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<東京怪談ノベル(シングル)>


Girls Party!


 玲奈の前には、みかんと緑茶。そしておせち料理。
 母港、楽華星錨地に錨を下ろした宇宙船・玲奈号の一室で、彼女は憂鬱な顔をしていた。
「はーぁ……」
 何という孤独なお正月。大好きな楽華星錨地だけれど、お正月をひとりぼっちで過ごすなんてあまりにも寂しすぎる。
「だめ、寂しい。誰か友達、呼んじゃおうかな」
 1人ぼんやり呟いて、テーブルに突っ伏した。生涯独身、科学を伴侶と誓った彼女だが、女性特有の周期的な精神不安には勝てない。
 顔をあげると、玲奈はカレンダーを睨む。
 寂しいから、変なことを色々考えてしまうのだろうか。不老不死の自分はこの先、毎月延々鬱になるのかと思ったら、将来不安に陥った。
「うう! やっぱり誰か呼ぼう!」
 堪らず、玲奈は瀬名雫の番号を呼び出し、電話をかけた。
「もしもし、玲奈ちゃん? あけましておめでとう!」
 コール音の後聞こえてきた明るい雫の声に、玲奈も元気が出てくる。
「おめでと! ねえ、いま暇?」
「ん、暇だよ! どうしたの?」
 玲奈は雫と、孤独な正月の話やら、月のアレで鬱な話やら、他愛ない話で盛り上がった。お喋り大好き、そんなところは玲奈もやっぱり女の子だ。
「女心は女じゃないと……」
「判りませんわよねぇ、貴女!」
「ねえねえ、憂鬱になるならさ、逆に楽しいこともやっちゃえばいいんじゃない?」
「それいいアイディア! パーティーしようか!」
 すっかり意気投合し、2人は毎月何がしかの宴を設ける事にした。
「いいよね、こういうの! 女子会っていうの? 私、浮世に疎いし」
「そうだよ。宙ばっか飛んでるから、玲奈ちゃん偶には地上に降りてこないと!」
 受話器の向こうで、カチカチと雫がキーボードを打っている音が聞こえる。
「ね、早速やろうよ! 私、ネットで友達集めておくから」
「わ、ありがとう! じゃあ、そっちに向かうね! えっと、到着時刻は……」
 雫とパーティーの約束をすると、玲奈はうきうきしながら電話を切った。


