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<東京怪談ノベル(シングル)>


+ 悪魔殲滅 上 +



 カツ、カツ、カツ。
 彼女は堂々とブーツの音を鳴らし、気配を隠さないまま歩いていく。なぜならその必要性を感じていないからだ。
 翻るシスター服は腰下までスリットが入っており、歩く度に彼女の美脚を晒す。編み上げのロングブーツを履いた脚は時折肌色を見せ酷く扇情的だ。
 彼女の名は白鳥 瑞科(しらとり みずか)。
 「教会」という組織に属するシスターである。
 だがただのシスターではない。そして彼女が属する教会もまた一般的なものではない。


 彼女が属するのは「教会」と呼ばれる「世界的組織」。
 「教会」は太古から存在する秘密組織で、人類に仇なす魑魅魍魎の類や組織をせん滅する事を主な目的としており、世界的な影響力を持つ。
 其処に所属するものは武装審問官と呼ばれ、特に女性は「戦闘シスター」の名を頂く。


「お邪魔いたしますわよ」


 それはまるで知人の家に訪問するかのように軽やかに。
 ロングヘアーを靡かせながら口にした言葉を聞いたのは悪魔崇拝の教団員達だ。突然現れた絶世の美女に彼らは動揺を隠しきない。
 瑞科は廃墟で行われている事柄を一瞥するとまるで聖母のような優しい笑みを浮かべる。
 部屋全体に広がる妖しげな魔方陣。
 中央に寝かされているのは生贄となった少女。胸の肉と骨を開かれているところからしておそらくもう命はない。


「埃臭い部屋です事。――さて皆様。貴方達には此処で滅して貰いますわ」


 突然現れた女が何を言い出すかと室内に居た人間達がどよめく。
 否、彼らは人間ではない。悪魔に取り付かれ人外の力を持つ教団員。人間以下に落ちた者達だ。男も女も、もはや人間とは呼べない。
 カチ、と瑞科が剣を携え構える。
 その様子を見た悪魔達は彼女を敵とみなし、一斉に襲い掛かった。


 邪魔をするものには死を。
 肉を切り裂け。
 血を撒き散らせ。


「醜い方々ですこと。もっと優雅に事を進めたかったのに本当に残念ですわ」


 瑞科は悪魔達を嘲笑する。
 視線で、唇の動きで。
 襲ってくる悪魔達を余計な動き一つ起こさず瑞科は斬り捨てていく。下級悪魔に憑かれている人間はそれだけで充分。右へ、左へ。まるでそれはダンスでも踊っているかのように軽やかなステップで。
 剣を掴む手先に感じるのは衝撃。悪魔達を神の御許へと送る儀式。
 腐敗臭が鼻をつく。
 死人か、贄の残骸か。それとも人外ゆえの――。


 弾む身体は柔軟に形を変える。
 頭部を狙うように拳が振るわれれば彼女はしゃがみ込み、下から首を刎ねた。炎を操る者が出てくれば、その炎が操れなくなるようにその手首を斬り心臓へと剣の刃は埋まる。
 圧倒的な力の前に次第に悪魔達は数を減らしていく。
 瑞科は受けた任務は「完全なる殲滅」。
 一人たりとも逃がしはしない。


 やがてその場に居た悪魔は全て地に伏す。
 静まり返った室内に一人、彼女だけが立っていた。


「あら、嫌ですわ。汚らしい」


 いつの間にか悪魔の身体から飛んだらしい血液が太腿へと付着している事に気付くと、段になった場所に足先を乗せそれを懐から取り出したハンカチで拭い取り汚れた其れは地に捨てた。
 汚れた血液が触れることすら赦し難い。
 彼女はブーツの音を鳴らしながら優雅に振り返る。
 豊満な胸の下で腕を組み、今は肉の塊と化した悪魔達を見下げて嗤った。


 キィィィ……。
 後ろから扉が開く物音。それに引かれ彼女は視線を移動させる。


「ふふ、まだいらっしゃったの?」


 唇は弧を描く。
 開いた扉の向こうから室内へと流れ込んできた空気に目を細めながら。


 現れた人物は今までの悪魔とは違う――上級悪魔の香りがする。


「さあ、いらっしゃい。わたくしと遊びましょう?」


 片手を前にし誘う彼女のダンスはまだ続く。
 その麗しき肢体が踊る時――悪魔は一体何を見るのだろうか。