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<東京怪談・PCゲームノベル>


絵本倶楽部







 どこかのファーストフード店だろうか、それともどこかの教室?
 4人の中学生があーでもないこーでもないと言葉を交わす。
 その中心にある机に置かれているのは、何も書かれていない真っ白な本。
 そう、これから物語を考えるのだ。
 ここではないどこか。
 今とは違う自分。
「じゃぁ…僕、が……書いて、いく…ね」
 本を広げてペンを持ったのは、4人の中で一番見た目が小さい柊秋杜。
 その隣でいすの背もたれにどっぷり背中を預け、瀬乃伊吹が眉根を寄せる。
「主役どんな感じにすれば面白いかなぁ」
 と、ネタを探して辺りを見回せば、びしっと真正面からチョップが入った。
「いでっ」
「主役もだけど、テーマも設定もまっさらなんだけど」
 思いっきり突っ込んだ草薙高良は、額を押さえる伊吹とは裏腹に平然としている。
「ねぇ」
 くいくいっと、袖が引っ張られる感覚に高良が視線を向ければ、
「あの人、主役にしてみるとかどうかな?」
 最後、柏木深々那がふと通りかかった人を指差していた。
 しかし、その人物を見た瞬間、元気組み2人の動きがぴたっと止まる。
 なにせ、その人が持っているトレーに乗っていたのはバーガーセットが多分3つにアップルパイ2つ。もしかして席で誰かが待っているのかもしれなと思うが、その人はキョロキョロと席を探しているようで、連れは見当たらない。いやいやいや。きっと待ち合わせでお友達が―――何て、思っていたが、やっぱり誰も現れない。
 小さな会議が始まった。
 勝手に矢面に立たせてしまったその人、柊・眠稀(ひいらぎ・みんき)は、開いている席を見つけ、1人で山盛りのバーガーを頬張り始める。そこで、やっと回りを見る余裕ができたのか、なにやら頭をつき合わせてひそひそとしている中学生がコチラを見ていることに、小首をかしげた。
「用事……?」
 眠稀はトレイを手に席を立ち、中学生ズが陣取っているスペースまで移動して問いかける。
「あ、え、用事って言うか、何て言うか……」
 やはりじろじろと見てしまっていたことは後ろめたいのか、伊吹が眼を泳がせる。
「僕たち……本を書いて、るんです……」
 秋杜はまっさらなノートを持ち上げて眠稀に見せる。
「へぇ…面白そう……」
 眠稀は近くのテーブルから椅子を引き、中学生ズに輪に加わる。
 その光景は、中学生(流石に4人は1年生のため同級生と言うのは厳しいが)のおしゃべり会。本当は高校生の眠稀だが、違和感は全くなかった。









【ベロペロネへようこそ】







 ベロペロネの街まではどれくらいあるのだろう。
 街道はどこまでも長く、ゴールは確実にあるのだが、街から街までの移動は実に辛い。
 何が一番辛いかといえば、その間に店も何もなく、ポツーンと1人だということ。
 ミンキは辺りを見回し、何か食べれるものはないかと探す。
 だが、視界に入るのは草や街道に沿うように植えられているように見える木のみ。
「いっそのこと……」
 草でも腹に入るなら良い――なんて、思いそうになってしまって、ミンキはぶんぶんと首を振る。
 それはグルメではなく明らかなる飢え。
 一般的に見たら飢えているわけではない。ただ食べ歩きが好きなだけだ。
 ミンキは鞄から読み込まれて少しボロボロになってしまっている本を取り出す。
 その本の題名は“世界満腹紀行”。いわゆるグルメ本。
 この街のここが美味しいだとか、珍味だとか、珍しいだとか、絶対食っとけだとか、☆幾つだとか云々。そういった情報が一気に書かれた旅人にはある意味必須のアイテム。
 ミンキもその例にもれず――どころか、この本を頼りに世界中を旅していると行っても言い。最終的にあわよくば自分のグルメ本が出せれば旅の記録としても残るし万々歳だが、そんなものは付属品であって、目的ではない。
 そして、ミンキは本をめくり、今向かっている街のページを開く。
 焼き物。煮物。焚き物。極めつけのスィーツ。
 説明文と写真を見るだけで涎が出そうだ。
 ミンキは余りにも長い街道でくじけそうになるたび、この本を開いては英気を復活さえ先に進む。
 目的地はもう直ぐ。目的地はもう直ぐ!!

