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<東京怪談ノベル(シングル)>


出撃

「今回の任務だが」
後ろ手に手を組んだまま、司令が口を開いた。
「この人物を暗殺してもらう」
司令は書類の束を白鳥・瑞科に差し出した。
瑞科はそれを受け取る。任務の資料だから、目を通しておくように、と指令は言った。

瑞科はスレンダーながらもグラマラスな体型をしている。
タイトなスーツが、彼女の女性特有のボディラインを魅力的に強調していた。豊満なバスト、くびれたウエストからヒップにかけてのライン、タイトなスカートから伸びた足はすらりと細く、素晴らしいとしか言いようが無かった。

「ターゲットは悪魔崇拝教団「セクト」に所属し、暗殺等を務める実働部隊員だ。彼の行動スケジュールはこちらで把握している。邪魔は入らないように手配する」
瑞科は正した姿勢のまま、司令の言葉を聞いていた。
「どうだい。念のために聞いておくが、1人でも大丈夫かな。君の実力ならば難しい任務ではないと考えているが」
「問題ありません。わたくしにお任せ下さい」
瑞科は顎を引いて頷いた。きゅっと口角を持ち上げた彼女の表情は、微笑しているように見えた。
「それでは、早速行動に移してくれ」
「はい。失礼いたします」
瑞科はすっと一礼すると、指令室を後にした。

瑞科はぶれない歩き方をするため、廊下にはコツコツと小気味よい足音が等間隔に響いた。
指令室を出た瑞科は真っ直ぐに自室へと向かった。
ベッドに腰掛けて、すらりと伸びた足を組んだ。手渡された資料に手早く目を通す。瑞科は聡明な女性だ。次々とページを繰りながら、内容を完璧に頭に叩き込んでいた。
途中一度だけ足を組みかえて、資料を最後まで読み終えると、華奢な指で資料の束の淵をちょっとだけ撫でた。それをテーブルの上に置き、クローゼットへ向かう。


瑞科の職業は武装審問官(戦闘シスター)と呼ばれるものだ。
彼女が属するのは「教会」と呼ばれる世界的組織。「教会」は太古から存在する秘密組織で、人類に仇なす魑魅魍魎の類や組織をせん滅する事を主な目的としており、世界的な影響力を持つ。

武装審問官は「教会」の教義に反する魑魅魍魎の駆逐や敵対人物の暗殺等を司る。
彼女は数々の任務を完璧にこなしており、これまで失敗は一切無い。
その実力は「教会」の中で随一を誇っている。

瑞科は、シスター服をまとい、人類に仇なすものを滅する。
それが彼女の任務だった。
瑞科は彼女のための特別なシスター服をクローゼットから取り出した。
シスター服とは言ってもそれは、一般的なシスター服ではなかった。
それもそのはず、それは瑞科の戦闘服なのだから。


戦闘服をベッドの上に広げ、瑞科はスーツの上着を脱いだ。続けて白いブラウスを脱ぎ、タイトなスカートのホックに手を伸ばす。ホックをはずして、チャックを下ろし、するりとスカートを脱ぐ。
次はストッキングを脱ぐ。立ったままの状態でストッキングを太腿まで下ろしてから、ベッドに腰掛けた。履いていたヒールの高い靴は、脱いでベッドの下に揃えた。太腿からふくらはぎへ、丁寧に手を添えてストッキングを下ろしていく。つま先からするりと抜き取り、ベッドの上に置いた。
瑞科の美しい体を覆っているのは下着のみとなった。
色っぽい唇から、ふう、と小さな吐息が漏れた。
タイトな服装は好きだ。身が引き締まる。
けれど素肌が衣類による束縛から解放される瞬間。それはとても気持ち良い、と思う。
瑞科は片膝を引き寄せて、ほんの少しだけ、うっとりとしたような表情で白い足に指を滑らせた。
そうして束の間、服を脱いだ後の開放感にひたった。

瑞科は黒色の二―ソックスに足を通した。
柔らかい太腿に食い込む二―ソックス。
戦闘服は瑞科用に特別に作成されたもので、最先端技術を用いて作られている。
彼女の体にぴったりと添うように作られているため、それは適度に心地よく彼女の体を締め付ける。
二―ソックスとミニ丈のプリーツスカートの間から覗く白い太腿がなまめかしい。
彼女は装飾が施された上着に袖を通し、襟元を正した。茶色のロングヘアーと首の間に手を入れて、ばさり、と髪をなびかせて首を振った。
戦闘服には、肩にのみ甲冑が付いており、短いマントが付いている。
豊満な胸が上着を色っぽく押し上げる。
瑞科はベッドに腰掛けたまま、その豊満な胸を膝に乗せるようにして前かがみになり、白い、膝までの編上げブーツの紐を結んだ。
立ち上がり、瑞科は引き締まったウエストに両手を添えた。そこから徐々に手を上へ這わせる。まるでマッサージをするかのように、瑞科は自分の肉体を確認する。
戦闘服がきちんと体になじんでいるか、自分の体は万全であるか、瑞科は丁寧に確認する。
形の良いバストはふっくらと上着を押し上げている。細く白い首筋に手を触れると、手の平で脈を感じた。
今度は背中側のラインを撫でるように両手を下ろした。
ウエストのくびれ。形の良いヒップライン。瑞科が腰を捻ると、スカートの裾がひらりと揺れた。
瑞科はスカートの裾を直して、ベッドの上に腰掛けた。太腿に食い込んだ二―ソックスを華奢な指先で直す。

それから前かがみになり、両肘を太腿の上に付いた。両手の指を組み、額に当てて、目を閉じる。
彼女はゆっくりと深い呼吸をする。
元々呼吸は乱れてはいない。儀式のようなものだ。とても静粛な気持ちになる。
彼女は眼を開ける。
すっと彼女は立ち上がる。
鏡の前に立ち、ベレー帽をかぶった。く、と顎を引いて、鏡の中の自分を見つめた。
淀み無く輝く青い瞳。茶色いロングヘアー。
身を包む、清らかな戦闘服。
瑞科は凛と背筋を伸ばした。
それから、クローゼットの中で彼女を待っていた戦闘用のロッドを手に取り、もう片方の手で肩にかかる髪を払った。
「さあ、そろそろ、本日のお相手の所に行かなければいけませんわね…なるべく、苦しませずに終わらせてあげましょうね、瑞科」
瑞科は自信たっぷりに微笑んだ。
自身の圧倒的な実力から、任務達成は間違いないという自信がある。
その自身は、彼女の色っぽさと相まって、さらに彼女を魅力的にさせていた。
ブーツの踵を小気味よく鳴らして、今日も彼女は出撃するのだった。