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<東京怪談・PCゲームノベル>


 輪廻

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 いつから務めているのか。
 本人さえそれが曖昧なほど、長期間働いているリノやチカやトウジと異なるがゆえ、質問攻めに遭うのは当然のこと。
「ねぇねぇ、彼氏(彼女)はいるの? 教えて、教えて!」
 チカは、恋愛に関する質問を次から次へと飛ばしてくるし、
「御家族といいますか、御兄弟とかはいらっしゃるんですか?」
 リノは、育ってきた環境に関する質問を次から次へと飛ばしてくるし、
「俺達の第一印象ってどんな感じだった? 今と違ってたりするかい?」
 トウジは、自分を含めた他の仲間の印象に関する質問を飛ばしてくるし …… 。
 まぁ、気持ちはわからなくもない。仲間のことを知りたいと思うのは自然な欲求だ。
 だがしかし、いくらなんでも、訊きすぎというか。そんなにいっぺんに訊かれちゃ困るだろう。
「おーい、お前ら。別に止めはしねーけどさ、せめて、もーちょいゆっくり質問してやれー」
 店のオーナーであるカイトは、そう言いながら、伝票整理をしている。

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 勤務を終え、制服から、私服に着替える。
 レーナは、いつも、勤務が終了すると、すぐに着替えて帰ってしまうため、他の従業員たちは、少し寂しく思っていた。
 無理強いするつもりはなかったけれど、いつか、ゆっくりレーナと話がしたい、と、そう思っていた。
 中には、オーナーであるカイトばかりレーナと色んな話をしてズルイと思っていた従業員もいるほどだ。
 いつもなら、いそいそと自宅へ戻るレーナだが、今日は、のんびり。
 着替えを済ませると、バックルームにあるソファに腰を下ろして携帯を弄り始めた。
 そこで他の従業員たちは、チャンスだ! とばかりに、質問をぶつけたのである。
 まるで、有名人の如く、次々と向けられる質問と興味。
 レーナは、携帯弄りを一時停止し、クスクスと笑う。
 有名人のような扱いを受けていることが、何だか嬉しい?
 それとも、質問する仲間たちの表情が、あまりにも必死で、少し可笑しい?
 おそらく、レーナの胸中には、その両方の想いが、あっただろう。

 ふふ。そんじゃ、ひとつずつ答えていくね。
 まずは、チカの質問からだね。恋愛に関する質問。
 彼氏 …… 彼氏ねぇ。彼氏なんていないよぉ? てか、レーナの普段を見てればわかるでしょ〜?
 そりゃあね、興味がないわけじゃないよ? でもね、別に、必要だとは思ってないの。むしろ、邪魔かも。
 そもそも、レーナって、嫌いなんだよね。何がって? ん〜 …… 異性、っていうの? 男の人が嫌いなの。基本的に。
 理由? 理由なんてないよ? ただ、どうしても好きになれないだけっていうか、怪訝な目で見ちゃうの。
 別に深追いしてるわけじゃないし、妙な先入観があるわけでもないんだけどね。
 性格みたいなものだから、どうしようもないって感じかなぁ。
 だから、この先も、レーナに "彼氏" ができることはないと思うよ。
 彼氏じゃなく、異性じゃなく、大切に思う大好きな人なら、いるけどね。ひとりだけ。
 ん? 誰かって? ふっふ〜。それは、秘密〜。もっと仲良くなったら、話してあげないこともないよ。
 っていうか、仲良くなったら、多分、わざわざレーナが言わなくてもわかるんじゃないかな? ふふふ。
 はい、この質問は、これでおしまい。
 やだなぁ、チカってば、そんな残念そうな顔しないでよ。
 期待外れでゴメンね。いちおう、謝っておくよ。
 えっと? 次は、リノの質問かな。
 家族 …… 家族かぁ。
 これも、面白みのない返答になっちゃうかなぁ。
 レーナってね、両親っていうか、親っていうか、そういうのがいないの。
 育ててくれた人っていうかね、そういう人がいないんだ。生まれたときから、いないんだ。
 このあたりはねぇ、話せば長くなるんだけど …… まぁ、簡単に言っちゃうと、レーナって、ニンゲンじゃないんだよね。
 みんなも知ってる、お婆さんみたいな話し方をする、あの精霊使いの女の人。レーナは "お姉様" って呼んでるけど。
 実は、レーナもね、精霊なの。星精霊。
 って言っても、元々は、ってだけなんだけどね。色々あって、今は精霊とは言えない存在になったし。
 ん〜。だからまぁ、レーナにとって、家族って言えるのは、お姉様だけかな。
 精霊じゃなくなるかわりに、お姉様の傍にいられる権利を得たっていうか。そういう存在になれたっていうか。
 それに、レーナっていう名前をくれたのも、お姉様だしね。
 本当の名前は、わかんない。本当の名前なんてものが、レーナにあったのかどうかもわかんないしねぇ。
 ん? 兄弟? 兄弟は、まぁ、いるよ。っていうか、いたよ、って言うべきかな。
 レーナは元々精霊なわけで、つまり、兄弟たちも精霊なんだよね。
 レーナは、もう精霊じゃなくなったけど、兄弟たちは、いまもまだ精霊として存在してるよ。
 でもねぇ、兄弟って言っても、良い思い出はないなぁ。兄弟っていうよりかは、敵っていうかライバルみたいな存在だったから。
 兄弟間の潰し合いっていうか、そういうのもあったんだよ。いやぁ〜 …… あれはもう、戦争だったねぇ。
 はっ。あぁ、ゴメンゴメン。ちょっと思い出して、複雑な気持ちになっちゃってた。
 ん〜と? とりあえず、そんな感じかな。家族に関しては。
 今? 今は、こういう存在になったから、お姉様と一緒に暮らしてるよ。
 あと、大食らいの犬みたいな男も一緒に暮らしてるね。
 よし。んじゃあ、最後の質問だね。
 トウジからの質問は、みんなの印象か。えっとねぇ〜 …… そうだなぁ …… 。
 リノは、おとなしい感じかな。これは、今も変わってないよ。
 ガラス細工みたいな印象っていうか、繊細っていうか。お人形さんみたいで可愛いな〜って思ったよ。今も思ってるよ。
 チカは、正直 …… ちょっと怖そうだなって思った。プライドが高そうっていうか、ツンケンしてそうっていうか。
 でも、実際は違ったね。気さくだし面倒見も良いし、スタイルも抜群だし、憧れの対象だよ。
 トウジはね、パッと見た感じは、真面目そうな感じがした。でも、何ていうのかなぁ、裏がありそうな感じもしたね。
 実際、その予感は的中してたわけだけど。女好きって時点で、もうね、いけすかなさ全開だよね。うん。

