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<東京怪談ノベル(シングル)>


総力戦富嶽第三幕―天を舞う光狼

稼ぎ時の昼下がりに不自然な臨時休業の札が大きくつるされた彫金師・アリスの店。
けっこうシビアな店員がいるにもかかわず、店内は大騒ぎ。
その中心には紙ふぶきをまきながら、超上機嫌な少女・三島玲奈がそれ以上に機嫌の良いアリスに気持ちよく事件を語っていた。


―ひんやりとした空気に一瞬全身を震わせ、慎重に私たちはそこへ足を踏み込んだの。
追い詰められた犯人が逃げ込んだのは闇色に包まれた樹海の氷穴。
頭上を占める漆黒よりも黒い溶岩の天井から無数の水滴が落ち、ただでさえ不安定な足場を濡らし、歩行を難しくさせて大変だったわ。
でも、それ以上に踏み入れた瞬間から全方位より感じたのは強烈な殺気。
不敵な笑みを口元に描き、ひるむことなく武器を身構えたのよ―


温暖化が叫ばれ、各地で異常としか言えない大雨、暴風、猛暑が発生し、深刻な被害をもたらしている現在。
霊峰・富士に抱かれた樹海でも、その爪あとを刻み付けていた。
中でも永久凍土を抱える氷穴の異常は著しく、数十年かけて溶け出すはずの氷がこの数日で流れ出し、さらにその周辺で自殺者が続発するという不審な状況が起こっていた。
ただでさえ、不名誉な通り名が世間一般に知られているというのに自殺者急増に地元自治体が頭を抱えたのは当然の流れ。
なんとか歯止めをかけようと手を尽くしたがどうにもならず、涙を滝のように流す地元のお偉方に懇願されたIO2は調査を開始。
―異常気象で暴走しちゃったんじゃないの?
―見回り強化で蹴りつきそーですな〜
―まぁ、さすがに外聞悪いしね〜あの辺りって
と、当初はお気楽極楽、超楽観思考のほほんまったり会話が優雅に舞っていた。
だが、調査を進めていくうち、自殺に見せかけた凶悪犯罪―偽装殺人なんてものが発覚したものだから、事態は急転直下の風雲急で暴走列車が如くIO2内を混乱の極致へ追いやったのだった。
―異星人による新手の侵略計画なのか?!
―いや、どっかの組織の実験だぁぁぁぁ!!
―某団体による何とか計画が発動したんだっっ!!
―いいや旧文明・家基都の隠蔽意図かっ!?
―全ての人類はついに覚醒するの時を迎えるのだぁぁぁぁっ!!
狂気じみた絶叫やら意味不明な情報にどこぞのマッドサイエンティストの雄叫びが飛び交うのをキレイさっぱり無視し、(ごく一部の)冷静なIO2上層部は三島玲奈らIO2バスターズを現地に派遣した。


