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<東京怪談ノベル(シングル)>


墓場の盆踊り

「何だ、ここは?」
 天波・慎霰(1928)は不機嫌そうに舌打ちした。
 時刻は草木も眠る丑三つ時。
 都内でも「怪奇スポット」として有名なとある廃寺――いま慎霰が立っているのはその門前である。
 20年ほど前に住職の跡継ぎがいないため廃寺となり、現在は寺も墓地も荒れ放題。
 故にオカルト系雑誌やその手のインターネットサイトには、この寺で「幽霊を見た!」「怪奇現象を体験した!」という噂が絶えないのだが……。
「霊気なんかこれっぽっちも感じねえ。ただの廃墟じゃねーか!」
 吐き捨てるようにつぶやくと、慎霰は早速携帯で「月刊アトラス」編集部へと電話した。

『どう、天波君? 何か面白そうなネタはあった?』
 先方の電話口に出たのは、同誌編集長の碇・麗華(NPCA005)。
 今回の廃寺取材を慎霰に依頼した相手である。
「どうもこうも。雰囲気だけはお化け屋敷みてーだけど、霊気も何もないただのボロ寺じゃん。雑誌やネットにあった体験談、ありゃ全部ガセネタだよ」
『それは困ったわねえ。来月の怪奇スポット特集の目玉に考えてたのに』
「用は済んだから俺はもう帰るぜ? いいだろ」
『お待ちなさい。あなた、それでも我が月刊アトラスの取材スタッフ?』
「はあ?」
『ネタがなければ、熱心に取材して見つけ出すのが腕の見せ所じゃない。何もありませんでした――で帰って来るなら子供の遣いと同じよ?』
(おいおい、無茶いうなよ……!)
 慎霰は呆れた。麗華の言葉は遠回しではあるが「でっち上げでも何でもいいから自分でネタを作れ」と命じているに等しい。
 まあこの業界では珍しいことではないが。
「聞こえなかったかよ? こんな寺、怪奇スポットでも何でも――」
『あ、私もいま忙しいから! じゃあ素敵なレポート期待してるわよ♪』
「ちょ……!」
 携帯の通話はそこで切られた。

