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<SnowF!新春!初夢(ドリーム)ノベル>


[ snow backgammon ]


「しまった……」
「――――?」
 一人の男の声と同時、近くに居た青年が何事かと振り返る。
「いや、なんでもないんだ。ちぃっとばかり……どこかで何かを失敗した気がするだけだ」
「はぁ?」
 理解できないと言わんばかりに眼鏡を押し上げた青年は「正月早々何やってんだ、あんたは」と吐き捨てると席を立った。
「まぁ……この辺りで害は無いみたいだから大丈夫、か? 気のせいだろ…気のせい」
 辺りを見渡し安堵の息を吐いた男は、そのまま椅子の背もたれに背を預けると、今にも雪の重みで落ちてくるんじゃないかと思う天井を仰いだ。
 外は寒い。そして、このおんぼろの小屋も隙間風だらけで寒い。早く春が来ないものかと、男は白い息を吐いた。


    □□□


「ここ、は……?」
 彼には何が起こったのか分からない。ただ、辺りの景色が一気に変わったことだけはすぐ分かった。
 ゆっくり辺りの気配を探る途中足元に何かの感触を覚え、動かそうと考えた足を止めしゃがみこむ。その瞬間、今度は隣に人の気配を感じ彼は思わずその動きを止めた。
「――洸くんの足元のこれ、もしかしなくてもサイコロだね!」
「……弓月、さん?」
 彼――洸の問いかけに、弓月は大きな正方形の箱を両手で抱え持ち「うんっ」と頷く。
「なんか、さっきから足動かないし……それに、柾葵は?」
「うーん……えいっ、と?」
 しかし、隣で唸る洸を他所に弓月はサイコロを放り投げる。数度跳ねた後コロコロと転がっていったサイコロは2を表し、その数だけ唐突に足が動き出した。
「うわあ、これもしかしてすごろく? しかも自動!」
 勝手に動いた後勝手に止まった足を不思議に思いながらも、よくよく見れば地面はまるですごろくのマップのように少しずつ区切られている気がする。それを確認すると、弓月は後ろで止まったままの洸を振り返り見た。すると、彼の手元にはいつの間にかサイコロがある。
「……コレ、どうしろと?」
 苦笑いを浮かべるものの、なんとなくやらなくてはいけないことが分かりはする。けれど、こんな意味不明な行動に従いたくはない。ただ、洸よりも数歩先に進んだ弓月はそんなことなど気にしていないのか。
「洸くんも投げてみれば分かるよ! 足はサイコロの数だけ勝手に動くみたいだから、とにかく投げちゃえばいいと思う」
 そう言って急かした。洸はサイコロを片手に持つと溜息を吐く。
「勝手に動くとか、とにかく投げちゃえばとか……キミさ、警戒心持った方がいいんじゃない?」
「そう? でも、今の所は危険もなさそうだし、サイコロ転がさないと足は動かないみたいだし。すごろくならば向かう先はゴールだろうから、とにかく投げて進むしかないんじゃないかな?」
 その言葉には洸も多少は同意した。危険か安全か今は判断できないとして、サイコロを転がさない限り両足が動かないのは確か。これが本当にただのすごろくならば、向かう先は一つだけの筈。
「すごろくってお正月にやったなー。私はサイコロ運にムラがあるから、早く上がったりするのは珍しいんだけども」
 そう言いながら弓月は洸に背を向け前を見た。一体どこにゴールがあるなんて分かりやしないし、此処がどういう場所かも分からない。実は夢なのか、それとも現実なのか。でも、全ては前へ進めば分かる――漠然とそんな確信はあった。
「えへへ、ぽーんって投げるのだけでも何が出るのかドキドキして楽しいよね」
 顔だけ洸の方を振り返り見ると、彼はジッと弓月を見た後諦めたように言葉にする。
「……投げるよ、投げますよ。投げればいいんでしょう?」
 そうして片手に持ったままのサイコロを下に落とすと、それはあっさりと転がることを止めた。
「あ、6だよ!」
「んっ……!?」
 弓月が言ったのと洸の足が大きく動き出したのはほぼ同時。彼女のすぐ横を通り過ぎ、少し先で止まった彼は「一回休み、だってさ?」と弓月を振り返り見る。
「わぁ、ってことは何マス進むとか戻るとかもありそうだね。もしかしてふりだしに戻る、も?」
 しかしどうして洸に指示が分かったのか。思い聞けば、どうやら指示が頭の中に響いてきたらしい。つまり、そのマスに止まるまで何が起こるかは分からないようだ。
「まったく、見えないゴールにいつ辿り着くやら……ほら、キミの番でしょ。早く振って、出来るだけ安全に終わらせてくれない?」