樹海上空を旋回するモニュ―いや、玲奈自慢の輝ける翼・烈光の天狼。
その真下では無差別・無軌道に砲弾・レーザー弾が爆音を挙げて飛びまくる。
世界遺産へ絶賛登録希望♪なんてことは悠久の時の果て、遠い採掘場のゴミ捨て場に捨ててきました!とばかりに崩壊していく氷穴。
数万年をかけて生み出された素晴らしき自然美の溶岩は木っ端微塵に消し飛び、地の怒りが火柱と化して天を衝く。
炎を孕んだ烈風の中を怯むことなく、すっくと立つ玲奈に憎悪の光を宿らせた―見るからに『悪の集団デース』な四肢の腐りきった集団を表す。
「どうやら犯人のご登場みたいね」
にっこりと笑いながら武器を構える玲奈を筆頭に緊張した面持ちの仲間にずるずると擦り寄る異形の集団。
緊迫する空気の中、突如、黒煙を上げて赤々と燃え盛る炎をモロに喰らい、その一部があっさりと焼き尽くされた。
その様を見て、やや及び腰になる集団に仲間の男が声を張り上げる。
「ふ、見ろ!!塵が人のようだっ!!」
「いいえ、あれはただのゾンビよ!」
剛毅であることを見せようとした男の叫びに間髪入れずにツッコみをいれた玲奈の声を合図に異形―ゾンビ集団との激戦が切って落とされた。
元々、戦闘力の高いメンバーで構成されたIO2バスターズは少々の問題を抱えていようとも、怯むことなくゾンビたちを撃破していく。
その中にあって玲奈の実力は半端ではなく、単独で半数以上を打ち倒す。
と、頑強な溶岩で覆われた地面が激しく隆起し、厳つい腕が雨が降った後の筍のようにびっしりと生え、湧き上がる煙のようにぬっそりと頑強なつくりのゴーレムが立ち上がる。
「あら、今度は溶岩ゴーレムね?」
その不気味な光景にバスターズの面々は若干表情を蒼くさせるが、玲奈は楽しげにのたまうと素早く詠唱を完成させた。
余裕満面の玲奈に苛立ったように数体の溶岩ゴーレムが腕を振り下ろした。
だが、その拳が届く寸前、玲奈の前に突如出現した4色の輝石が嵌めこまれたモニュメントが赤い光の障壁を作り出す。
ぶつかり合う力に激しい火花を飛び、一瞬ゴーレムが怯んだ瞬間を見逃さず、青い閃光弾がその身体を打ち抜いていく。
「さすが彫金師・アリスの品ね。見事な連携攻撃」
満足そうに微笑みながら、玲奈も身をひるがえすと手にしたナイフで背後から迫ってきたゴーレムを一刀両断に倒す。
体格の大きさと数の多さに任せて、餌場を求めて群れなすアザラシやトドのように玲奈に殺到し、圧死せんと畳み掛けた。
逃げる間もなく溶岩ゴーレムの巨体に飲まれる玲奈。
やや遅れて気付いたメンバーたちが慌てて援護に向かおうとするが間に合わず―華奢な少女の身体は赤黒い岩に潰された―かに見えた。
その瞬間、闇を切り裂かんばかりの眩い閃光が鋭い岩山と化してたゴーレムたちが風船のように膨れ上がり、けたたましい咆哮と共に爆発する。
「よくもやってくれたわね!!」
轟音をあげて四散するゴーレムの欠片と爆発によって起こった強烈な気流が巻き起こり、メンバー全員がその場に伏せて身を守る中に銀色に輝くモニュメント―烈光の天狼を掲げ、思いっきり目を据わらせた全く無傷の玲奈の雄叫びが響き渡る。
それに呼応するように大地が鳴動し、玲奈の前方から頑強な岩の地面が切り裂き、頭上の岩肌が蒸発して消えうせ、澄み切った青空と鬱蒼とした樹海が眼前に広がっていく。
「ひえぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!??」
「いぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁっ!!!玲奈が切れたぁぁぁぁぁぁっ」
「神の怒りか?!!奇跡ですかぁぁっ??」
驚天動地の光景にメンバーの全員が超有名な名画『叫び』のように悲鳴を上げ、互いに抱きあうわ、天に祈るわなど意味不明な行動を起しているのを横目に玲奈は逃げまくる犯人に呼ばれ、ご都合よろしく現れた怪人集団を捉えた。
「覚悟なさい!!」
嫣然と微笑む玲奈に応え、天狼に嵌めこまれた黒の輝石がゆらりと陽炎を作り出しながら光を集めて激しく煌いた瞬間、戦艦並のハイメガ粒子砲を撃つ。
超高圧縮エネルギーになぎ払われ、多くの怪人があっさりと蒸発してしまう。
そんな中、一般家庭のお台所に発生する『三万年生きてマース☆』な昆虫並みのしぶとさで天高く吹っ飛ばされた―腕がイカタコ触手の怪人が器用にも体勢を立て直すと玲奈の背後へと降り立つ。
気配に気付いた玲奈が振り向くよりも早く怪人は触手を伸ばし、その両腕に巻きつかせるやいなや、鞭の様に大きく触手をしならせ、玲奈を吹っ飛ばす。
思い切り良く投げられながらも受身を取る玲奈を容赦なく怪人の触手が襲い掛かり、身に纏っていた衣服を切り裂きつつ、空中を旋回する天狼を押さえ込む。
「くぅぅっ、油断したわ!!」
不利な形勢に追い込まれた上に天狼を奪われた形になった玲奈が悔しげに唇を噛んだその時、脳裏に自信に満ちた涼やかな女の声が甦った。
―天狼は主の存在は絶対。
楽しげに笑いながら、彼女―アリスが作り出されたばかりの天狼に触れるとそこからゆっくりと銀色の光がベールのように広がっていった。
―もし、敵が力ずくで押さえつけようとも無駄なこと。なぜなら……
ひどく好戦的に瞳を輝かせたアリスの言葉を思い出し、玲奈は口元に弧を描くと切り裂かれた制服に手をかけ、勢い良く脱ぎ捨てると身軽な体操着に変えると同時に特注品の飛道具―ヌンチャクなどなどを引っ張り出す。
いきなり飛び出した武器に驚愕しつつも締め上げてくる怪人の触手を使い込まれた棍と銀色の刃がキレイな細切れへと粉砕する。
「ぎゅぎょぁぁっぁぁぁぁぁぁっ!!」
苦悶と怒りに満ちた声を上げ、のた打ち回る怪人に拘束を解かれた天狼の高圧縮レーザーが焼き尽くす。
捨て駒兼護衛をもぐらたたきゲームのモグラがごとく見事に端から叩き潰され、呆然とした犯人はぎりりと歯をかみ締め、玲奈を睨む。
「よっっっくっもももももももももも!!!」
怒号を上げながらやけくそとばかりに犯人はバズーカや自動小銃を玲奈に向かってぶちかます。
ブンッという鈍い音が響き、銀色の天狼が現れると同時に赤い閃光が炸裂し、某フィールド状の障壁が玲奈を包むように広がった。
「な、なにぃぃぃぃぃぃぃっ!!」
悲鳴を上げる犯人の前に障壁を静かにすり抜けた銀色に輝くプレートがその名―『烈光の天狼』に相応しい威圧感を持って迫ると、全身を大きく振動させ、ゆるやかに獣のような波動を立ち昇らせる。
ヒッと短い悲鳴を上げ、腰が砕けた犯人に無数の銀狼たちが唸りを上げて襲い掛かり―超巨大なきのこ雲を作り上げたながら、地平線に爆炎が数珠繋ぎに描かれたのだった。


