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<東京怪談ノベル(シングル)>


スーパーヒロイン魔改造!


 世界制覇を企てる悪の組織は数あれど、玲奈のターゲットはとびっきり邪悪な存在であった。
 いよいよ本拠地に突入した彼女に対し、首領は惜しみなく怪人を差し向ける。動植物の特徴を付与した強力な敵を、玲奈は無数の変身で退けた。決して楽な戦いではない。中枢へと突入する頃には衣服も破れ、息も切れていた。
「てやっ! そこね、悪逆非道の首領っ! 観念しなさい!」
 最後の扉を渾身の力で破壊し、玲奈は黒覆面の首領へと詰め寄る。相手は後ずさりしながら、「ようこそ我が居城へ」と余裕のポーズを見せた。だが、それが精一杯の強がりであることは一目瞭然。玲奈は剣を握りなおし、全面降伏を迫る。
「おとなしく投降しなさい! さもなくば……」
「さもなくば、どうなるというのだ? 愚かな小娘っ!」
 首領の声が歓喜を帯びる。
「もしかして、罠?!」
 玲奈は周囲を見渡すが、首領の部屋はまるごと変化。壁の機器が崩れたかと思うと、そこから無数の肉ひだと牙が彼女へと迫ってくる。石畳の床も壊れ、ぬめりを帯びた舌のように動き出した。赤褐色の空間は、まるで生きているかのようである。
「はっはっは! 小娘、貴様の居場所は巨龍の口腔……そのまま食われて死ぬがいい!」
 玲奈は何かのトリックだと思いたかった。しかし首領が専用の装置で逃げるところを見ると、どうやら本物らしい。
「くっ! 逃れる術はないのっ? き、きゃああぁぁぁーーーーーっ!」
 万事休す。玲奈は巨龍の牙に身体を砕かれ、熱い酸で衣服を焼かれ……文字通り、敵の餌食となってしまった。

 ……彼女の記憶は、ここでいったん途切れてしまう……

 玲奈は手術台の上で目を覚ました。もちろん起き上がることはできない。受けた傷は想像以上に深く、損傷した部分も多いのだ。悔しさで涙を流そうにも、これが何よりも辛いというのだからたまらない。
 そんな身も心もズタズタにされた玲奈の治療を快く引き受けたのは、オカルティック・マッドサイエンティストとして名を馳せる鍵屋 智子だった。
「また戦えるようにしてほしいって聞いてるから、魔改造の準備をしたわよ。いいかしら?」
 普通の患者が聞いたら「いっそ殺せ!」と暴れ出しそうなセリフを平気で吐く鍵屋。だが、玲奈は普通の患者ではない。まずは今の身体の状態を受け止めることから始めようと、ドクターに説明を求めた。
「今のあたし、どうなんですか……?」
「右目の損傷に、酸による抜け毛。左腕と左脚に致命的なダメージがあるわ」
 髪の毛はなんとかなるけど、他は無理……玲奈は意を決して「お願いします」と魔改造を願い出た。
 すると鍵屋は先ほどの説明に付け加え、ズバリ敗因を指摘する。
「貴女が負けた理由は、スタミナ不足よ。一気に多人数を相手にできる身体の仕組みになってないの」
 それに関しては、玲奈も認めざるを得なかった。
 実は首領に降伏を求めたのには、深い理由がある。怪人との戦いで損なったスタミナを回復させていたのだ。それが今回の戦いで裏目に出た以上、そこが改善点と指摘されても仕方ない。
 そこでドクターは内臓の機械化を第一に考えた。しかし彼女の得意技である変身は、身体の内部までもを変化させて強力なパワーを得る。それが最大の長所であり、最大の魅力である。スタミナのために最大の利点を削るのは、科学者としてのプライドが許さない。
 鍵屋は思案し、打開策を披露。さまざまなアイテムを用いての強化を考えたと説明した……と、ここまではマシな話に聞こえなくもない。

 問題はここからである。
 ドクターは強化アイテム第一弾をさっそく披露した。それはボーダー柄の女性用オムツである。鍵屋は問答無用で、そそくさと玲奈に履かせた。
「あ、あの! こっ、これって……」
「流行の最先端を行くボーダー柄よ。オムツの内側に出たものは、生地の中にいる無数の細菌が完全に分解してくれるから、長期の戦闘にも耐えられるわ」
 玲奈は巨龍に噛まれた時よりも大きな衝撃を受けた。そして、この先の魔改造に何ともいえぬ不安を感じる。
『オカルティックっていうか、これはエキセントリックって言うんじゃないのー?!』
 彼女の、いや魅力的な実験台の予想は、見事に当たった。
 この後、鍵屋自慢の強化スーツを自慢げに披露されるという罰ゲームが華やかに開催された。スーパーヒロイン玲奈の秘密を、赤裸々に大公開していく。
 衝撃的なオムツに続き、取り出したるは色気のかけらもないビキニ。もちろん、マトモな商品にあらず。こちらは若くして死んだビーチバレー選手の霊魂が宿ったいわくつきで、装備すれば脅威の跳躍力を実現するという。
 同じく陸上選手が宿るハイレグブルマにタンクトップのセットは、恐ろしいまでの瞬発力を生む。さらにフィギュア選手のドレスで脚力をアップ。これらのセットを無理やり着せると、鍵屋は神命の呪いをかけて装備を固定してしまった。
「ふふ、まずは第一段階完了よ。神の命令は絶対だから、たとえ貴女が脱いでも出てくるのよ。さて、続いて……」
「あ、あの〜、身体の治療は……」
 もはや玲奈の痛みも、どこか遠くに吹き飛んでいた。ある意味で「治療は済んでいる」といえるが、そういう問題ではない。
 鍵屋はフード付きのハイレグウェットスーツを持ち出し、玲奈をその中に押し込んでジッパーを閉めた。なんと、これが無敵の装甲服だという。しかし強固とはいえ、胸から股にかけて野暮な矢印の柄が存在する。これを解消すべく、智子は光学迷彩を吹き付けカツラをかぶせると……
 なんということでしょう。どこからどう見ても乙女の全裸にしか見えません。
「これで貴女は一見すると普通の娘よ。いざとなれば、この迷彩解除ガスを浴びて変身すればいいの」
「ちょ、ちょっとー」
 玲奈の希望はいっさい聞かず、自分好みの最強を見事なまでに押し付けた鍵屋。今、マッドサイエンティストは楽しそうな微笑みを浮かべている。いちおう「治療を施せば終わり」と言ってはいるが、玲奈は不安でしょうがない。
 鍵屋印のスーパーヒロインは、機会があればぜひ返上したい。そう思う玲奈であった。