 同時、サイコロは弓月の手へ勝手に戻り、早々に背を向けてしまった洸に向けて彼女はサイコロを投げた。なんとなく想像していたけれど、二人別々に動くのは少し寂しい。けれど、一度目に投げたサイコロで洸を追い越し、二度目に投げると着いたマスの指示により、洸の一マス先へと戻された。
「なんか、なかなか先に進めない気がする……」
 弓月がそうして行ったり来たりを繰り返している間、辺りを見渡していた洸はふと視線を弓月に戻す。
「この辺りの雰囲気に少し覚えがあるんだけど、気のせい?」
 言われ、それまで洸とサイコロとマスしか見ていなかった弓月は、ようやく辺りの景色に注意を向けた。確かにこの辺りは何も無いというわけではなく、きちんと景色がある。そして言われたとおり、確かに彼女もすぐ引っかかりを感じ。
「――ぁっ!!」
 必死に記憶を辿り、手繰り寄せた答えに思わず声を上げた。
「もしかしてここ、私が倒れてた二人を連れて行った公園の風景じゃないかな?」
 二人を寝かせたベンチに、水飲み専用の水道。思い出せば、全てがあの時の公園の景色と一致する。
「どうして……あんな場所からはもう相当離れたはずなのに」
「不思議だけど懐かしいね。また洸くんとこの景色を見るとは思わなかった」
 気づけばサイコロを振り、自分の横をあっという間に通り過ぎていった洸を目で追いかけながら弓月は言葉を続けた。
「いきなりあんた呼ばわりだったし、年下だと思われてたみたいだし?」
「そんなこともあった…かな」
 足を止めると洸は答えながら空を仰ぐ。本当に忘れているのか、何か考えているのか。その背中と声色からはよく分からない。
「洸くんさ、最初に会ったときとは随分変わったよね」
 というより、壁がなくなったのだろうか。そうだったら嬉しいと内心呟きながら、弓月はサイコロを振るとそれ以上何も答えない洸を追い越した。
「ね、どっちが先にゴールするか、ちょっと勝負してみようか。嫌なら勿論しないけど」
「……何? 突然」
 振り返ると、洸はその提案に驚いたというよりも、見るからに嫌そうな顔をしている。此処に来た時から苛立たしげには見えたが、それに拍車が掛かっている気がした。
「こういうゲームって勝った人にいい事ある方が燃えると思うし! そうして楽しんだ方が進みやすくなるんじゃないかな?」
「こんな意味不明なことに楽しむも何も無いけど……いいことって? 勝敗が決まったらどうするわけ」
 サイコロを放り投げ弓月を追い抜くと恐らく指示だったのだろう、洸は更に数マス先へと行ってしまう。
「定番かもだけど、勝った人が負けた人に何かしてもらうの、とか? 私なら洸くんに何言われても平気だし!」
「めんどくさい」
 二人の距離が今までで一番離れ、まだ声も普通に届くものの、心なしか弓月の声は大きくなっていった。
「えーっ、即答……ダメ?」
「ダメでも頑張って、ほらサイコロ、早く」
 無愛想に言われてしまい力なくサイコロを投げると、先ほど洸が止まったマスと同じ場所へ止まり同じだけ進む。彼の隣に立つと、弓月はいじけるように俯き「んー……残念」と小さく呟いた。そんな彼女を横目で見て。
「――めんどくさいけど、別に悪くはないよ。で、キミが勝ったらどうしたいわけ?」
 洸がそう言うと途端に弓月の表情は明るくなった。
「私がもし勝ったら――……その、ちょっとの間だけ、手を繋いでほしいなぁ……と」
 けれど、その表情に反し語尾は控えめで、目も合わせたいのか合わせたくはないのか、上へ下へと忙しない。
「え、えーと…前に触れた事はあるけど、もっとちゃんと、しっかりと温もりを確かめてみたいっていうか――」
「…………」
「いっ、嫌なら別になかった事にするよ、うん!」
 目が合わせられない分、何も反応が無いのは悪い風に取れてしまう。今のは冗談だと、笑ってなかったことにしようとした瞬間、隣で洸がサイコロを振り、そのタイミングを失ってしまった。
 けれど数歩先行く洸は、足を止めると苦笑いを浮かべながらも弓月を見る。
「キミって……時々おかしなことを言うよね。まぁ、考えてはおく。その代わり、俺が勝ったら俺が好きなようにするよ」
「えっ、洸くんが勝ったらなんなの?」
 明確な答えは返ってこなかったものの、ある程度希望が持てる返答に今度は弓月が問う。
「俺のは非公開。別にキミが勝てば知らずに済むし、負ければ問答無用で従うだけなんだからどうでもいいんじゃない?」
「えーっ、そんなことないんだけどなぁ」
 ブツブツと悪態を吐きながら、弓月は手元に戻ってきたサイコロを振った。