―閃光が消えうせた後には無様な姿の極悪な犯人を踏み潰した天狼が勝利の栄光を表す塔のように立っていた姿はもう素敵だったわ
うっとりとその時の光景を思い出しながら玲奈は向かい合うアリスに色とりどりの紙ふぶきを散らしまくる。
「さすがアリス!!天才彫金師、技ありの内匠頭!大統領!」
「ふっ……当然ね。このアリス様が創り上げた『烈光の天狼』は最高級の一品。どんな状況に陥ろうとも自らの主はあらゆる手段を講じて守り抜くのよ」
紙ふぶきを撒き散らして褒め称える玲奈に気持ち良さそうに高笑いするアリス。
犯人の真意に大きく謎を残したが一応、事件は解決したことから玲奈は今回の戦いに大きく貢献した『烈光の天狼』を作り出したアリスのところへやってきて、大祝宴会を開いていた。
「ああああああ、アリス様っ!!店を臨時休業して何、大騒ぎしてるんですかぁぁぁぁぁっ!!」
「いいじゃないの♪今回の事件でアリス作成の彫金がいかに有益で優秀なのかが実証させたのよ。顧客が増大、売り上げアップになるわ」
紙ふぶきだらけにドンちゃん騒ぎ状態の店内に半狂乱になりがなら、ちょっといい気分に陥ってるアリスを締め上げた店員だったが笑顔全開の玲奈の言葉にピクリと肩を震わせる。
「売り上げアップ……本当ですか?」
「決まってるわよ〜高い攻撃力に防御力も言うことなし☆さらに主を守る為に超強力攻撃を展開なんて素晴らしいじゃないの!!」
「では言うことはありません!!どんどん騒いでくださいな♪」
「なら今日は騒ぐわよ〜」
「最高の彫金師にして内匠頭に乾杯!」
目をきら〜んと輝かせ、手品のように料理に飲み物をテーブル一杯にいそいそと並び立てる店員にジョッキ片手に叫ぶアリスと歓喜に満ちた玲奈による騒ぎはご近所から空前絶後の苦情が乱入するまで続いたのでした。

FIN