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<東京怪談ノベル(シングル)>


Annihilation Sister 3



 それから先の事は、戦いというには一方的なものだった。
 剣によって裂き、貫き、或いは切り落とす。方術によって宙へ飛ばし、或いは叩き落し、吹き飛ばす。
 瑞科に指1本触れることすら叶わずに、『鬼』は瀕死にまで追い込まれた。
 時折、首領格なのだろう『鬼』を守ろうとするかのように他の魑魅魍魎が横槍を入れてきたが、そんなものは瑞科の妨げにならない。華麗にそれらを捌いて、瑞科は既に己の意志で動くことさえ出来ない『鬼』の眼前に立った。
 手にした剣を掲げ、現れた時の強烈な気配すら殆ど失った『鬼』を睥睨し、哀れむように目を細める。
「お別れの時間ですわ。覚悟はよろしくて?」
 返るのは沈黙。息も絶え絶えの『鬼』からは、勿論、返答などない。
「……それでは、ごきげんよう」
 呟くような言葉と共に、瑞科の剣が『鬼』の首を貫く。
 そして、次の瞬間には、『鬼』の存在そのものが消え失せる。この世ならざるモノ――異形のモノの大半は同じ最期を辿るが、その原理は不明だ。瑞科が行うのは、ただ命を屠る行為。その結果起こる事象についてなど、知らずとも何ら問題ない。
 ついでのように僅かに残っていた雑魚も一掃し、瑞科は微笑を浮かべて呟く。
「――任務達成、ですわ」
 瑞科以外に生あるモノの存在しなくなった廃墟を満足げに見回し、満足げに頷く。そして、ブーツを高らかに鳴らしてその場を後にした。




 『教会』に戻った瑞科は、まず自室へと向かった。
 魑魅魍魎に触れられるような愚は冒さなかったものの、戦闘行為により少し埃を被ったような様になっている戦闘服を脱ぎ捨てる。
 ヴェールやケープ、二枚重ねのグローブを外し、戦闘用シスター服も脱ぎ去った。
 そして、戦闘時はそれこそが必要であるが、戦闘が終われば窮屈とも言えるコルセットも外す。紐を緩めれば、解放される感覚に、ほう、と悩ましげな息が漏れた。
 その心地よい解放感に促されるまま浴室へと向かってしまいたい、と考えないでもなかったが、先に任務の報告を終えるのが先だった。
 己が全幅の信頼を置いている司令の姿を思い浮かべ、彼の前に立つに相応しい服を手持ちから選び出す。
 瑞科が選んだのはタイトなミニスカートのスーツだった。司令官の部屋を訪れるのに失礼のないフォーマルなものではあるが、体のラインを強調する服でもある。瑞科のプロポーションからすれば、どのような服であってもそれは免れないと言えるのだが。
 着替えを終え、身嗜みを整えた瑞科は、すぐさま司令室へと足を向けた。
 通い慣れたそこに辿り着き、戸を叩いて入室許可を請うと、すぐに応えがあった。
「失礼いたします」
 一礼をし、入室する。慣れた動作で、司令官の座る机の前へと進んだ。
「では、報告してくれたまえ」
 司令の言葉に、簡易な報告を返す。特筆すべきことは何一つなく、予定範囲外の出来事も起こることなく、全て滞りなく終了した、と。
 瑞科の報告を聞き終えた司令は、一つ頷く。少し表情を和らげ、瑞科を見遣った。
「ご苦労。よくやってくれた。君ならば問題ないだろうとは思っていたが、想定以上に早期に片がついたな」
「お役に立てたようで、わたくしとしても嬉しく思いますわ。……思ったより楽な任務でしたから、早い帰還になったのですけれども」
 瑞科の言葉に、司令が片眉を上げる。
「楽、か。君にかかっては、大半の指令が『楽』なものになってしまいそうだが…」
「あら、そんなことはありませんわ」
「まあ、頼もしい限りだ。次もよろしく頼む」
 指令を下す側からすれば頼もしいばかりの瑞科の様子に、司令も満足げに頷きながら言う。
「勿論、『教会』所属の武装審問官として、どのような任務であっても務めさせていただきますわ」
 瑞科もまた、それに力強い返事を返した。



 司令官室を退出した瑞科は、廊下を迷いのない足取りで歩みながら、先程の司令との遣り取りを思い返す。
 司令から向けられる揺るぎのない信頼。それを損なうような事など、あってはならないし、そうするつもりもない。
 次の任務――それがいつになるか、どのような内容になるかもまだ分からないが、それもまた、今回のように完璧にこなして見せる。
 そう決意も新たにした瑞科は、ひとまずそれに備えて英気を養うため、自らの部屋へと向かったのだった。