―――ぐぅううう……

 ミンキはお腹を押さえる。
 ただ、その場所へ行こうという意欲が沸くのと一緒に、空腹感が競りあがってくるのだけは、何ともする事ができず、やっぱり肩も少し落とすことになった。
 特に内紛だとかそういったいざこざは起きていないのだし、街1つ無くなっているなんて有り得るとは思えない。
 ちょっと地図に書いてある目測というか、予定距離よりも実際の街が遠かっただけ。
 ミンキは実際になった腹の音を、別ごとを考えることで払拭してただ歩く。
 だって、歩いた先には美味しいものが待っている。歩くしかない。
 同じような浮き沈みを何度か繰り返しつつも、ミンキの眼に飛び込んできた、待ちに待った街門。
 満面の笑みではないが、自然と顔が緩くなっているのが分かる。
 無意識と言った感じで軽く駆け出しながら、ミンキは街門を潜り抜けた。
 美味しい匂い。活気ある町の人々。綺麗な町並み。
 期待ばかりがどんどん膨らんで―――
「え?」
 キラキラの瞳に入ってきた景色は、くたびれた様な風貌の人と、寂れた町並み。勿論美味しい匂いなんてするはずもない。
 ミンキは周りを見渡し、誰も彼も俯き話しかけられそうな雰囲気が無い中、それでも声をかけれそうな人を探す。
 どうしてこんな風になってしまっているのか。
 ミンキがこの街に来たのは確かに初めてだが、それでもこの寂れようはおかしすぎる。
 何より、自分が持っているグルメブックの発行年月日からまだ1ヶ月しか経っていない。その、たった1ヶ月で街が寂れるなんて聞いた事が無い。
 考えていても仕方がないため、ミンキは勇気を振り絞って近づくなオーラを出しまくっている町の人を捕まえて、どうしてこうなったのか聞く。
「どうもこうも…人に見捨てられた街は寂れる。それだけさ」
「忘れられた? でも、この本にはこの街の事が載っているよ」
 自分でも発行年月日を確かめ、町の人に差し出してみる。
「はは……懐かしいな……」
 乾いた笑いを浮かべ、その本をつき返した町の人は、これ以上何も話すことはないとばかりに、そそくさと立ち去ってしまう。しかし、そんな理由では到底納得できるはずも無い。
 ミンキは他の町の人や、街そのものを見るために歩を進める。
 そして、商店街のような大通りの中で、唯一開いている店を見つけ、その扉を開けた。
 汚らしくはないが、やっぱり寂れてしまっている店内。
 店主にも活気が無く、仕方ないから開けていますといった感がひしひしと伝わってくる。
「ご注文は?」
「この街名物のアップルパイで」
「すまないね。今リンゴは採れないんだ」
「……何が出せるのかな?」
「水と、水と……水だな」
「水ばっかじゃないか!!」
 がたっと突っ込みと言わんばかりに立ち上がって反論したミンキに、店主は長いため息。
「仕方ないじゃないか。リンゴが採れなくなってしまって、輸入が止まっちまったんだ」
 やれやれと多少肩を落としつつ、ミンキの前に水が入ったコップを置く店主。
「店主は、町の人とちょっと違うみたいだね。この1ヶ月で何があったのか教えて欲しい」
 店主が言うに、ミンキが持っている本が書かれたほぼ直後、街を二分するような事が起こり、リンゴ畑を持っている人たちは街を出てしまったのだという。その結果、リンゴの取引によって栄えていた街だったが、リンゴが無くなったことで輸出入が滞り、みるみるうちにこの有様。……それにしても、早急すぎると思うが。
「なら、そのリンゴ畑を持った人たちが作った町なり村なりに行けば、アップルパイにありつけるわけだね」
「単純に言えばそうだな」
 ちょっと含んだような店主の言い方に眉根を寄せつつ、ミンキは正義の味方でもなんでもないため、この街に対して多少不憫だと思いつつも、アップルパイが食べられればそれでいいと言うのが本音だった。
 とりあえず水だけしか出せなくても、収入が無くては困る店主に水の代金を払い、ミンキはリンゴ畑の町へ向かうことにする。
 株はできても、土地を移動させることなんてできるとは思えないので、そう遠くはないだろう。
 ミンキは街を一直線に通り抜ける。
 リンゴ畑を持っている人が街を離れたというのなら、今街に残っている人というのは、どういう人なのだろう。
 多少の引っかかりを感じて通り抜けた街を振り返る。
 すると、あったはずの街の輪郭が薄れ、暫くするとそこには何も無かったかのような広い草原―――いや、リンゴ畑が。
 ミンキは眼を瞬かせ、小首を傾げる。
 一体全体これはどういう事だ?
 暫く怪訝げな瞳でその光景を見つめるも答えは出ないので、ミンキは先へ進もうと踵を返す。
「!!?」
 そこには、今抜けたはずの街が、活気を取り戻した姿があった。
 何が起こったのか分からず、キョロキョロと瞳を動かしながら街へと踏み入る。
 一歩、街に入った瞬間、歓迎ムード一色のノリノリな町の人に取り囲まれ、ミンキはその場で立ち尽くす。
「ようこそ! ようこそ! どうですか? 一度食べられいと言われると、尚更食べたくなりませんでしたか!?」
 その中で一際ノリに乗っている少女にそう聞かれ、うーんと首を傾げる。
 ミンキはにっと少しだけ悪戯っぽい笑顔を浮かべて少女を見返す。
 そして、
「引き返さなくて良かったね」
 と、ちょっとだけ勝ち誇ったような口調で言ってみる。
「はわ! お客様きっつーい!!」
 言葉は凹んでいるような感じだが、少女は明るい口調でミンキの背を押して、街一番のアップルパイのお店へと連れて行く。
 詳しく聞くと、どうやら食べたいという欲求をかきたて、アップルパイを楽しみにしてもらおうという(行列に並ぶとより料理が美味しく感じる法則)、街総出で計画したイベントだった。
「うん。美味しい…」
 そんな騒動(?)に巻き込まれてしまったが、口に入れたアップルパイのとろける様な美味しさの前では小さなこと。
 ミンキは薄っすらと笑顔を浮かべ、モグモグと口を動かし続けた。