「いらっしゃい! 玲奈号へようこそ!」
「お邪魔しまーす。わ、すごーい!!」
 玲奈号の中にある貴賓室に招かれた雫達は、目を丸くした。美しいシャンデリアに、気品のある調度品、ガラスのテーブルにはお菓子がいっぱいに並んでいる。
「豪華な内装だな〜!」
「ほんと、綺麗!」
「ふふ、どうぞ寛いでね!」
 雫がネットで募った仲間は、皆玲奈や雫と同年代の少女達で、玲奈号の豪華さや玲奈のもてなしに大喜びだった。
 おいしいお菓子と飲み物を囲んで、楽しくガールズトークが弾む。きゃっきゃと賑やかに喋るうち、誰ともなく何処かへ行きたいと言い出した。
「うん、せっかくだし出かけようか!」
 玲奈もノリノリで、玲奈号を出港させる。
「寒い冬は南国が一番!」
 目指すは常夏の星だ。玲奈にはいい場所の心当たりがあった。
 しばらくして目的地に着き、玲奈は満面の笑顔で彼女達を星へと上陸させた。の、だが。
「どう見ても氷の星です本当に」
「嘘?! この前来た時は夏だったよ?!」
 目の前に広がる氷の星の景色に、玲奈は慌てた。常夏だと思っていたこの星が、まさかこんなふうに変化するとは知らなかったのだ。しかし友人達を招いた手前、今更帰るわけにもいかない。
「ううん、任せてよ!」
 首を振ると、玲奈はあることを思いつき、改めて胸を張った。寒風吹き荒ぶ中、疑心暗鬼の友人達に玲奈は自信満々だ。
 どうするつもりだろう、という彼女達の前で、玲奈は眼力光線で氷を沸騰させ温水プールを作った。
「ええっ?! ど、どうなってるの?!」
「これって、温水? 平気なの?」
「大丈夫♪」
 玲奈は跳躍すると、空中で鮮やかに制服を脱ぎ捨て、水着で温水プールへとダイブした。
 パシャア、と軽やかな水飛沫が友人達にもかかる。
「わ、ほんとだ! あったかい!」
「すごーい! よーしっ!」
 雫達も靴下を脱ぎ、袖を捲り上げると声を上げて水辺で燥ぐ。玲奈はみんなにウインクをすると、超生産力でプールの横になんと海の家を建造した。楽しい宴の開始だ。
「きゃあっ! あははっ、やったなー!」
「このー! えいっ!」
 玲奈号が莫大な霊力を費やし、強力な温風を放ち周囲を温める。
 温風の向こうには美しい氷の景色、温水プールに海の家。不思議なバカンスを女の子達は大いに楽しんでいる。だがその中で、雫は1人小声で呟いた。
「確かに楽しいけど……玲奈ちゃん、大丈夫かな?」
 玲奈号と玲奈の力で、この氷の星は常夏の星のような体裁を繕っているけれど。
 ……数日後事件発生、やはり雫の心配は的中してしまった。玲奈と玲奈号が倒れたのだ。
 冷たい星をこれだけ温め、様々なものを作り出していたのである。玲奈が疲れ果てるのは当然のことだった。
「もう、フラフラ……」
 本人も楽しくて、つい色んなことを忘れていたのだろう。玲奈は船の中で、具合が悪そうにベッドに突っ伏す。
 勿論本体である玲奈号も力を失い、温風を出すことも叶わずに凍てつき、氷河に呑まれた。
 玲奈号の中に避難した雫達だが、パワーの足りない玲奈号の中にも冷気が忍び込んでくる。
「さ、寒いよお! 何とか出来ないの?!」
「ねえってば! 玲奈ちゃんがここに連れて来たんじゃない」
 口々に苦情を言い出した友人達を、少し怒った口調で雫が諌めた。
「玲奈ちゃんにばっかり文句言うなんてだめだよ! みんな、玲奈ちゃんのおかげで楽しく遊べたんだよ? 今度は私達が玲奈ちゃんを助けなきゃ!」
 少女達は顔を見合わせる。
「でも、どうやって?」
「まず玲奈ちゃんに毛布とかかけてあっためてあげて。それから……」
 何とか或る高度まで飛べれば太陽熱で再起できるはずだが、空調もろくに効かないこの状態では物理的に温まるしかない。
「よおーし! 押し競饅頭よ!」
「えっ?! そ、それで暖かくなるかなあ?」
「やるっきゃないって! いくよ!」
 雫が音頭を取り、少女達は皆で体を寄せ合い、押し競饅頭を始めた。
「そおれ押し競饅頭!」
 横になる玲奈の隣で、少女達は力を合わせるがなかなかうまくいかない。
「……寒いもう駄目……」
「寒いなら、もう一丁! そおれっ!」
「うん、押し競饅頭! 玲奈ちゃん、がーんばれっ!」
「押し競饅頭! 玲奈ちゃん、ファーイトー!」
 それでも円陣を組んで身を寄せ合ううちに、だんだん皆も元気を取り戻し、身体も温まってきた。そんな彼女達の声や温かさが伝わったのか、やがて断念と檄の鬩ぎあい横目に、玲奈も回復してくる。少女達が明るさを取り戻せば、機内の空気も華やぎ、暖まっていく。
「うん……力、戻ってきたかも。……よーしっ」
 玲奈が身体を起こしエンジンを稼働させると、玲奈号はそれに応え、あちこちのシステムに光が戻った。
「玲奈ちゃん、頑張って!」
「玲奈号、発進!」
 玲奈の号令に合わせて氷の星から浮かびあがり、玲奈号は脱出成功する。
「やったあーーっ!!」
 雫と少女達は玲奈に飛びついて、歓声を上げた。
「玲奈ちゃん、ありがとう!!」
「私の方こそ! 元気取り戻せたのは、みんなのおかげだもの」
 自分の至らなさを許してくれ、励まして助けてくれた彼女達。玲奈は女子会の友情に、思わず感涙だ。
「ね、玲奈ちゃん、またみんなで遊びに行こうね!」
「もっちろん! 女子会最高!」
 玲奈と雫は、笑顔でパチンと両手を打ち合わせた。