 それから一体何十回とサイコロを転がし、どれ程の距離を歩いてきただろう。空の色はいつまでも変わることなく、気温が変化するわけでもなく、時間の感覚が全く無い。
 ただ、ふとサイコロを転がし終えた弓月が違和感を覚え目を凝らすと、辺りの景色が一瞬にして変わった気がした。
「あ、ここ……柾葵さん探してる時、洸くんと一緒に通った道によく似てるよ?」
「田舎道か。確かに足元の感じも少しあの時と似ている気がする」
 二人の距離はあれから十以上離れることはなく、ほぼ洸がリードを保っている。
「雨は降ってなくてよかったね」
「雨もなければ、さっきから風も吹かない。ただ地面の感触はあるんだから、景色と地形だけが再現されている感じか」
 あの公園からあの田舎町までは、数十分歩いて着けるような距離ではない。つまり、恐らくは記憶からの断片的な再現。
 このゲームの意味も、空間の謎も一向に分かりやしない。
 けれどそうして歩いている内、さすがの洸も法則だけは掴めて来る。
「此処は――もしかして、あの丘?」
「うん…なんだか私たちが出会った頃からの道を、ずっと辿ってるみたいだね」
 再び洸の隣に立った弓月が、サイコロを振ると今度は洸を追い抜かしていく。
 彼女も気づいていた。辿ってきた道全てが、洸と共に過ごした道なのだと。そして、ここには自分の知らない道は無い。つまり、自分の記憶が元になっているとも考えていた。
「ならば、この先は湖?」
 ポツリと漏らした洸の言葉どおり、しばらく歩けば目の前にはつい先日共に過ごした湖畔が広がる。
「やっぱり、そうだ」
「でもこの先はない、筈だよ。仮に俺たちが辿ってきた道を歩かされていると言うのならば、今のゴールはこの辺りが一番相応しいのだから」
 一足先にその景色に足を運んだ弓月は、洸の言葉に納得し辺りを見渡した。けれど、この辺りにゴールのような場所、あるいは行き止まりに見える所はない。
「これだけ進んできてゴールが無いのなら……このゲームに終わりはこないのかもしれないよ?」
 弓月の真後ろに立った洸はそう言うと、もう一度サイコロを振り彼女の前に立つ。
「それでもキミはまだ、こうしてサイコロを振り続けて前に進み続けるって言うの?」
「うん……それでも、進まなくちゃいけないよ。終わらないゲームはないから」
 もう振り向くことない洸に、弓月は強くそう言うとサイコロを転がした。


