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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


誕生! 怪奇アイドル48

1.
「落とすわね、このままじゃ」

 冷たくも美しい声の持ち主、月刊アトラス編集長・碇麗香(いかりれいか)はそう言い放った。
 ここは月刊アトラス編集部。
 そして、麗香を前に蛇に睨まれたカエルの如く動けずにいるのはご存知三下忠雄(みのしたただお)である。
「一刻も早く、この紙面を埋めるいいネタもってらっしゃいな」
「は、はい…あの、それは、その…」
 しどろもどろに三下は口をもごもごとさせる。
 キラーンっと麗香の目が鋭く光った。
「あるの!? ないの!? はっきりしなさい!!」

「は、はぃいいいぃ! あ、アイドルが…アイドルがいます!」

 思わず飛び出た思いもよらぬ言葉に、麗香もそして当の三下も目をパチクリとさせた。
「…何を言ってるの君は?」
 爆発数秒前の麗香の声に、必死に三下は言い訳した。

「あのっ、怪奇アイドルがいて、僕、それ取材してきます! ちゃ、ちゃんとネタにします!」

 そうして三下は半泣きで脱兎の如くアトラス編集部を後にしたのだった…。


2.
 この日、とあるテレビ局の控え室には正座で佇む三下と、鏡の前でメイクを落とす収録を終えたばかりの月代・慎(つきしろ・しん)の姿があった。
「あの…その…」
 もごもごと言いよどむ三下。
 それは持ちネタと言っていいほどカミまくる芸能人のようなドモリ方だ。
「噂は聞いてるよ? 俺んトコきたのってそれでしょ?」
 慎は鏡の中からにこっと笑い三下を見た。
「っはい! お願いします! 助けてください!!」
 今にも泣き出さんばかりの三下は座布団を降り、頭を擦りつけんほどの勢いで深々と頭を垂れた。
「やだなぁ、俺が泣かしたみたい…頭上げてよ、ね? でも今回だけだからね?」
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
 ついに三下が泣き出した。
 あーあ、と慎は思った。
(ここで誰か入ってきたら思いっきり誤解されるよなぁ…まぁ、それも人生か)
 ふと、慎の頭に疑問が浮かんだ。
「俺のほかには誰かやるの?」
「………」
 沈黙が全てを語っていた。
 慎はひとつため息をついて携帯を取り出した。
 ひとりだけ協力を快諾してくれそうな人物がいた。
 携帯を鳴らすと、相手はワンコールで出た。
『はいはい〜、SHIZUKUでーす♪』
「あ、おはようございます! 俺月代慎っていいますけど…」
 朝じゃなくても『おはようございます』。
 特に知り合いじゃなくても、芸能人同士何らかのつながりはあったりするのだ。
『…ふむふむ。月刊アトラスさんの企画でアパートの除霊かぁ…』
 オカルトアイドルとして名高いSHIZUKUはまんざらでもなさそうだ。
「俺一人じゃ心細いなぁって思ってSHIZUKUちゃんに声かけさせてもらったんですけど…」
『…OK! んじゃ、そのアパートで待ち合わせね!』
 慎は三下のほうを向いて親指を見せた。
 三下は無言で何度も頭を地面にこすり付けた。

 こうして、即席怪奇アイドルユニットが出来上がったのであった…。


3.
「…この衣装、なんかどっかで見たような…」
 SHIZUKUと待ち合わせの後、三下が用意した衣装に着替えた二人の姿は黄色い髪の双子のような姿になっていた。
「男女ユニットペアということで頑張って用意してみました!」
 三下が張り切ってそういった。
 が、結局はパクリであるということに気が付いていないただの悲しい人なのだった。
「…話は変えて…俺らのユニット名って決めてあるの?」
 そんな悲しい人・三下に努めて明るくそう話題を振った慎は激しく後悔した。

「はい! 『KIK(怪奇)48』です!」

(聞かなきゃよかったかも…)
 どう贔屓目に見てもパクリ以外の何者でもない。
 SHIZUKUもどう対応していいか困っているようだ。
「それってどういう由来? 二人しかいないのになんで48?」
 思わずそう質問すると、三下はちょっと首をひねり考え込んでからこう言った。

「2×2=4で、4×4=8です!」

(全然訳わかんねぇ)
 そう言いたいのをぐっと押さえて、慎は「そうなんだぁ」と相槌した。
 もうこの話題には触れない方がいいだろう。
「そろそろ行こっか」
 SHIZUKUも同感のようで、二人は霊が出るという部屋へと向かった。
「あぁ! 置いていかないでくださいよ〜!」

