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梟は今夜も哂う
柔らかいパステルピンクの日差しが窓から降り注ぐ。
その日差しを受けながら、皇茉夕良はぱらり、と新聞をめくる。
茉夕良は聖学園の近くに建っている図書館にまで足を運んでいたのだ。
「『怪盗ロットバルト、○○美術館のイースターエッグを強奪』……か」
茉夕良は図書館の新聞のバックナンバーから、怪盗ロットバルトの名前を見たら引っ張り出してきて、その記事を片っ端から読んでいた。
怪盗ロットバルトが現れたのは、つい最近。1・2週間ほど前の事だった。
怪盗オディールが盗みを行ったケースは、今までたった3回。しかしロットバルトの回数は、わずか数週間で既に20回以上に上っていた。
盗まれているものは、古い絵画、壺、像……高めの芸術品を手当たり次第と言う感じで、模倣犯にしてはいささか乱暴な印象だ。
「でも……」
茉夕良は新聞をめくりながら、ぎゅっと服の上から胸の辺りを掴む。
胸の辺りがざわざわするのは、何も彼女の第六感だけではない。
『○月○日
本日21時32分、怪盗ロットバルトを名乗る男の手により、イースターエッグが盗難にあった。このイースターエッグは
(中略)
なお、この警備に当たった警備員3名は、強盗との乱闘中に倒れ、病院に搬送。内2人は怪我もなく、翌日すぐ警備に復帰したが、1人は未だ意識不明。警備に当たっていたAさん(仮名)は外傷はなく、精密検査でも異常が見受けられなかったため原因不明と病院側が発表している。』
「意識不明……」
茉夕良は小さな声で朗読してみる。
乱闘って一体なんだろうか。
しかも原因が全く分からないなんて……。
茉夕良は読んだ新聞をコピー機でコピーし、コピーから必要な部分を切り取ると、折り畳んで元あった場所に片付けた。
茉夕良の脳裏には、1人の人物の姿が掠めていた。
/*/
海棠織也さん。
私の前で秋也さんの振りをして話をし、オディールと理事長の事を警戒していた人。
何で秋也さんの振りをしていたかは、うちの学園を追放されたから、兄の名前を語るしか、学園に入る事ができなかったんでしょうね……。
事件のたびに、いつもオディールの事を睨んでいた……。
オディールの事を警戒していたのは……本当は、オディールの欲しいものを、彼も欲しがっていたからじゃないのかしら? オディールの盗んだものは、オデット像と、イースターエッグ……。金銭的な価値は美術館のものとは劣るでしょうから、他の部分で価値があるんでしょうね……。
茉夕良は自分の通学鞄から、学園新聞を取り出して何度も読み込んだ記事に目を通す。
『2人目の怪盗!? 怪盗ロットバルト出現!!』
怪盗ロットバルトの予告状が、怪盗オディールの予告状と一緒に並んでいた。
茉夕良は、未だにオディールが盗むものの正体を知らない。しかも、ロットバルトは織也ではない可能性もあるのだが、何故か、茉夕良にはロットバルトと織也はイコールで結ばれていた。
でも、イコールで結びつつも尚も、茉夕良は否定した。
どうか、ロットバルトは織也さんではありませんように。
せめて……。
織也が起こした事象について、茉夕良は目を伏せて考えた。
せめて。
誰1人として、誰も傷付きませんように。
そう祈らずにはいられなかった。
茉夕良が図書館を出る頃には、パステルピンクの空はラベンダー色に変わっていた。
ホーホー、と言う鳴き声に気付き、茉夕良は顔を上げる。
「梟……?」
この辺りだと梟なんて滅多に見られないのに。
夕闇のせいなのか、ひどく黒い梟を見て、茉夕良は首を傾げた。
しばらく歩き、茉夕良ははっとしてもう1度梟を見上げた。
梟は、いなくなっていた。
「……まさか」
茉夕良は、ぎゅっと服の上から心臓の辺りを掴んだ。
ロットバルトは、梟に化けて、監視をするのである……。
<了>
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