 公園や田舎道、星の見える丘は比較的早々に抜けられたのだと思う。今の景色はいつまでも変わらず続いている。
 二人の間には会話がなく――と言うより、洸の機嫌が更に悪くなり、弓月が話題を振っても会話は続かなくなっていた。
 ただサイコロを振り、勝手に足が動いたり頭の中に指示が届くのを待つ、その繰り返し。けれど確実に体力は奪われ、それでも疲れ始めた足を休ませることは許されない。
 気づけば今度は弓月が洸の先を行き続け、疲れた腕で投げたサイコロを確認しては動き出す足に身を任す。その様子をしゃがみながらぼんやり眺めていた洸は、不意に立ち上がると前を見据えた。
 その動作と、弓月が声を上げたのはほぼ同時のこと。
「きゃっ……いきなりな、にっ!?」
 最後の一マスと足を動かした瞬間、彼女は猛烈な吹雪に襲われ視界を奪われた。それまで寒さも暑さも感じなかった身体が急速に冷やされていく感覚。
「ちょっ、一体コレは……ゆっ、つきさん!」
 寒さに耐え切れず思わず弓月がしゃがみこむと、少し離れた場所から洸の声が届いた気がする。やがてそれは近づき、彼女の横を一瞬にして通り過ぎた。
 そうして弓月の一つ先のマスに止まった洸は困惑した。彼女の居るマスだけ何かおかしい。実際そこだけが吹雪いていて、そこを堺に先は静かな雪原が広がっている。今まで何かしら行動の指示があっても、何かが起こると言うことはなかった。
「…早くっ、サイコロ振って!」
 とにかくその状況から脱させようと洸が大きく投げた声に反応し、吹雪の中でも手元に戻ってきたサイコロを弓月は力いっぱい放り投げる。
「 え  いっ!」
 吹雪の中から突然飛び出してきたサイコロを、洸は寸でのところでかわした。
「一体なんだよ此処は――やっぱり危険な……って、キミ?」
 ようやく吹雪の中から脱出した弓月の投げたサイコロは1だったようで、彼女はすぐその場に座り込んでしまう。そんな弓月の髪の毛は所々凍りついていた。勿論それはすぐに溶けてしまったけれど、それは本物の吹雪の中に居た証拠なのかもしれない。
「……びっくり、したぁ…ついでに二回休み、だって」
 大きな溜息と同時、弓月は頭に響いた指示を洸に伝えた。
 あまりにも唐突な事ばかりで、今はただ危機的状況から脱出できた安堵で一杯で。思わず言葉に詰まりヘラッと笑って見せれば、洸は苦笑いを返してきた。けれど、それで彼は彼女の状態を把握したようで、すぐさまサイコロを振る。
「あ…れ? 多分もうすぐゴールじゃないかな。すぐそこが行き止まりになってる」
 次第に周りの状況が見えてきた弓月は、洸が進む方向を見てそう示した。もしこのすごろくが、ぴったりの数でないかぎり上がれない、というルールでなければ、もう一二回サイコロを振れば洸はゴールしそうだ。つまり弓月が二回休みの今、彼がゴールする可能性は高い。
「さっきのは、ゴール手前のトラップのつもりだったのか……?」
 呟きもう一度サイコロを振った洸は難なく足を進め、止まったマスに指示も無いようで、更にもう一度サイコロを転がすとゴールに足を踏み入れた。
「あ…洸くんゴール?」
「そう、みたいだね。……一足先に此処から現実に引き戻されそうだよ? 目が覚める、というのが多分正しいのかな」
「えええっ、ちょっと待ってよ! 私もすぐ追いつくから。一緒に戻ろう?」
 ようやく手元に戻ってきたサイコロを慌てて振りながら、弓月も間近に迫るゴールへと足を進める。
「そうは言っても俺の意思も関係なさそうだし、先に行ってるよ」
 言うと同時、洸の姿はその場から音もなく掻き消えた。
「むぅ……」
 結局微かに笑みを浮かべながら、あっさりとこの場所から消えてしまった洸に弓月は膨れ、同時に自分の右手首を見る。そこにはまだ、洸が掴んできた感触が確かに残っていた。
「……気のせい、じゃなかったよね?」
 一瞬の出来事だったからよくは覚えていないけど。確かに洸が自分の横を通り過ぎた時、一瞬手首を掴んできた気がした。勿論、そうして手を引かれたところで足が動くわけはない。だからその手はすぐ離れてしまったけれど。掴まれたその部分は一瞬でも洸の体温を分け与えてもらい、それだけで安心しただとか、身体が少し温まった気がしただとか――思い返しては一人赤くなる。
「……私ももうゴールするんだから!」
 思わずかぶりを振り叫ぶと、弓月は空高くサイコロを放り投げた。