終わり。(※この話はフィクションです)




























 物語が終わり、短い沈黙が一同を襲う。
 きょとんと言う表現が一番しっくりくるような表情で、眠稀は眼を瞬かせ、ポソリと零すように言葉を通した。
「凄いね……僕様、ビックリで感激だよ」
 その後、今まで眠そうな無表情に近かった眠稀の瞳が、キラキラと輝き、まるで(見た目の)年相応といった感動を顔全体が表現していた。
「気に入ってもらえて良かった」
 ほっとしたように深々那が微笑み、秋杜もそれに同意するように頷く。
「ところで、俺たちそんなに長く話し作ってたっけ?」
「何故?」
「いや……深い意味は無いんだけど」
 感動の腰を折るように疑問符を浮かべた伊吹に、高良が疑問で返す。
 それは、眠稀のトレイに山積みになっていたバーガーセットやアップルパイが、気が付けば全て無くなっていたから――…
 当の眠稀は、そんな視線や疑問が持たれていることなど気にもせず、気分が良くなったらお腹もまた空いてきたようで、追加でバーガーを頼もうかどうか考えていた。








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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【8445/柊・眠稀(ひいらぎ・みんき)/女性/15歳/高校生】


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■         ライター通信          ■
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 絵本倶楽部にご参加ありがとうございます。ライターの紺藤 碧です。
 大変お待たせいたしました。
 どうやら大食いに意識が行ってしまい、外見的な雰囲気はあまり出ないような物語となりました。
 それではまた、眠稀様に出会えることを祈って……