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<東京怪談・PCゲームノベル>


+ 三日月の迷宮 +



「あ、いらっしゃーい」
「お、暇人が来た」
「暇な方がまた迷い込んできましたね」
「……あ……ぎせーしゃー」


 開かれた部屋の向こうに居たのは双子らしき少年達と猫耳の生えた少女に……しゃべるミカン!?


「……いよかーん」
「そうだよー、ミカンじゃなくて『いよかんさん』だよっ!」
「いや、そんな人の心読んでやんなよ」
「仕方ありませんよ。そういう世界なんですから」


 びしっと突っ込みを入れる双子の片割れに苦笑するもう一人。
 慌てて後ろを振り返るが其処にはもう扉はない。話の展開的に自分はどうやら『異世界』に迷いこんでしまったらしい。漫画じゃあるまいし、こんなことが日常に落ちてくるなんて誰が思うものか。
 そんな自分を見て彼らはくすくすと含み笑いをする。そして声を揃えて言った。


「「「「じゃあ、かくれんぼ開始!」」」」


 ……なんて無茶苦茶な設定だ。


「と、言うわけでお前が鬼だ。ちなみにルールは簡単。今から俺達がこの屋敷の中に隠れるから、三十分以内に見つけてタッチすること」
「四人全て見つければ貴方の勝ち。一人でも見つけられなかったり、時間が過ぎてしまったり、死にそうになってしまった場合は貴方の負けです」
「あのねー、かったらねー、すきなものあげるのー。でもねー、まけたらねー、ろうりょくぞーん」
「労力損、つまり骨折り損のくたびれもうけ〜! にゃははー!」


 四人が好き勝手に『かくれんぼ』の説明をする。
 自分は一体何が何やら分からない。しかし彼らはすでに各自準備体操なんかを始めてヤル気満々、逃げる気満々。


「じゃ、デジタル砂時計をあげるね。この砂が落ちきるまでが三十分で、此処に出ている数字が貴方のHPだから!」
「ヒットポイントまで設定されているのか……」
「じゃ、開始ー!!」


 その言葉を合図に三人は駆け出す。あっという間に姿を消した後には自分だけが取り残される。ふわりふわりと自分の真横に浮いているのは先ほど半ば強制的に渡されたデジタル砂時計とやら。
 ふと、前を見ればとてとてと短い足を懸命に動かしているいよかんさんとやらの姿。そして彼? は不意にぴたっと足を止め、こちらを振り向かずに呟いた。


「……とびらをあけるときは……きをつけて……ね」


 ……え? 何でそんな意味深長!?


 そうして消えた不思議生物いよかんさん。さんをつければいよかんさんさん。
 いや、そんなことを考えている場合じゃない。こうしている間にも砂時計の砂はさらさらと落ちて時間は過ぎてしまう。
 強制的にわけもわからず始まったかくれんぼ。


 さて、どこから探そう。



■■■■■



 今回の犠牲者もといかくれんぼの鬼役に抜擢されてしまったらしい俺――夜神 潤(やがみ じゅん)はとりあえず手に持っていた台本を見下げる。
 確か自分は自宅で次の舞台の台本を覚えている途中だったはずだ。
 ほんの少し前までは自室に居て、台詞の読み込みをしつつ表情や手の動きなど細かな演技について熱中していた事は記憶している、が……。


「一体何があったんだ……」


 まさかその途中、休憩でもしようと別室に向かう扉を開いた瞬間に「かくれんぼ」に巻き込まれるとは誰が思おうか。
 再度後ろを振り向いても入ってきた扉は無く、帰れる気配も無い。今は和式のだだっ広い屋敷の廊下で一人ぽつんと立ち尽くすのみ。
 だが、アイドルとして常日常過ごしているおかげか、こういったトラブルには強い。テレビの収録で急に台本にはない話題を振られた場合アドリブで返すことは当然のこと。
 特に動揺もせず、腰に手を当て押し付けられたばかりのデジタル砂時計に視線を向けた。