    □□□


「――んっ……ぁ、私寝て…た?」
 目覚めと同時、飛び込んできた朝日に思わず顔を顰めてしまう。けれど、そうして明るさに目が慣れてくると、目の前の光景に驚かざるを得なかった。
「えっ…洸……くん?」
 思わず小さく声に出してしまったものの、目の前で眠っている洸は目を覚ましはしない。
「えっえっ!? えーっと……いいの、かな…このままで?」
 焦りながらも、弓月は自分の右手を見る。どういうわけか、自分の右手と洸の右手が握られていた。その状況を把握しきれないまま、次は辺りの様子に記憶が混乱する。
 確か昨日は手ごろな洞窟を見つけそこで野宿することになったはずだ。流石に冷えるとは言え三人で寝るわけにもいかず、弓月だけは奥の小さな穴で一人眠ったはずだった。なのに、気づけば二人が眠っていた入り口近くでうつ伏せになり、同じく真正面でうつ伏せになっている洸と手を繋いでいる。
「でっ、でも……」
「――――……キミがそうしてたいなら、そうしてればいいんじゃない?」
「……起き、っ!?」
 動揺しているところに掛かった声と同時洸の目が開き、必然的に二人の目が合った。
「もう何十分も前から起きてたよ。キミ、なかなか起きなかったね。起きたら起きたで反応面白いし。さ、手ぇ離して?」
 パッと手を離すと洸は起き上がりその場で胡坐を掻く。その間、弓月は地面に肘を突きようやく上半身を上げるくらいのことしかできずにいた。
「寝顔間抜けだし……良くないよ、年頃の女の子が無防備に人前で寝るのも、間抜け面晒してるのも、さ?」
 笑いながらそう言うと、洸は弓月の鼻を軽く人差し指で弾く。
「いっぅ……」
「それにしてもなんだったんだろう、あの空間は。夢と言うには、同じものを見るのはおかしいし。まぁ、無事戻ってこれただけマシかな」
 思わず大袈裟に鼻を押さえた弓月は、洸の言葉に今までのことが夢でなかったことを確信し、ようやく起き上がると少しだけ服についてしまっていた砂を払い言う。
「そういえば私、洸くんとの勝負には負けちゃったんだよね。洸くんは私に何してもらいたいの?」
「ああ、そういえばそんなことも言ってたっけ。アレね、もういいよ」
 平然と言ってのけると洸は立ち上がった。
「へ?」
「もう叶ってるから。というか、俺には別に……そんな小さな勝負で小さなこと願ってる暇も無いしね。それよりもっと、どうにかしなければならない問題だらけだ」
 そして外の方へと目を向ける。
「そっか…そう、だよね。ごめんね」
「どうして謝るの?」
「うーん、なんとなくなんだけど。でも、……楽しかったね!」
 そう言うと洸は顔だけ弓月を見て「まぁ、微妙なところだったけどね」とだけ言い、再び外を見た。
「さて、普通に朝が来ていたみたいだし此処は確かに元の場所だ。もう柾葵は外に出てるみたいだから、そろそろちゃんと起きて行くよ?」
 夢は夢で、起きればこうして先に進むべく現実が待っている。そうして洞窟を出て行こうとする洸をジッと見つめていると、不意に彼は歩みを止め振り返った。
「夢の中ではあんなに進むことに意欲的だったのに、終わりの見えない現実ではもう先には進めない?」
「違うっ! そんなわけ、ないよ。…う、ん?」
 慌て立ち上がろうとすると、目の前に手が差し出され弓月は思わず首を傾げる。勿論それは洸のもので、思わず呆けた顔で弓月が見上げると、彼はあっさりと手を戻し外へと向き直った。
「まだ寝ぼけてるみたいだから。キミがちゃんと目覚めるまでは引いてようかと思ったけど――不要なら先、行くよ」
「ああああっ、手、手貸してくださいお願いしますっ!」
 そんな言動に、顔は見えなかったし声も聞こえはしなかったけれど、洸は確かに笑っていたと――弓月は感じる。
 自分が求めることを与えられているのか、それともそうして反応を面白がられているのか。何にしろ、確かに洸は弓月の手を引いていた。
「足、滑らさないでよね? 後面倒になったらその内柾葵に押し付けるから。その前にちゃんと目覚めることだね」
「うんっ」
 大きく返事をすると外に出る。この辺りは少し前に歩いた場所とは違い、雪は薄っすらとしか積もっていない。けれどそこに朝日が反射し、弓月は思わず目を細めた。先を行く洸には勿論そんなものは関係なく、足を止めることなくどんどん先へと弓月を引っ張っていく。
「……実はもう目、覚めてるんじゃないの?」
「まだまだっ!」
「あぁ…そう……」
 何度目かも分からない呆れた声に溜息。それでも手は離されないまま。繋いでいるというよりは、弓月の指を握っている――そんな表現が一番ぴったりなのだけど。
 その手は、確かにもうしばらくは繋がったままでいた。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
→PC
 [5649/藤郷・弓月/女性/17歳/高校生]

→NPC
 [  洸・男性・16歳・放浪者 ]←main!
 [ 柾葵・男性・21歳・大学生 ]

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
 こんにちは、ライターの李月です。お久しぶりと、ありがとうございました。
 お久しぶりだったものの、書き出してみたら意外とこんな女の子だったはず!と台詞がポンポン出てきました。考え方など大きくかけ離れてなければ良いのですがっ。
 このすごろくは今まで歩んできた道を振り返るような、そんなゲームになっていました。
 湖の先、まだ見ぬ場所を少し体験したりもしましたが――勿論この先はまだまだ未知の世界です。今後、実際に何が起こるかは、弓月さんの足で辿り着き突きとめていただければと思います。
 非常に異様な空間のため洸の機嫌も終始悪く、なんだかツン仕様が酷い感じになっていましたが(笑)所々とてもおかしな言動を繰り返しています。一応コレでも嫌われては無いので、また突付いてやっていただければと。
 会話と説明が多めでしたが、楽しんでもらえれば幸いです。

 では、又の機会がありましたら。
 李月蒼