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<東京怪談ノベル(シングル)>


十字架を胸に秘め 〜激突〜


 邪悪な敵の骸で埋め尽くされたホールの中央に、「教会」より派遣された武装審問官・瑞科と組織の首領が立っていた。
 今まさに、戦いの火蓋が切って落とされんとしている。

 ボスは拳を重ねて気合いを入れると、周囲にいた部下がおぞましき気体となってナックルの中へと吸い込まれた。
「うごおぉぉぉ! しゅ、首領ーーー!」
「ぼ、ぼげあぁぁぁ……」
 不必要な人間をも糧にする。これが悪魔の力……あっという間に足元はきれいに掃除されたが、彷徨える魂は無数に増えてしまう。瑞科は思わず、胸の前で十字を切った。
「臆したか、小娘!」
 そんな姿を見た首領は不敵な笑みを浮かべながら、雄々しく叫ぶ。そして不気味な力を帯びたナックルを重ね鳴らすと、ゆっくりと戦いのポーズを取った。

 先手は瑞科。ロッドをバトンのように体の上で操り、太腿がよりあらわになる下段への蹴りを連続して放つ。
 しなやかで艶かしい肢体を駆使し、タイミングもパターンも読めない攻撃でボスを圧倒した。敵は上をボクシングスタイルで、下を細かいジャンプで避け、反撃はジャブで対応。ロッドと接触するたび、奇妙な金属音が響く。
「わたくしの体に指一本、触れますかしら?」
 瑞科は最接近した際に挑発し、最後にナックルめがけて一撃を振りかぶる。敵は自信満々にそれを受けるが、彼女の目的は間合いを取ることだった。
 瑞科は反動を利用し、距離を離すと空いた手で数個の雷撃を生み、ボスの胸に飛ばす。
「くっ、面妖な術を……!」
「あなたのような穢れた力ではありませんっ!」
 首領はナックルから瘴気を出し、防御膜を作り出す。しかし瑞科の雷撃は発現から激突までのスピードが格段に勝っており、あっさりと全弾命中。ボスは思いっきり仰け反った。
「ぐぬっ! な、なんたる速さ! しかしこちらも!」
 ダメージを負いながらも、ボスは反撃。吹き出した瘴気をナックルに纏わせ、そのままパンチを繰り出す。それは拳の形をした力の塊となって、瑞科の元へと走った。
「甘いですわ……はぁっ!」
 瑞科はすぐに反応し、すばやくロッドを床に突き立てる。
 今度はいかなる能力にも効果のある重力波を放ち、瘴気の力をあらぬ方向へと弾き飛ばした。その衝撃は衰えることなくボスにまで及び、彼は思わず体勢を崩す。
「いただきましたっ!」
 決定的なチャンスを得た瑞科はロッドを棒高跳びの要領で使い、天高く舞い上がって、ロッドの先で敵の頭を叩き割らんとする。
「うがっ!!!」
 渾身の一撃が命中する。
 瑞科の豊満な肉体と髪の動きがピタッと止まるまでに、ボスの体には致命的な激痛が駆け巡った。
 頼りにしていたナックルの瘴気も、ロッドが接している間はどんどん力を失う。聖なる力に導かれ、あるべき場所に戻っているのだ。彼女のセリフ通り、すでに勝負は決していた。
「こ、こうも簡単にしてやられるとは……ぐ、ぐほぁっ!」
 自分と相容れない力が浸食し、混在する体を無理に動かし、首領はなりふり構わず逃走を図る。新手を呼ぶつもりだろうか。
 悪事に手を染め、追い込まれた人間の考えることなど、瑞科には手に取るようにわかる。それこそ飽きるほど多くの敵と戦っているのだから……彼女はそれをさせまいと、一気に敵へ迫った。
「逃がしませんわ……!」
 電撃を再び放って一瞬の隙を作ると、攻防一体の重力波を今度は弾にして食らわせる。
 彼女の攻撃にはない、鈍く重い攻撃が牙を剥いた。首領は自分の見通しと防御の甘さを後悔する暇さえ与えられず、その後は追いついた瑞科の猛攻の前になす術なく膝を折る。
「うご、うご、うごごご!」
 先ほどまでの威厳はどこへやら。首領は悲痛な叫びを彼女の耳に届けた。
 もちろん、そんなものに動揺や同情をする瑞科ではない。敵の膝だけではなく、心を折るまで攻撃を繰り出す。

 その呼吸は、時として甘く聞こえる。天国に行けるはずもない悪行を犯した罪人に囁きかける諦めの吐息。この首領には、どのように聞こえているのだろうか。
 瑞科の圧倒的優位は揺るがない。揺るがしようもない。戦いはいよいよ、終幕へと向けて動き出した。