 三下の情けない声をお供にして…。
 

4.
 そこは寒々とした独身男の部屋だった。
 散乱した雑誌や食べ掛けで放置された食器の山、だが意外にも台所だけは綺麗にしてあった。
「この部屋に女の霊がでるんだよ」
 この部屋の持ち主の男が面倒くさそうに欠伸しながらそう言った。
「どういう霊か見たことは?」
 SHIZUKUが真剣な眼差しでそう聞くと、男はちょっと顔を赤らめた。
「オレ、SHIZUKUのファンなんだよね〜! 後でサイン貰っていい? あ、霊だっけ。見たことはないんだよ。ただ…」
 男はそういうと言葉を切って、台所を指差した。
「オレが寝てる間に必ず台所が綺麗になってんだよね。まぁ、助かってんだけどさ」
 この部屋の惨状に対しての台所の見事なまでの綺麗さに妙に納得がいった。
 これが霊の痕跡だったのだ。
「じゃあ、部屋主さんには寝てもらおっか♪」
 慎は無邪気にそう言い放った。
 もちろん冗談で言ったわけではない。
「部屋主さんが寝てるときに出てくるっていうなら、寝れば出てくるよ。きっと」
「そっかぁ。そうだね〜。慎君、頭いい!」
 慎とSHIZUKUはきゃっきゃと喜ぶ。
 その後ろで三下は写真を撮ったりメモったりと大忙しだ。
「そ、そんな急に寝ろって言われても…!?」
 部屋主の男が文句を言おうとした時、慎はどこからともなく紐をつけた五円玉をどこからともなく取り出した。
 そしてゆっくりとそれを揺らし始める。
「はい、じーーーっと見て…眠くなーる…ネムクナール…」
 男の体が五円玉のその揺れと同期し始め、最後には崩れ落ちた。
「…凄い」
「見よう見まね♪ 凄い?」
 えへへっと得意げな慎にSHIZUKUが「うん」と笑った。
 さて、問題はここからである。
 本当に霊はこれで現れるのか…?

『あら、あなたたち誰?』
 
 …現れてしまったようです。


5.
 現れた霊は可愛いが、どちらかというとダイエットをオススメしたいような体型の女性だった。
「なんでこの男の台所を綺麗にするわけ?」
 慎は直球に聞いてみた。
 まずは話をしないことには始まらないと思ったのだ。
『…何でって。この人台所は女の城だって言うから…』
 二人ともさっぱり意味がわからない。
 が、とりあえず話の続きを促す。
『私、この人と付き合ってて。『台所の綺麗な女と結婚したい』って言われたの。だから…』
 …なんとなく、真相が掴めた気がする…。
 と、SHIZUKUが「わかった!」と叫んだ。
「それって、体よくフラれたんだよ!」
 ズバッと核心を突いたSHIZUKUに思わず慎はたじろいだ。
(霊を刺激するようなことをこうも簡単にするのか、この人は!)
『…フラれた? 私が??』
(もしここで悪霊と化してしまったら、実力行使もやむを得ない…)
 慎はそう覚悟した。
 だが…
『なんとなく、そうじゃないかなぁって思ってたのよね…』
 はぁっとため息をつき、霊は自嘲めいた微笑を浮かべた。
 SHIZUKUがそんな霊に力強く言った。
「諦めちゃダメ! あなたにはまだ未来があるのよ!」
『…未来?』
「そう! 来世という名の未来です!」
 女の世界はまだまだ奥が深い…と慎は思った。
 とりあえず、この霊はこれで悪霊と化すことはなさそうだ。
 と、SHIZUKUがパチンと慎に合図を送ってきた。
 ここに入る前に密かに打ち合わせた、怪奇アイドルの決めポーズの合図である。
 慎はSHIZUKUと背中合わせになり、右手を一方向へと指差す。
 すると、慎の指先から金の蝶・常世姫と銀の蝶・永世姫がまるで幻の様に現れた。

「お逝きなさい」
 
 その言葉と共に、霊は金の常世姫と銀の永世姫に導かれ天へと上って見えなくなっていったのだった…。


6.
「どう? 記事上手く書けそう?」
 除霊を済ませた慎が振り向くと、そこには涎を垂らして寝ている三下の姿があった。
「…さっきの五円玉のせいかな?」
 SHIZUKUがツンツンと三下をつついたが、起きる気配は全くない。
 慎は少し考えたが、このまま帰ることにした。
「気持ちよさそうに寝てるし、俺ら帰ろっか」
「…そうね。約束は果たしたもんね♪」
 SHIZUKUと慎は三下をそのままに、帰途に着いた。


 − その後、KIK48の記事は辛うじて掲載に至った。

   慎とSHIZUKUへの好感度は上がったが、

   肝心のオカルト部分が編集者三下の失態により全く書かれていなかった為、

   月刊アトラス編集長の怒髪、天を衝いたとか……−



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■□   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  □■

【6408 / 月代・慎 (つきしろ・しん) / 男性 / 11歳 / 退魔師・タレント】


【NPC / SHIZUKU / 女性 / 17歳 / 女子高校生兼オカルト系アイドル】

■□     ライター通信      □■
 月代・慎 様

 初めまして。三咲都李と申します。
 この度は『誕生! 怪奇アイドル48』へのご参加ありがとうございます。
 ご参加が1人だったため、NPC・SHIZUKUさんもご参加という形を取らさせていただきました。
 可愛い顔した小悪魔…といった印象で、どこまで小悪魔な部分を出していいものか悩みましたが、このような形になりました。
 あと、「お逝きなさい」の某ドラマがよくわからなくて実際と違ってたら申し訳ないです。
 少しでもお楽しみいただければ、何より幸せです。
 それでは、またお会いできる日を楽しみにしております。