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<東京怪談ノベル(シングル)>


十字架を胸に秘め 〜接近〜


 侵入者を排除せよ……地の底を震わすような威圧の声が洞窟内に響く。
 その声に呼応し、人間の姿を模した組織員が本性を現す。それはもはや、何の生物でもないおぞましい存在。しいて言うなら「魑魅魍魎」と呼ぶべきか。彼らはかすかな人間の匂いをたどり、ゆっくりと歩き出す。
 ここは悪逆非道を尽くす悪魔と契約を行った暴力組織の内部である。組織員は首領に従う呪いをかけられ、かろうじて意思を維持するだけの存在となっていた。液体状の体は人間の形をしているが、もはや化物。彼らは首領の指示に従い、基地をくまなく探す。

 侵入者はなんと、単身で乗り込んできた。
 太古から存在する世界規模の秘密組織「教会」より派遣された、武装審問官という地位を持つ麗しき女性……白鳥 瑞科。任務遂行時は戦闘服を着用するものの、その姿は荘厳かつ魅力的である。
 ベレー帽を被り、上半身は肩にのみ甲冑を装着。そこから短いマントがたなびく。
 上着は神殿騎士のような装飾の施されており、特殊素材で編み込まれた逸品。豊満な胸を押し上げ、清楚な魅力を増幅させている。
 下はミニのプリーツスカートを履き、太腿に食い込む黒のニーソックスに膝まである白の編み上げのブーツ。手には戦闘用のロッドを持つ彼女を、誰が侵入者だと思うだろうか。
 敵は瑞科を前にするも、思わず敵を探した。しかし、どこを見ても他に敵はいない。そこで初めて彼女を敵であると認識した。来客用の少し広めのホールを戦闘の舞台に選んだ瑞科は、ようやく敵が来たことに一安心。ゆっくりとロッドを構え、敵を挑発する。
「人類に仇なす者たちは、このわたくしがお相手いたします!」
「うぐわぁ? おごあぁぁーー!」
「ぐわぁぁーーー!」
 相手がどんな風体だろうと、化け物どもにはお構いなし。もはや冷静に見分けることなどできない連中は、一斉に瑞科へと襲いかかる。
 それを阻むかのようにロッドの先で敵の額を砕き、体を大きく回転させて回し蹴り。小気味よくブーツの音が「カッ! カッ!」と響く。
 自然と胸も揺れ、肌も輝く。激しい戦いの中にも、どこか鮮やかさがある。流れるような動作で攻撃を繰り出し、液状化したかのような体に容赦ない打撃を食らわせた。
 組織員の力量は瑞科の足元にも及ばないが、しぶとさだけは天下一品。痛みを感じぬ体の一部を鞭のように伸ばし、なんとしても一撃を食らわさんと奇声を上げつつ戦う。そう、いまだシスターにダメージを与えていないどころか、一度も触れていないというのが現状だ。

 次から次へと新手が迫るも、瑞科にピンチは訪れない。地面に転がる敵を避けるたび、長く美しい髪がふわりと揺れた。
 ロッドを早く、そして鋭く操れば剣となり、力強く叩けば打撃となる。ひとつの武器をひとつの役割に留めない使い方をするのが、優秀な武装審問官と呼ばれる由縁。さらに体の軸とすることで体術を繰り出し、予測不能な攻撃パターンで敵を圧倒した。
 こうなると、敵の損害は膨らんでいくばかり。地に伏した組織員の体は徐々に増え、味方の進軍を邪魔する格好になってしまう。彼らに瑞科のような立ち振る舞いをしろというのは、とてもではないが無理な話だ。
 ひとりが猛然とタックルを仕掛けようとしたが、足元の味方が見えていないので簡単に転倒。その後ろから続こうとしていた組織員も次々とドミノ倒しになっていく。
 このチャンスを瑞科が見逃すはずもなく、転がった敵は残らずロッドで頭を割られた。彼女はこの時、足元しか見ていない。敵は数の暴力で押し切ればいいのだが、これをチャンスに繋げられない。
 もちろん瑞科も早々にそれを察知しており、凛々しい声と鋭い眼光で、敵の反撃を押さえ込む。
「いつ襲ってきても構いませんわよ!」
 こうも自信満々に言われると、敵も臆して前に出ない。決定的な好機も簡単に逃し、いたずらに犠牲を増やすばかりだった。
 瑞科はうろたえる敵にあえて向かっていく。相手に考えさせる暇を与えず、一気に攻め立てるのも戦術のひとつ。舞い散る汗の粒は、戦う乙女をより艶やかにする。唇と胸が揺れるたび、組織員の骸がまたひとつ増える。もはや全滅は、時間の問題だった。

 さすがの瑞科も心の中では敵の弱さに呆れ、戦いにも飽きを感じていた。多彩な攻めといっても、彼女にとってはさほど工夫しているわけでもない。
 もちろん敵も、この事態を打開すべく動き出した。いよいよ敵組織の首領が、その姿を現す。屈強な体のメンテナンスを兼ねて、部下を殴り飛ばして登場した。瑞科はわずかに微笑む。
「ようやくのお出ましですか?」
「なかなかの腕前だな。楽しめそうだ……ふふふ!」
 首領は骸を足蹴にしながら、ゆっくりと瑞科との間合いを詰める。邪悪な装飾を施したナックル……これがボスの武器らしい。
 暴悪にお似合いの装備を見て、瑞科はロッドを構え直した。激しい戦いは、まだ始まったばかりである。