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<東京怪談ノベル(シングル)>


+ 悪魔殲滅 下 +



 彼女は踊る。
 悪魔とのダンスを。

 聖女は踊る。
 神の代理人として粛清を行う為。


 ひらり。
 布地が翻って肌色が残像を描く。ブーツが石造りの地面を蹴って彼女は悪魔へと一気に距離を詰める。純白のヴェールがひらり、ひらり。場に相応しくない純粋なその白が悪魔の視界を埋めた瞬間、悪魔は勢い良く身を下げた。
 散ってしまった仲間達。
 転がる死体の意味を一瞬にして理解しての行動だった。
 瑞科は目を瞬かせ嬉しそうに笑う。
 やはり今までの悪魔とは違うのだと……そう感じ取って幸せに悦する。斬り捨てた悪魔達はただ単純に瑞科の事を排除しようと向かってくるだけだった。だが対面したこの悪魔はそれ以外を選択しようとした。
 剣は何も無い宙を割き、身体に追いついたスカートの裾が身体にぴったりとくっつく様に触れる。


「その判断能力、もしかしてこの悪魔教団の指導者辺りかしら」
「お前一人が私の仲間を皆殺しにしたのか」
「あら、今まで何人もの可哀想な子羊を生贄にしてきた悪魔が皆殺しだなんて……そんな価値もありませんことよ」


 今は一対一。
 指導者である悪魔はまだ年若い青年で、憑かれた身体に少々同情する。だが中身は悪魔である事は変わりない。悪魔の青年は背に水の塊を浮かせるとそれを瑞科へと放つ。それはまっすぐ彼女へと襲い掛かり、途中形と温度を変え氷柱となって壁へと刺さった。
 遠距離攻撃を送ってくる相手に対して近距離を得意とする瑞科は少々やっかいさを感じる。だが面倒ではあるものの自分が劣勢であるとは感じない。
 軌道が見えれば避けるのは簡単。
 最小限の動きで左右に避ければ悪魔はより多くの氷柱で攻撃を開始する。
 だが避けることが困難になれば叩き斬るまで。
 欠片が散るがそれは肌に触れる事無く水へと変った。


 ふくよかな胸元が上下に弾む。
 髪の毛が風を含んで広がっては背中で流れる。
 どんな動作も彼女の魅力を引き立たせるものにしかならない。そして攻撃が止んだ一瞬、剣の先端を悪魔へと向け彼女は妖しく微笑んだ。


「こんな馬鹿みたいな攻撃でこのわたくしに指一本でも触れることが出来ると思ってまして?」
「――ッ!」
「残念ですわ」


 ほんの僅か。
 それこそ息を呑むほどの隙。それが悪魔の油断。
 その一瞬の隙で瑞科は悪魔の傍まで身を寄せ、そしてまるで抱擁するかのように剣を相手の胸元へと埋めた。
 悪魔は信じられないというように目を見開き、唇から零れあふれ出す血を地面に垂らす。密着した身体は女の柔らかさを知らすのに、その手から放たれた攻撃は強く悪魔を貫く。


 やがて青年は崩れ、息の根は止まった。
 足掻く様に何度もひくりと指先は動いていたが、その手先にブーツの先端を置き踏むと醜く潰れた。
 そして悪魔の血で汚れた剣を眺めながら瑞科は愉悦する。


「任務達成ですわ――しかし本当に、弱くて残念でしたことよ」


 転がる死体。
 多くの悪魔達へと柔らかな微笑を浮かべながら彼女は戻るべき場所へと脚を進ませた。



■■■■



 窮屈だと彼女は思う。
 一番好きな瞬間はやはり素の自分になった時だと感じずにいられない。
 戦闘服を脱ぎ、裸体となり、ただの「瑞科」になる。解放感という快楽……任務後のこの時間が好きで堪らない。


 だがその時間は長く続かない。
 瑞科は身体のラインを強調するタイトなミニスカートスーツに着替え、気分を切り替える。これから大事な報告が待っているのだ。
 スーツに収まりきらない胸元に視線を下ろし少しだけ溜息をつきながら司令官の部屋へと行く。二度戸をノックすれば中から入室許可の声が掛かった。


「先日受けました悪魔教団の殲滅指令ですが先ほど無事完遂いたしました」
「よくやった」
「とても楽な任務でしたわ。悪魔と言っても数が多いだけでしたもの」
「そうか。今日はゆっくり休むがいい――次も頼む」
「お任せくださいませ」


 司令官は瑞科の言葉に満足げに頷き、瑞科はその反応に心満たされ心からの笑みを見せた。
 敬礼と共に部屋から退室した胸に空気を溜めるように大きく息を吸う。そして吐き出した瞬間には緊張が解け、身体の力が抜けた。
 一つの任務が終わり、次の任務へと。


「ふ、ふふ。何が来てもこのわたくしに勝てるものなどいやしませんことよ」


 まだ見ぬ任務へと思いを走らせる。
 どんな敵が目の前に立ち塞がっても彼女は揺るがない。――揺るぐ理由がない。
 戦闘シスターである限り彼女は戦い続ける。


 今日も、……また明日も。