「あっははは! いけすかなさ全開だって! 嫌われてんなー!」
「うるっせぇ! 笑いすぎだ、カイト!」
 寄せられた質問に、ひととおりの返答を返したレーナ。
 リノがいれてくれた紅茶を飲んで喉を潤しながら、レーナは、賑やかな光景に微笑んだ。
 何というか、この雰囲気 …… 実際に通ったことはないのだが、学校って、こんな雰囲気なんじゃないだろうか。
 レーナは、そんなことを考えつつ、騒ぐ仲間たちに "質問返し" をした。
 自分の印象。逆に、仲間たちから見たレーナの印象は、どんな感じだったのか。
 ある程度、親しくなってから、当初の第一印象を尋ねる行為は、ちょっと面白かったりする。
 レーナの質問返しに対し、仲間たちは、しばらく考え(思い出し)て、それぞれが当時の想いを口にした。
 若干のズレというか、差異こそあったものの、仲間たちの返答は、似たりよったり。
 仲間たちの返答を纏めるならば "掴みどころがない" といったところ。
 パッと見は、確かに明るく天真爛漫なのだが、どこか、とっつきにくさがある。
 嫌な感じだとか、そういうわけではないのだが、踏みこむことを躊躇わされるというか。
 明るく元気なその性格も、実は "意図的に" そうしているだけなんじゃないかと。
 仲間たちは、レーナに対し、そんな第一印象を持っていたようだ。
「な〜るほどね」
 紅茶を飲み干し、クスリと笑って席を立つレーナ。
 随分と長居してしまった。たまになら、こんな勤務後の雑談も悪くない。
 だが、そろそろ帰らなければ "お姉様" を心配させてしまうということで、帰路につくレーナ。
「それじゃ、そろそろ帰るね。また明日〜」
 ヘッドホンを装着し、愛用の携帯音楽プレイヤーでお気に入りの曲を聞きながら帰るレーナの後ろ姿。
 仲間たちは、名残惜しそうにしつつも、また明日と言いながら、その背中を見送る。
 送りだしているようで引き止めているかのような、そんな仲間たちの声。
 背中でその想いを受けとめながら、レーナはフフフと意味深な笑みを浮かべていた。
「いや〜。さすが、いいトコつくよねぇ」
 小さく、そんな呟きを零しながら。

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 The cast of this story
 8403 / 音無・レーナ / 16歳 / ボーカリスト・声優
 NPC / カイト / 19歳 / クライマーズカフェ・オーナー
 NPC / リノ / 18歳 / クライマーズカフェ・店員
 NPC / トウジ / 23歳 / クライマーズカフェ・店員
 NPC / チカ / 22歳 / クライマーズカフェ・店員
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 Thank you for playing.
 オーダー、ありがとうございました。