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<東京怪談ノベル(シングル)>


十字架を胸に秘め 〜報告〜


 戦いの行く末は決まった。もはや、瑞科の勝利は揺るぎない。
 しかし運命に、そして正しき世界に抗う首領は、最後まで悪あがきを披露する。
「おお、おのれぇ……! こ、この場は……なんとしても……っ!」
 首領はホールの外へ脱出を試みるが、瑞科がそれを見逃してくれるはずがない。彼女はロッドを振りかぶり、ボスの心臓めがけて投げた!
「忌むべき魂よ、消え去りなさい!」
 全身がバネとなって繰り出された必殺の一閃は、容赦なく敵の胸を貫いた!
「うぎゅああがあぁぁーーーーーーーっ!!」
 首領は悲鳴を上げながら、そこから黒い瘴気となって粉々に砕け散る。
 あれだけの力を誇ったナックルもまた、悪魔と契約した魂が消え去ったことで、ただの錆びた鉄くずとなって地面に転がった。
 瑞科は戦いの終結を確信すると髪をかき分け、ゆっくりと歩き出す。おもむろに額の汗を拭い、手を払うことで雫を飛ばした。そして敵を消し去ったロッドを回収し、悪しき瘴気を晴らさんと何度か回転させた。そこから生まれる神聖な風に髪が揺れ、その動作で美しい肌も揺れる。
「意志の弱さが悪魔を招き、それがまたさらなる弱さを生みます。強き悪など存在しない……そうは考えられないのでしょうか」
 神々しさを醸し出す着衣に乱れはなく、任務開始時とまったく同じ可憐さを保ったままの勝利を収めた。
 瑞科は敵が弱いことは決まっていると悟りつつも、この時を向かえるたびに「張り合いがない」と感じるのが常である。

 かくして邪悪な組織は殲滅され、瑞科の任務も完了した。
 首領が出現時にすべての部下を吸収したため、洞窟は廃墟と化している。いつもこうなら、「教会」も仕事がやりやすいというものだ。
 それでも瑞科は残党がいる可能性を疑った。
 崇拝する悪魔はとうの昔に使えぬ人間を見限っただろうが、愚かな人間は残っているかもしれない。
 彼女はトドメを刺す直前の首領の行動を不審に思っていた。彼は何度も逃げようと、自分に背を向けている。それが打算だったのか、それとも無我夢中の行動だったのか……どうしても見極める必要があった。
 しかし、人気のない洞窟に逆転を信じる何かは発見されない。首領の行動は後者であることが判明した。
「自分の思うものはおろか、自分をも信じない人間に……新たな可能性、勝利への糸口は生まれません」
 瑞科は敵だけでなく、自分にも向けて声を発した。敗北には、必ず理由がある。首領の敗北は必然であったと締めくくり、彼女はこの場を後にした。


 「教会」へと戻った瑞科は自室で戦闘服を脱ぎ、しばし柔らかな肉体をあらわにして休ませる。まだ戦いの後のほてりが体に残り、上着もわずかに湿っていた。
 そのままシャワーかと思いきや、彼女は再び服を着る。
 体のラインを強調するタイトなミニスカートのスーツ……これは武装審問官の公式な制服だ。彼女は司令官への報告を終えるまでが任務だと心がけている。着替えが終わると部屋を出て、信頼を置く上役の元へと向かった。

 司令官の部屋にノックして入り、瑞科は今回の任務を事細かに報告。相手はその手際のよさに惜しみない拍手を送る。
「よくやってくれた。武装審問官というものを設置しておきながら言うのもなんだが、怪我ひとつなく帰還してくれるというのは、こちらにとってもありがたい話なのだよ」
 全幅の信頼で結ばれる上司からの言葉に、瑞科も応える。
「恐れ入ります。この程度なら、非常に楽な任務ですわ」
 勝利の微笑みを見ると、司令官も「そうかそうか」と大きく頷き、最後に「次もよろしく頼むよ」と声をかけた。
「もちろんですわ」
 組織の中でも随一の実力を持つ瑞科の活躍は、これからも続くだろう。
 漆黒の闇からの招待がある限り、武装審問官・瑞科は戦い続ける。