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<東京怪談ノベル(シングル)>


+ その万華鏡曰く付き故に +



「るんるんるん〜♪ こんにちはー、蓮さん。師匠からお届け物でーす!」


 その日竜族の少女、ファルス・ティレイラは自身の師匠からのお使いでアンティークショップ・レンへと訪問していた。
 店主である碧摩 蓮(へきま れん)は持っていた煙管から漂う煙を吹き消し、少女を店内へと優しく手招く。それに従いティレイラは上機嫌で蓮へと近付いた。ここアンティークショップは面白いもの、可笑しなものが沢山あり彼女の興味を非常にそそる。
 だが今日の目的は見学ではなくあくまで「お使い」だ。ティレイラは手に持っていた赤い箱とA4サイズの封筒をそっとカウンターの上へと置いた。


「これが例のアレだね」
「はい、蓮さんの依頼で師匠が魔法鑑定を済ませた『なんだか怪しげな文様が描かれた万華鏡』です」
「ふふ、ご苦労様。お茶でも飲んでくかい?」
「わーい、飲みますー!」


 蓮の言葉にティレイラは無邪気に両手を上げながら喜ぶ。
 実際今日は外気が寒く、帰りに何か温かい物を買って帰ろうと思っていたのだ。これは彼女にとって好都合というもの。蓮は貰ったばかりの封筒を開き、出たばかりの鑑定結果が書かれた紙を引き出しながら奥へと引っ込む。「ちょっと待ってておくれよ」という言葉通りティレイラは手頃な椅子を引き寄せ、両足をまっすぐ伸ばしながら其処へと腰を下ろした。


 きょろりきょろり。
 蓮がいなくなり一人きりになってしまった店内。
 そこはまさに宝物の山。
 もちろん此処が『宝』だけが眠っている店ではないことはティレイラも知っている。中には呪詛が掛かった大変危険な小物なども転がっていたりするので手に取る時は用心しなければいけない。だが基本的に観察するだけなら呪いなど掛からない。そう簡単に呪われてしまうのならば店主の蓮は一体いくつの災害に遭わなければいけないか。


「今回の万華鏡は結局ただのアンティークっぽいのよね〜。師匠も『そう大して問題ないでしょう』って言ってたし!」


 カウンターに置き去りにされた赤い箱の蓋をそっと押し開ける。
 中には誰が見ても一目で怪し過ぎる文様が描かれた円形状の筒――万華鏡が寝かされていた。朱が基調の其れに描かれた文様は見方を変えれば奇妙、もう一方では魅惑的に感じられる。そしてティレイラにとってその万華鏡は『興味の対象』であった。
 蓮が店の奥で彼女のためにお茶を用意している間にティレイラは万華鏡を手にとってみる。
 当然ながら特に何も起こらない。
 少々激しく振ってみたり、揺すりながら中の音を聞くも中でさらさらと何かが移動する音だけが聞こえるのみ。
 それは細かなガラス板が入っている万華鏡であれば当然聞こえてくる音である。


「やっぱりただのアンティークなのよ。模様はちょっとしたアクセントって事!」


 ティレイラはそう一人で結論付けると、万華鏡の本来の使い方を行おうと片目を塞ぎそして万華鏡の中を覗いた。
 そして視界の先には鏡で区切られた魅惑的な空間が広がっている事に感動した。傾ければ模様は一瞬たりとも同じ形を成さず、絶えず変化し続ける。
 赤、青、黄、緑……くるくる変わるそれはちょっとした異空間。
 感嘆の息がティレイラの唇から零れ落ちていく。
 楽しいと唇は紡ぎ、光をもっと求めようと身体は照明へと向きを変える。


―― だが事態は一変した。


「え、えっ!?」


 急に万華鏡から眩い光が溢れ出し、ティレイラを覆う。
 やっぱり何か呪い掛かっていたのかと慌てて手を離すが、指先から硬い音が聞こえ始めた。それはティレイラの身体が冷たい石へと変化していく音。肌色の手先から灰色の石へと硬化し柔らかな肉をも蝕んでいく。


「いや、やぁっ、蓮、蓮さんっ!! 助け、た、すけ、……」


 ティレイラは焦りその場から逃げようとするが、それすら叶わない速度で身体は固まっていった。助けを呼ぶ声も途中で途絶え、驚愕の表情のまま顔にまで石化は進んでいく。


「なんだい、今の声は――ティレイラ!?」


 やがて物音を聞きつけ不審に思った蓮が店へと再び姿を見せた頃、其処には一人の少女石像の姿が出来上がっており……。


 蓮は封筒の中から取り出した紙――鑑定書を改めて見返す。
 其処に書かれていた文章はこう。


『万華鏡を覗くと中に籠められた魔力が流れ込み、暫くの間石にされてしまう術が掛かっている』


「はぁ……随分と綺麗な石像が出来上がったもんだねぇ。あたしの声は届くかい?」

―― 助けて、蓮さん!

「魔力で意識だけは残ってるようでなによりだ。なぁに暫くすれば元に戻れるってあんたの師匠も保証してくれてるよ。訳有り品に興味本位で近付いた罰だとでも思って元の姿に戻るまでこの店にいな」

―― そ、そんなぁ〜っ!!

「安心おし。暫くは『話が出来る少女の石像』と売り文句をつけて店に飾っておいてあげるから」

―― 万が一買い上げられちゃったら困るじゃないですかっ! ふぇええええ〜んんっ!!

 少女の念波が弱音を吐く。だが蓮は其れをわざと聞いていないふりをした。
 カウンターの上に転がっているのは問題の万華鏡。蓮はその細い指先で万華鏡を摘みあげ、ティレイラが持ってきてくれた箱の中へと再び仕舞いこむ。


「こんな曰く付きの物を子供のような興味で覗いたあんたが悪いんだよ」


 その唇に塗られた紅は妖しく光り見る者を惹き付ける。
 けれど石像になった少女はその反応すらもう返す事が出来なかった。











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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【3733 / ファルス・ティレイラ / 女 / 15歳 / 配達屋さん(なんでも屋さん)】

【NPCA009 / 碧摩・蓮(へきま・れん) / 女 / 26歳 / アンティークショップ・レンの店主】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、またの発注有難う御座いました!
 今回は万華鏡! これまた綺麗な題材ということでキラキラと石化して頂きました。
 いつもながら面白いプレイングで楽しませて頂いております。ティレイラ様も楽しんで頂ければ幸いです。