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<東京怪談ノベル(シングル)>


Annihilation Sister 2



 トン、と高く跳躍した瑞科が、裾を翻し頭上からの一撃を見舞う。くるりと反転し、背後の魑魅魍魎へと掌底を。
 もしそこに瑞科と魑魅魍魎――狩る者と狩られるモノ以外が存在し、その一方的な蹂躙とも言える場を見ていたならば、彼女の軽やかで華麗な動きに目を奪われただろう。
 瑞科が縦横無尽に動き回る度に翻る裾からは、ニーソックスに覆われたしなやかな足――時には際どい位置の素肌さえ見る事が出来ただろうし、その強靭なバネを持つ筋肉の躍動は容易に感じられたに違いない。圧倒的な強さで標的を屠る瑞科の姿を目にすれば、健全な男性は誰しもがそこに情欲を抱くだろう。
 そう思わせるほどに、敵を殲滅せんと舞うように戦う瑞科は、えもいわれぬ色気を湛えていた。元々の顔のつくりもプロポーションも、誰もが羨み、憧れ、そして見惚れるであろうものだが、何より戦闘中の瑞科は纏う雰囲気が違った。
 神聖不可侵の聖女のような、人々を惑わし狂わす毒婦のような――そんな矛盾した印象を与える、けれど一度目にすればその虜になるだろう、鮮烈な姿だった。
 一体の魑魅魍魎へと踏み潰す勢いで蹴りを入れ、その反動で跳び上がり、くるりと着地する。
「……こんなものですの? もう少し楽しませてくださるかと思いましたのに……見込み違いだったようですわね。わたくし、無駄に時間を使うのは好きではありませんの」
 瑞科は笑みを浮かべる。周囲の魑魅魍魎が、何かを感じ取ったように警戒の気配を強めた。
 そんな魑魅魍魎達の様子に気付かぬふうに、瑞科は前触れなく方術を放つ。それによって、そこに居た魑魅魍魎の大半は塵となり消え失せた。
 瑞科は特に何の感慨も抱かず、己の為した結果を見遣る。
 何かを待つような――試すような空白の時間の後。
 濡れたように艶やかな唇が、弧を描いた。
「そろそろ、出ていらしたら如何ですの?」
 挑発的な響きの瑞科の声に応えるように、空間が揺らぎ――先まで瑞科に屠られていた魑魅魍魎とは比べ物にならない程の存在感を持った異形が姿を現した。
 常人であれば、それが発する禍々しい気を感じただけで恐れ、怯え、何を考える余裕もなく逃亡を図ろうとする――もしくはそれすらも恐れによって叶わないかもしれないほどの、強烈な負の気配。
 しかし瑞科は常人ではなく――百戦錬磨の武装審問官だった。負の気に中てられる事も、恐れや怯えを感じる事も、ましてや逃亡を図ろうとする事もなく、ただ毅然とそれを見据える。
 それは、瑞科の倍はあろうかという体躯と、赤黒い肌、鋭い牙、そして一対の角を持つ異形だった。
 その姿は、ヒトの想像する『鬼』に酷似していたが――瑞科はそれが実際何と呼ばれるモノであるかを考える事はしなかった。
 受けた指令は、この廃墟に巣食う魑魅魍魎の殲滅。その種別が何であるかなど、任務遂行には関わらない。
 故に瑞科は、扇情的に笑み、臨戦態勢を整えて言い放つ。
「ようやくのお出ましですのね。わたくし、待ちくたびれてしまいましたわ。……真打は後から登場するのが定石とは言っても、限度があると思いませんこと?」
 言うと同時に、すらりと剣を抜く。シスター服と剣――相容れないように思われるその組み合わせが、瑞科の魅力を引き立たせる。むしろそれこそが、瑞科の本質を表しているのかもしれなかった。
「少しは楽しませていただけると、これでも期待しているのですけれど……わたくし、自分の力量には自信がありますの。――…貴方はわたくしに、指1本触れますかしら」
 己への自信と、そして相手への挑発を込めて。
 にこやかに告げて、瑞科はブーツを高らかに鳴らして踏み込んだ。
 剣舞のような美しく流れるような動きで、『鬼』の急所を狙う。『鬼』は瑞科の速度についてこれるはずもなく――けれど、かろうじて急所を無防備に傷つけられる事だけは避けた。
 しかし完全な回避に至らなかった『鬼』に、瑞科は返す刃で今度こそ急所を切り裂く。
 耳障りな叫びに眉一つ動かさず、瑞科は二度、三度と斬撃を見舞った。
 たまりかねたようにその屈強な腕を振りかぶった『鬼』の、攻撃というには拙いものを軽いステップで避ける。『鬼』の動作によって生まれた風圧が、瑞科の纏うシスター服の裾をはためかせ、そのしなやかな足を露出させる。『鬼』に人間のような欲情があれば、それに目を奪われただろうが――『鬼』は意志はあれど、獣に近しいモノだった。瑞科が距離をとったのを好機と見たのか、再び腕を振り上げる。
 しかし、単純極まりないその動きは、勿論瑞科には読まれており――余裕の笑みを湛えた瑞科は『鬼』の腕を一息で斬り飛ばした。
 驚愕と恐れを滲ませた気配を感じ取って、瑞科はゆるりと笑みを浮かべる。
「――…まだ、始まったばかりですわ。お相手は最後までつとめてくださいませね?」
 圧倒的な強者の余裕と共に、退路を断つようにそう告げたのだった。