 刻まれている数字は刻々と減っていく。
 砂も上から下へとさらさら落ちていくばかり。


「まあ、舞台の真っ最中に迷い込まなかっただけでも良しとするか。しかしかくれんぼ……知識としては知ってるが実際遊ぶのは初めてだな」


 三十分という時間で四人を捕獲。


「取り合えず廊下に並びに並んだこれらの扉の中に逃げ込んだらしい四人を探し出すか。そうだな……まずは此処らへん」


 一、二、三、と指で示しながら適当に選んだのは五番目の扉。
 此処が既に変な空間である事は分かっている為、何が出てくるのか警戒しながらそぅっと開いた其処に広がっていたのは――。


「普通の和室っぽいな」


 其処は畳が敷き詰められ、真ん中には炬燵が置かれ、箪笥があったり、押入れがあったりといたって普通の和室。
 もしかして忠告があった以上踏み込んだ瞬間に何か罠でも発動するのかと考え一瞬入室を躊躇うも、中に入らない限りは探せない。だが覚悟を決めて畳に足を乗せて進むも特に何もなし。
 内心ほっとしつつ、取り合えず子供が隠れられそうな場所を探し始める。
 炬燵の中、押入れの中、箪笥の物陰。
 だがそう簡単には見つかってくれるはずも無く、どれも外れ。


「大体子供っていうのは思いがけない場所に入っていたりするが……まさか此処とかな」


 すぅ……。
 そう静かに冗談交じりに笑いながら開いた箪笥の小さな引き出しの中には――オレンジ色の物体がみちっと。


「……てへ」
「閉めていいか」
「しめないで、しめないでぇぇぇぇ!!!」
「どうしてこんなところに居るんだ」
「うわぁ、ぁぁぁん! ……スガタに閉めてもらったのは……いいけど、うー、ひとり、ででられなく、なっちゃったぁ……!」
「……だろうな」


 最初こそは愛らしい引き攣り笑顔を浮かべるも、閉めようとした瞬間ぴょーんっと飛び出てきたのはいよかんさん。
 彼? 彼女? は小粒の涙を辺りに散らしながら俺に抱きついてひっくひっくと啜りを上げる。どうやら本気で怖かったらしい。普通に考えれば引き出しの中から出ることは困難だと分かるだろうに、かくれんぼに夢中になりすぎてその事をすっかり忘れていたようだ。
 俺は不思議な柑橘類の背中と思われる場所をぽんぽん撫でてあやしながら、デジタル時計へと眼を向ける。


 残り二十五分。HPは八十五。
 順調と言えば順調かもしれない。


「じゃあー……ぼくいまにいるから、のこり三人おねがいねー……」
「そっちももう変な隙間に入らないようにな」
「うん!」


 ぴっと針金のような腕の先にちまっと付いた手をあげ、ちたたたたっと立ち去っていく不思議生物を見送った後、自分は和室の外へと出る。
 まだまだ先の長い廊下を見渡しながら次は何処を探してやろうかと足を進めた。



■■■■■



「見つけた」
「あにゃーん、残念無念ー!」
「身体は上手に隠れられていたが耳の影が少し出ていたのが敗因だな」
「ぶーぶー! 仕方ないなぁ。大人しくぼくも居間に移動するよ〜だ!」


 二人目を見つけたのは亜熱帯ジャングル空間での事。
 飛び込んだ当初は一体何事かと眼を見張ったが、もはや何も言うまい。
 それこそ綺麗に、本当に綺麗に木々へと身を隠していた少女だが、自分がやってきた事でそわそわし始めたらしく青い猫耳がぴこぴこ動き、その影が地面に不自然に写っていた。それを気付くと相手が警戒し逃げてしまわないようにさり気無く辺りを探す演技をしつつ近付き、そのまま素早く確保した……と言う訳である。
 少女――社(やしろ)と言うらしい――は俺の手が乗った肩をじっと見てからやれやれと肩を竦める。
 それからにぃっと口端を持ち上げなにやら意味深の笑顔を浮かべつつ、口元に手を当てた。


「スガタとカガミは今回面倒なところに隠れたみたいだから頑張ってね〜!! はにゃーん!」


 そう言い残すと少女もまた居間の方へと姿を消す。
 たたたたたっと駆けて行く足音は軽く、そして何処か楽しそう。まるでこれから起こる『何か』を期待しているかのように。
 残された忠告の意味を考えながら俺は少女の後を追い掛けるような形でまた扉の外へと出た。


