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<東京怪談・PCゲームノベル>


LOST・EDEN プレリュード、その舞台の幕開けに



「降式!」
 そんな声が聞こえた時には遅かった。
「招来!」
 続けて声が響いた。
 二つの小太刀を持つ少女が目の前に立つ……シャルロット・パトリエールの獲物であるソレを小太刀で力任せに粉砕したのだ。
 紫色の髪と、群青色の瞳を持つ彼女は驚くほど顔が整っており、ぶんっ、と乱暴に小太刀を振るった。
「あらあら、先を越されてしまったわ」
 ぼんやりと呟くシャルロットは、少女を凝視する。
「まだ若くて可愛いのに中々の手練のようね。持っている刀も特別製みたい」
 武器まで凝視していると、少女は腰に巻いたホルスターに小太刀を乱暴におさめた。だが鮮やかな手並みだ。
「……でも、あの戦い方は……?」
 何かを自らに憑依させているように見えたが……自分のセイズ魔術とは違っている。
 少女の髪と瞳が一瞬で鮮やかな茶色に変化し、シャルロットは「あらまあ」と驚いた。
 とりあえず獲物は奪われてしまったわけだし、こうしているわけにはいかない。声をかけてみるのも手だろう。同業者なら尚更だ。
「こんばんは」
 夜闇の中で足音をわざとさせて近づくと、彼女はわかっていたかのようにこちらを振り向いた。
 にっこりと微笑む彼女はとても愛想が良く、シャルロットが「あら?」と驚愕するほどだった。
「こんばんは」
「私はシャルロット・パトリエール。あなたは?」
 パトリエール家はこの業界では有名のはず。知っている確率のほうが高いが……相手の出方はどうだろう?
 うかがうと、少女はふぅんと呟き、名乗った。
「私は扇都古」
「オウギミヤコさん? えっと、どういう字を書くのかしら?」
「扇子のオウギに、都市の都に、古い、でミヤコだよ。パトリエールさん」
 変わった名前……というか、字だ。
 シャルロットはきょとんとし、字を反芻する。
「扇さん、でいいのかしら?」
「どうでもいいよそんなの」
 都古は気さくにそう言って、シャルロットのほうへと近づいてくる。
 灯りの……街灯の下へと来ると彼女の奇抜な格好がありありと見えた。
 薄手のシャツを腰で一括りにしているせいで、完全なヘソ出しスタイルだ。穿いているジーンズも使い込みがひどく、片足など膝丈まで見えていた。
 セミロングの髪だが、後頭部で小さな尻尾のように一箇所だけ結んでいるのが見えた。
(パトリエールの家名に反応しないってことは……同業者じゃないのかしら?)
 まあ自分の場合、それだけを仕事にしているわけではないのだが。
「えっと、妖魔の退治?」
 そう言うと、彼女は頷いた。
「へえ、パトリエールさんはそういうの知ってるんだ。一般人はあんまり知らないってうちのばあさまとかはよく言ってたんだけど」
「私も同業者、に近い者だからかしら……」
「そーなんだー! 初めて会った!」
 驚く都古は表情が豊かで、とことこと近づくと握手をしてきた。ぶんぶんと上下に振ってくる。
「扇も退魔士の一族なんだけど、無名だから知らないと思う。よろしくね」
「よ、よろしく」
 勢いに気圧されてしまった。
「あの、ここで会ったのも縁だし、お近づきの印に食事でもどうかしら?
 美味しいフランス料理店を知っているのよ」
「料理のお店?」
「こういう仕事をしている以上、楽しめる時に楽しまなくちゃだめよ。それにあなたのことを知りたいのよね」
 妖艶に笑むシャルロットを見てくる都古は苦笑した。
「悪いけど、その誘いには乗れないなぁ」
「え? どうして?」
「んー、私、実は人探しをしてる最中なんだよね。それに一ヶ月に1日しか自由時間をもらってないからあんまり時間を割けないっていうか」
「人探し? 私でも手伝えるかしら?」
「わかんない。ウツミって人なんだけど、知ってる?」
 うつみ?
 響きに覚えがないのでシャルロットは首を横に振った。
 都古はすぐに落胆し、後頭部を軽く掻く。
「あちゃあ……そっか。じゃあ急いでべつのところに行かないと」
「あ、ま、待って。
 そういえばここで何をしてたの? 仕事?」
「仕事じゃないよ。妖魔を退治してただけ。
 あれ? パトリエールさんの仕事だった? じゃあべつに料金とかいらないから、自分の手柄にしちゃってよ」
 身を翻そうとする都古に、「ええ!」と声をかけて呼び止める。
「そうはいかないわよ。自分の手柄にするなんて!」
「そうかな〜。誰が倒しても結果が同じなら、依頼者にはあんまり関係ないでしょ」
 ね? と笑顔で言ってくる都古は空を見上げる。
「あーあ、余計な時間食ったわけだ。まずいなぁ……」
 相当に困っているようで都古はすぐにでも移動したそうだ。だがシャルロットとしてはこのままではいけない。
「じゃあ食事は諦めましょう」
「ん?」
「その人探し、手助けできるかもしれないから事情を話してみてくれる?」
「事情たって、たいしたものじゃないよ。単なる人探しだから」
 都古はきょとんとして足を止めた。こちらを見てくる彼女は快活でかなり可憐だった。
(で、でもいくらなんでもノーブラ……)
 呆れるというかなんというか……。
 腰に手を当て、都古は顔をしかめた。
「まあ話すくらいなら時間はそんなにかからないか。
 だから、ウツミってやつを探してるんだ」
「どんな人なの?」
「うーん。説明しにくい」
 首を傾げる都古は顎に手を遣ってうんうん唸る。
「特徴とかあるでしょう? 背が高いとか低いとか」
「べつに」
 べつに???
 シャルロットが怪訝そうにするのだが、都古は大真面目な表情だ。
「特徴かぁ……。うーん、そんなのも……もう何年も経ってるから変わってるだろうから当てにはならないしなぁ」
 ぼんやりと呟き、彼女は腰から手を離した。
「まあいいじゃん。とにかく、『ウツミ』ってヤツに心当たりがあったら、えっと……」
 ホルスターから素早く何かを取り出した。それは名刺だった。
 古ぼけたイメージを受ける名刺には、都古の名前と連絡先である携帯電話の番号が記載されている。
「あ、でも私一ヶ月に1日しか時間空かないから、留守電にでも入れておいてね。
 時間ないと折り返し連絡とかできないから、そこは許して欲しいな〜」
 あははと軽く笑ってみせる都古をシャルロットはまじまじと見る。
「一ヶ月に1日って? 仕事が大変ってこと?」
「えー? あー、それは企業秘密ってことで」
 にやっと笑う都古だった。どうやら言えないことらしい。
「とにかくここに連絡を入れればいいのね」
「返事は期待しないでねー。仕事用だから、ほとんど放置してるし」
 放置はいけないだろう……放置は。
 呆れるシャルロットだが、一応名刺をおさめた。
「これからどこへ行くの?」
「まだ探してないところかな。1日ってかなり時間制限厳しいし、東京来るの初めてで」
「え? 東京の子じゃないの?」
「うん」
 はっきり頷く都古は空をまた見上げた。
「星の位置でだいたいの居場所の見当はつけてるんだけど、東京ってごちゃごちゃしてて面倒だよね」
「居場所の見当って、誰の?」
「ん? 自分の」
「………………」
 地図は、見ないのだろうか? それとも電車を使わないのだろうか? バスでもいい。
 移動が便利にできている東京をまさか徒歩で移動しているのだろうか、この娘は。
(……色んな意味でとんでもない子なのね……)
 格好も変だし、言動も妙だ。唯一の取りえといえば、その表情と屈託のない性格?
「あ、でもさ。パトリエールさんとはこうして会えたわけだし、縁ができたわけだ」
 唐突に言い出すので、シャルロットは頭の上にハテナマークを散らす。
「てことは、もしかしたら……また来月、私と会うかもね、東京のどこかで」
「そう……いうものかしら? きちんと待ち合わせすれば会えるんじゃないの?」
「さっきも言ったけど、私、時間があんまりないんだ」
 困ったように都古は笑う。
「食事のお誘いも、時間に余裕あれば受けてもいいんだけど、そういうわけにはいかないし。
 ほら、時は金なり! ってね!」
「……なんだか使い方を間違っている気がするんだけど……」
「あり? まあいいじゃん」
 あははと明るく笑う都古はいよいよもって時間がないようで、その場でばたばたと足踏みをしだした。
「気づけばもう夜だし、まったくもって早いもんだね時間ってのは。
 それじゃ、またどこかで会えたらよろしくね!」
 そう言うなり、彼女はその場でバン! と激しい音をさせて跳躍した。軽々とシャルロットの頭上を飛び越えて、そのまま駆けていってしまう。
 無茶苦茶だった……。
「な、なに……あの子」
 今まで見たことのないタイプの退魔士だ。というより……見たことのない奇怪な少女だった。
 顔は抜群に可愛いのに……。
 名刺をもう一度見遣る。古ぼけた印象を受ける名刺だ。
 呆然と、彼女が去った方向を見遣った。もうそこには、誰もいない……。