「あんの年増ぁーっ!」
 理不尽な依頼主の態度に怒りがこみ上げるが、それ以上はどうしようもない。
 天狗の力を身につけた慎霰だが、あのアトラス編集長に関しては何故か気圧されてしまうというか、面と向かって反抗できない己にも腹が立つ。
「……ったく、気軽にいってくれるぜっ」
 ぼやきながらも寺の境内に踏み込み、持参のデジカメで寺の敷地内を撮影していると、墓場の方が何やら騒がしい。
 見れば、荒れ果てた墓地の中で、10人ほどの若い男女――年齢は二十歳前後というところか――が墓石に腰掛け、各々ビールを飲んだりタバコを吸いながら下品な笑い声を上げている。
 一応霊視してみたが、狐狸妖怪の類ではなく、全員ただの人間であった。
 男はパンクファッション、女は厚化粧のヤマンバギャル。
 その髪型といい服装といい態度といい、お世辞にも「真面目な学生」とは言い難い連中である。
(こいつらも心霊現象目当てか? しかし暇な連中だなぁ)
 内心呆れる慎霰だが、
(まあいいや。こいつらにインタビューでもして適当に済ませるか)
 そう思い直し、墓地に踏み込んだ。
「おーい、ちょっといいか?」
 ひと声かけると、若者グループは一斉にうろんそうな目で慎霰を見やった。
「何だ? このガキ」
「ボウヤ、夜遊びはママが心配するわよ〜ん♪ キャハハハ!」
 慎霰はムッとした。
 確かにまだ高校生の彼は、大学生と思しき若者たちから見れば「子供」に見られても仕方がない。
 だが、慎霰自身は年上の、特に野郎から甘く見られるのが大嫌いなのだ。
「……いま雑誌の取材で来てるんだけどさ。この寺にまつわる怪奇現象とか、そーゆーのあったら話聞かせてもらえねーかな?」
 怒りを抑えつつも交渉を試みる慎霰の周りを、グループの男たちが取り囲んだ。
「取材だとぉ? ナマいってんじゃねーよ、ガキ」
「協力してやってもいいけどサ、先に取材料くんない? いまおサイフが寂しいのよ、オレっち」
(フン、そういうことか……)
 連中の目的は心霊現象などではない。雑誌の記事につられ、肝試し気分で廃寺を訪れる学生やアベックに因縁をつけ、有り金を巻き上げるつもりで待ち伏せていたのだろう。
 巷でいう「怪奇スポット」で最も危険なのは、実は霊障などよりこういう手合いだったりする。
 慎霰は合点がいった。
 ――と同時に、頭の中で何かが「ブチッ」と切れた。
 ただでさえ麗華からの理不尽な依頼にムカついていたところである。
「分ったよ。なら、てめェらをそのまま取材してやる」
 そういいながら、両手で印を組む。
「ンだとぉ〜?」
 慎霰の胸ぐらを乱暴につかもうとした不良の1人が、突然悲鳴を上げて飛び退いた。
 いつの間にか、伸ばした彼の腕に1匹の大蛇が絡みついていたのだ。
「ひっ!? なな、何じゃこりゃ――っ!?」
 その瞬間から、墓地の様相は一変した。
 一陣の生臭い風が吹いたと見るや、どこから湧いたか火の玉が飛び交い、地面からは半ば腐りかけた死体がムクムクと這いだしてくる。
 実は全て慎霰が妖術で見せた幻覚だが、そんなことは露知らぬ不良グループはパニック状態に陥った。
「ひぇえええええ!?」
「きゃあぁ〜〜!!」
 泡を食って逃げだそうとした一行を、慎霰の妖術が金縛りにした。
「あ〜あ。墓石を粗末に扱うから、持ち主が怒っちゃったぜ」
 身動きできない不良たちの体に、幻覚のゾンビが群がってまとわりつく。
 幻覚とはいえ、慎霰の妖術が生み出したそれは、死体の腐敗臭からねっとりした冷たい触感まで忠実に再現された超リアルバージョンだ。
「男だったら容赦しねえってんだ! 出家して侘び入れな!」
 再び印を組むと、宙から出現した妖怪「髪切り」が、整髪料でパンク風に逆立てた男たちの髪をジョキジョキ切ってたちまちスキンヘッドに。
「くっそ、女だからって調子に乗りやがって!」
 先程慎霰をボウヤ呼ばわりしたヤマンバ女たちは、ゾンビと組ませて強制的にチークダンスを踊らせる。
「おう、おめェら全員の面、雑誌で全国デビューさせてやっから感謝しやがれ!」
 慎霰が再び印を組むと、新たな妖怪たち――ぬらりひょん、一つ目小僧、油すましetc.がわらわらと出現。
 仕上げとばかり、半ば失神状態となった不良グループを念力で操りゾンビや妖怪の群れと合流させる。
 つるべ火や提灯お化けの照明が煌々と照らす下、巨大な化け狸が腹鼓で音頭を取り、深夜の墓場で盛大な盆踊り大会が始まった。


「いやー、さすがオカルト名所の廃寺! 凄ェ怪奇現象だったぜ!」
 翌日、慎霰が得意げに提出したデジカメの画像を確認し、麗華は呆れ返った。
 彼の妖術で作り出した幻覚の妖怪がリアルすぎて、心霊写真というよりまるでホラー映画の1シーンだったからだ。

 廃寺における死霊の盆踊り写真は、翌月のアトラス誌面を飾った。
 ただし「怪奇スポット特集」ではなく「心霊お笑いコーナー」のグラビアとして。

<了>

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

1928/天波・慎霰/男性/15歳/天狗・高校生
NPCA005/碇・麗華(仕事)/女性/28/白王社・月刊アトラス編集部編集長

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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今回のご発注ありがとうございました。
天狗の力を持つ強大な霊能者なのになぜか人間の麗華に頭が上がらない(?)PC様のキャラが面白く、楽しみながら書かせて頂きました。
ノベルの方も楽しんで頂ければ幸いです。