けれど …… 心の奥底には、その陶酔とは真逆の想いがあった。
楽しいのは事実。満たされるのも事実。けれど、私のやっていることは、犯罪だ。
子供だからって理由で免罪される内容ではない。
バレぬよう、見つからぬよう、隠れて私服を肥やす。その手段が巧みになれば巧みになるほど、私の胸は痛んだ。
いつ見つかってもおかしくない、そのギリギリの生活に、疲弊しているところもあるのだと思う。
でも、やめられない。やめられないし、やめる気もない。
コレクションの収集は、これからも続けていくつもりだ。
だって、可愛い子が、魅力的な子が、愛しいと思わせる子が、たくさんいるんだもの。
私だけのものにしたい、そう思い始めたら、もう歯止めがきかない。手に入れるまで、蛇のように絡みついて離れない。
オークションでの販売も同じ。これからも続けていくつもり。
だって、需要があるんだもの。欲しがる人が、たくさんいるんだもの。
だったら、応じてあげなくちゃ。与えてあげなくちゃ。それが、商人ってものでしょう？
罪悪感。
罪の意識。
今もなお、消えずに在り続ける、その感情。
自らの口と言葉で、その感情を吐き出したアリスは、話し疲れて眠る子供のように、そこでゆっくりと目を閉じた。
＊
どんな言葉が返ってくるだろう。
目を伏せたまま、僅かにも動かず反応を待つアリスの胸に、沸々とこみ上げる不安。
思うがまま、自分が犯した罪と、それに伴う感情を吐き出してはみたものの、どうだろう。
これで、良かったのだろうか。初対面の男に、話す内容として相応しかったのだろうか。
非難されるかもしれない。ロクでもない奴だなと。蔑まれるかもしれない。
自ら話しておきながら、アリスの胸は、不安のような恐怖のような、女々しい感情に満ちていく。
だが、そんなアリスの気持ちと裏腹に …… いや、そんなアリスの気持ちを打ち払うが如く、カイトは言った。
「なるほど。いーね。 …… うん。採用」
「 …… え？」
これっぽっちも想定していなかった反応・言葉に、思わず目を丸くしてしまったアリス。
だが、しばらく目をぱちくりさせ、ようやく思い出す。
あぁ、そうだ。これは、面接だった。そういえば、アルバイトの面接だった、と。
「いつから来れるー？」
「えっと、そうですね …… 来週から、でしょうか」
「そか。んじゃ、その方向で準備しとく。制服はー …… Sでいーな。お前、ちっこいし」
「あ、はい。大丈夫だと思います」
「ういー。んじゃ、これにて面接は終了！ おつかれー」
デスクに肩肘、頬杖をついた状態でケラッと笑うカイト。
手元の書類に何かを書き込むカイトを、アリスは、ジッと見つめた。
そして、何かを書き込むカイトの手がピタリと止まった瞬間、今だとばかりに声を放つ。
「あの、すみません」
「ん？」
「私、実は …… 」
意を決し、伝えようとした。
それまで、伝える気はなかったのだけれど。
目の前で笑うカイトという男が、あまりにも朗らかに笑うから、思わず、伝えたくなってしまった。
けれど、伝えることはできなかった。いや、正確に言うなれば、伝えさせてもらえなかったというべきか。
「あぁ、いーよ。そっちは無理に話さなくて。でも、そのうち、ゆっくり聞かせてな」
アリスが伝えるより先に、カイトは、そう言った。
優しく諭すようなその言葉は、把握していなければ、絶対にでない言葉だ。
「 …… わかりました。ありがとうございます」
「いえいえ、どーいたしまして」
「それでは、失礼します」
「あいよー」
先程、吐き散らかした罪の意識。犯した罪。だが、アリスには、もうひとつ。
いまだに割り切ることができず、伝えることも躊躇わせる罪の意識があった。
オーナールームを出て、廊下を進む最中、アリスは気付かされる。
いつのまにか、急いていた自分。
無意識のうちに全てを吐き出し、楽になろうとしている自分がいたことに。
今まで、誰にも話さなかった、話せなかった過去。罪の意識。
話すべきではないのだと、いつしか、そう言い聞かせていたのかもしれない。
ずっとこのまま、罪と共に。消えぬその意識を背負って生きていくしかないのだと。
でも、本当は。本心は、そうじゃなくて。いつだって、苛まれていて。救われたくて、仕方なかった。
道端で拾った一枚のチラシ。
とびっきりの罪人を求む、不可思議なカフェ、クライマーズ・カフェ。
偶然にしろ、必然にしろ、アリスはこの日、自身の本音を知ったのだった。
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The cast of this story
７３４８ / 石神・アリス / １５歳 / 学生（裏社会の商人）
ＮＰＣ / カイト / １９歳 / クライマーズカフェ・オーナー
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Thank you for playing.
オーダー、ありがとうございました。
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