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<東京怪談ノベル(シングル)>


+ 戦場へ赴くその為に +



 この世に「教会」と呼ばれる世界的組織がある。
 「教会」は太古から存在する秘密組織で、人類に仇なす魑魅魍魎の類や組織をせん滅する事を主な目的としており、世界的な影響力を持つ。
 其処に所属するものは武装審問官と呼ばれ、特に女性は「戦闘シスター」の名を頂く。


「瑞科、任務だ」
「ええ、そのために此処にいますもの」
「先日の複数の敵殲滅任務、見事だった。今回の敵は単独だからより簡単だろう。一人で任せても構わないな?」
「ふふ……もちろんですわ」
「頼もしい限りだ」


 そして今日も「教会」は動く。
 戦闘シスターの一人である白鳥 瑞科(しらとり みずか)は上司である司令の前に優雅に立ち、唇に指先を押し当てる。
 カツ、と鳴ったのは彼女が履くブーツ。
 茶色の髪の毛を優雅に靡かせ目元を細めて笑う。
 胸元を強調する色っぽいタイトスーツとタイトスカート姿の瑞科は詳しい情報を受け取ると司令に対してびしっと敬礼をしその場を後にする。


「連続殺人事件の犯人である悪魔に取り付かれた人間の殲滅……今回も楽勝ですわね」


 シュル……と布地が擦れる音が響く。
 場所は瑞科に与えられた部屋の一角、今から彼女は自らが受けた任務へと赴く為戦闘服へと着替えるのだ。
 スーツを脱げば押さえつけられていた胸元が解放され、弾むように飛び出てくる。それをシャツの上から一度撫でて深呼吸した。やはり押さえつけ過ぎるのは良くない。


「今回の敵は一人……力無き子羊を自分勝手に天へと送った事後悔させてあげなければいけませんわね」


 ちろり、と舌先を伸ばして唇の表面を撫でる。
 部屋の壁に取り付けられた全身鏡を眺めればそこには笑顔の瑞科が居た。少女を脱し、大人の女性へと見事成長した瑞科のボディラインは艶やか。それは今身に纏っている布地を脱ぎ、下着姿へと変ればよりはっきりとしたものへと変る。


 ベッドの上へとスーツらを脱ぎ捨てると彼女はクローゼットへと歩む。
 その中から取り出したのは一着の服。
 一見すればそれはただのシスター服――神に仕えるものとしての礼服だ。だが実際は特殊な生地と縫製で仕立て上げられた戦闘服だ。
 彼女は下着姿のまままずその戦闘服を細かくチェックし、何か不備などないか確認する。裾を捲り、傷や汚れなどないか……こうした事前確認を欠かさない事も大事なのだ。一つ綻びがあればその分だけ防御力は下がってしまう。油断は出来ない。


 そして全てのチェックが終わると彼女はまずベッドに腰掛け、最初に太腿に食い込む程ぴっちりと締め付けてくるニーソックスを履く。爪先を空中に浮かし指先を動かして具合を確かめると少しだけ楽しくて微笑んでしまう。傷一つ無い肌に指先を這わせれば自分でも幸せな気分になれた。
 続いてこれまた見事身体にぴったりと張り付くように瑞科専用に作られた戦闘用シスター服本体を身に着ける。それは肉弾戦を得意とする彼女のために腰下までスリットの入った動きやすいもの。ある意味彼女の美脚を引き立たせる要因の一つとなり、見る者の目を惹き付ける。


 そして一度腰を捻り状態を確かめると胸を強調するコルセットを着け胸元を固めた。締め付ける度に気が引き締まっていくこの感じがいい。そして純白のケープとヴェールをつけ再び鏡を見る。外見が変っていく様子を眺め見る事によって自分の中で切り替えが行われている事を感じた。
 聖女から戦乙女へ。
 祈るだけの女から戦いの場へと赴く女へと。


「ええ、絶対に許しませんことよ。どんなに泣こうが喚こうが……悪魔、貴方が犯した罪の重さはわたくしが身をもって教えてあげますわ」


 ニーソックスの上から膝まである編上げロングブーツを履き、踵を地につけ音を鳴らす。最後に二の腕までの装飾の在るロンググローブと革製の手首までのグローブを二重重ね指先を一本一本ばらつかせるように動かした。
 状態は非常に良好。
 これならば今から始まる戦いもきっと華麗に終えることが出来るだろう。


「さあ、参りましょうか」


 自分の愛剣を手に彼女は鏡の前に立つ。
 そこにいるのは清らかさだけで出来た女ではない。
 戦乙女としての強さと凛々しささえも身に纏いつつも顔に貼り付けた表情は聖母のよう。
 カツン。
 ブーツの音を鳴らし、出撃する様は自信に満ち溢れている。
 髪が背で揺れ、ケープとヴェールと擦れてシャラシャラ音が耳元で響く。長い長い廊下を抜け、与えられた情報を元に行くのは――悪魔が潜伏しているという廃墟。
 彼女の戦いは今から始まる。


「このわたくしを相手にすること後悔すると良いですわ」


 ぺろり。
 その時唇を舐めた舌先は愉悦の色を湛えていた。