「さて、残りも三分の一というところか」


 デジタル時計へと眼をやれば残り時間は十分。HPは五十。
 今までの配分を考えると充分達成出来る範囲内だと考えていいだろう。二人ほど見つけて「かくれんぼ」とやらの要領が掴めて来た自分はふっと口元に笑みを浮かべる。
 それから手にしていた台本をぱらぱらと軽く捲り、マーカーの引かれた其処に僅かな時間視線を落としてから再び其れを閉じた。


「気分転換に良いな。このまま力を使わないで残り二人を探せるか試してみよう」


 俺はそう呟きながら台本を手に再び扉を開いては閉じるという行為を再開する。
 扉の先は本当に不思議な空間が広がっており、時には雪国、時には砂漠、時には扉を開いた瞬間ざばんっと水が溢れ出てきた事もあった。――ちなみにその水は上手く危険を察知し、扉の影に隠れていたおかげで大して濡れずに済んだ。


「次は何が出て――」


 それは二十一番目の扉を開いた時の事。
 今までの光景とはまた一風変った景色がそこにはあった。


「あ、やっと来た」
「お、やっと来たな」
「じゃあ、頑張ってね」
「じゃあ、頑張れよ」
「「ようこそ、鏡の迷宮へ」」


 声が反響し、発生場所が分からなくなる。
 ちょろちょろと動く影は反射し、実体なのか虚像なのか分からなくなる。
 俺は近くに張られている鏡に手を当て、そこに映る自分の姿を眼に入れた。その間にも隠れている……否、すでに自分をからかって遊ぼうという意思のある少年の姿が垣間見える。


 此処に居るのは一人なのか。二人なのか。
 そもそも相手を詳しく知らないのだから声真似をされてしまえば判断力も鈍る。
 左も右も、簡単なそれすらも分からなくなる鏡の迷宮。
 下手をすれば元の場所に帰ることすら困難になりそう。


「まさか鏡張りの部屋が出てくるとは思わなかったな。確かにこれは面倒そうだ」


 片手を腰にあて、溜息を吐き出す。
 自身の力を使えば、相手の居場所を突き止める程度の事は出来るだろう。しかし先ほど使わないで探し出そうと誓ったばかり。こんな簡単に覆すわけにはいかない。
 ではどうするか。
 手段が見つからない以上、相手と自分の駆け引きになる。
 右手を鏡の壁につきながら先へと進む。進む度に僅かに見える影は時々可笑しそうに笑っていたり、べっと舌を出していたりとこちらの感情を煽ろうとしているように見える。
 だが其処はまだ冷静に。
 相手の挑発に乗ってしまった場合、下手すれば鏡にぶつかって怪我をしてしまうなど思わぬ事態を招きかねない。それだけはアイドルとして許せない。


「あれ、もしかしてもう諦めちゃった?」
「あれ、もしかしてもう諦めたのか?」
「あと五分だよー」
「あと五分だぜー」
「「さあ、頑張って探して遊んで」」


 やはり此処に居るのは二人のようだ。
 鏡をチェックしているとそれが確かになる。相手も特に人数を隠す気は無いのか、動作をあわせようとしていない。二体の虚像が違うポーズで現れれば『二人』であることを確認出来る。後はどうやって二人を捕まえればいいのかが問題だ。


「こちらも鏡を使うか」


 ぽそりと呟いた瞬間、俺は鏡の壁からそっと手を外す。
 それから素早く相手の死角を探し出し、己の姿を隠し身を潜める。これに驚いたのは当然スガタとカガミの二人。一瞬二人同時に目を見開いた事が鏡に映った。俺は台本を掴んだ手を出し、それがどう反射するか確かめる。それと同時に二人の姿が同じ鏡に映っていないかよく確かめ、場所を変えては何度か同じ様に鏡の反射具合を具体的に調べた。


「右斜め、左が二つ。左斜め三つと左下」


 やがて見えてくるのは一人の居場所。
 『彼』もこちらの動向を窺っているのか特定の場所から離れようとしない。それがこちらには幸いと言えよう。そして相手は子供。考えが浅い――少なくとも俺にはそう見えたしそう感じた。
 ひゅっと息を飲み込み、眼を細める。目標は定まった。
 ならば後は――捕らえるのみ。