<……メッセージをどうぞ>
 本当に留守電だった。
 確かめるために次の日、シャルロットは名刺に書かれた携帯電話にかけてみたが、見事に留守電だった。
 メッセージを入れるほどの収穫もないので、通話はそこで切る。
「扇都古、ね」
 変な子。
 部屋にあるパソコンで扇一族を入れて検索してみるが、やはりというか……引っかからない。
「退魔士をしているみたいだったけど、あの小太刀の刻印……見たことのないものだったわ」
 確かこんな……と、デスクの上の紙に描いてみるがうまくいかない。
 夜だったせいもあって、記憶が曖昧になっているようだ。
 そもそもあの腰のホルスターはなんだ?
 特別製なのはわかるが、拳銃ではなく小太刀をおさめていたり、名刺が出てきたりと……。
 それに一ヶ月に1日だけ……。
「ウツミ、かぁ」
 やはり聞き覚えはない。そんな人物に心当たりはなかった。
 頬杖をつくシャルロットは軽く嘆息する。
「縁、か……」
 もしもそれが本当なら、彼女とは来月会えるかもしれない。だがそんなことは本当に稀だ。
 この東京で、たった1日で……出会えるはずがない。無理だ。
 だが、もしかしてもしかしたら――――。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC
【7947/シャルロット・パトリエール(しゃるろっと・ぱとりえーる)/女/23/魔術師・グラビアモデル】

NPC
【扇・都古(おうぎ・みやこ)/女/17/退魔士】

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■         ライター通信          ■
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 ご参加ありがとうございます、シャルロット様。初めまして、ライターのともやいずみです。
 都古との初の出会いです。いかがでしたでしょうか?
 少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。