「一人目」
「――え!?」


 一直線に目の前に現れた俺を見、見開いた『彼』の瞳は右が黒、左が蒼。
 珍しい色合いだと心中思いながら片手を伸ばし、幼いその手首を掴み自分の元へと引き寄せる。軽い身体はそれだけでよろめき、収まった。そして片割れが捕まった事によりもう一人もまた動揺の気配を見せる。
 虚像が一つ動かなくなっただけで、もう一人の居場所もまた一瞬にして判明した。
 俺はこの遊びを内心愉しんでいる事に気付く。
 純粋に誰かを追い掛け、捕まえるだけの単純な遊戯。けれどそれも舞台がこれだけ凝っていれば大人でも――長い時を生きてきた俺自身もまた揺さぶられた。
 捕まえたばかりの少年から身を離すともう一人を追い掛ける。


「二人目っ!」
「うわっ、ちょ、速ぇ!」


 だがそう簡単に向こう側も捕まるわけにはいかないと鏡と鏡の隙間を素早く駆け抜けていく。それも見事なまでにぶつからないように、だ。
 俺も手に壁をついて怪我だけは避けるようにしつつ相手を追い掛け、そして追い詰めていく。
 じり。
 知らぬ内に追い込んだ行き止まりで少年はバツが悪そうな顔でこちらを見やる。先ほど捕まえたばかりの少年と対称的にこちらは右が蒼、左が黒の瞳。
 逃げられない最大限の注意を払いながら近付いていけば、相手もどこかに逃げ場は無いかきょろきょろと辺りを見渡す。だがそんな隙間など自分の脇にしかなく。
 そして彼はそれに賭けるしかなくて。


「捕まえた」
「っ、〜……分かった、わーかった、降参するから!」


 自分の横を身を縮めて潜り抜けようとする少年を俺は当然許すわけも無く、小脇に抱えるような形で最後の一人――カガミを捕まえた。



■■■■■



 三日月邸、居間。
 四人と一匹はほんわかと団子の積まれた皿とお茶を囲みながらほのぼのと談義していた。


「しっかしー、欲しいものがのど飴ってあんまり欲ないね!」
「やすあがりー……」
「もっと高価なもの強請ってくるかと思ってましたのに」
「もっと美味い物とか強請ってくるかと思ってたのによ」


 じぃっと四対の瞳が俺を見やる。
 そんな俺の手元には景品として貰ったばかりの俺の大好きなのど飴の袋があって、しかも俺はその一つを口に含んでいたりする。
 ころころと口内を転げまわる飴に喉を癒されながら俺ははっきりと言葉を口にした。


「欲しいものは基本的に自分で買えるしな。声を使う仕事をしているとのど飴は結構便利なんだ」
「そういうものかな〜、ぼくだったら可愛い蜻蛉玉とか要求しちゃうけどなぁ」


 社が自身の髪の毛に括りつけてある赤い宝玉を指差し、続いて腕を組んで考え込む。
 だがぽんっと両手を叩き合せると、それと同時に皆顔を持ち上げそして満面の笑みを浮かべて笑った。


「と言うわけで本日の暇つぶし終了★」
「「「「お疲れ様でしたー!」」」」


 目の前で三人と一匹が声を揃えて終了の合図を叫ぶ。
 「未だ台詞覚えがあるんだが」とは口に出さず、自分もまたお茶を啜りながら一度だけ小さな礼をしておくことにした。




……Fin








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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【7038 / 夜神・潤 (やがみ・じゅん) / 男 / 200歳 / 禁忌の存在】

【NPC / スガタ / 男 / ?? / 案内人】
【NPC / カガミ / 男 / ?? / 案内人】
【共有化NPC / いよかんさん / ? / ?? / いよかん(果物)】
【共有化NPC / 三日月・社(みかづき・やしろ) / 女 / ?? / 三日月邸管理人】
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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、今回は三日月の迷宮楼にご参加頂き真に有難う御座いましたv
 頭を使っての参加ということでしたので、こんな感じに描写させて頂きました!
 のど飴はどうぞ持っていってください。
 自分もなんとなく飴を舐めながら楽しく書かせて頂きました。ではまた機会が御座いましたら宜しくお願い致します!