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■ みどりの黒髪 ■
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まだまだ冷たい空気、息を吐けば口元が白く煙った。
厚い黒のコートを羽織っても、まだ寒さは沁みて来る様で聡呼は何度か腕を擦って人通りの多い賑やかな町並みを眺めている。少し空を見上げればまだそら高い位置に太陽があって眩しそうに目を細めていた所、
「聡呼！すまない、待たせた？」
人波をかき分け、洋服の多い中で上品な着物を来た青年、刀夜が駆け足で走りよって来る姿があった。聡呼は小さく首を横に振って笑いかける。
「さっき着いたばかりです」
第一、まだ待ち合わせした時間より１０分も前ですよ。
と、付け加えた。刀夜は困った風に笑いながら、少し首を傾いで聡呼へ腕を差し出し
「それより早いのはどうして？」
「…道に迷ったら行けないと思ったからですよ！」
怒った様に勢い付けて言葉を刀夜へと放ったが、嬉しそうに差し出された腕にぎゅっとしがみつく様にして腕を絡ませる。聡呼の態度も大分くだけて来たのを刀夜は笑って迎えた。人混みのスピードに合わせて、２人は歩みを進めていくが聡呼の方はどこへ行くのか分かっていないのか、きょろきょろと辺りを見回している。
「そう言えば、聡呼、その眼鏡の調子はどう」
「眼鏡に調子とかあるんですか？全然いつも通りで見やすいですけど」
唐突で不思議な質問に聡呼はおかしそうに笑って、ミントグリーンのアルミフレームを持つ眼鏡を片手でくいと持ち上げた。
「仕事の時とか寝るとき以外はお世話になってます」
それは２人ともが世間に表立って言えるものではない仕事をしていた。水商売などとは段違いに世間離れした仕事をしている為だ。妖怪退治を生業にしているなどと、大声では言えない。
「たまには眼鏡を外してみたら」
「え！」
「だって、疲れない？目」
更にいきなりの刀夜の言葉に聡呼は慌てた様な声を一言発し、続く刀夜の言葉にううーんと悩む様に首を捻った。手は相変わらずフレームに触れている。眼鏡のツル部分をさすさすと小さく聡呼の指が行き来した。
「確かに最近は会社の方の仕事で、パソコンと睨み合いが続いているので」
疲れているかも
刀夜に言われるとそんな気がしてくるのか、やはり悩みながら小さく言葉を紡いだ。聡呼は妖怪退治の他に表立った職業としては会社に勤めるOLとなっている。疲れている、と曖昧だが認めたもののまだ何か言いたげにフレームを擦っている聡呼に刀夜は笑った。
「じゃあ、今日はコンタクトにしないか」
それはそれで疲れないのだろうか…と、聡呼は思ったが、何だか刀夜が楽しげに笑っているのを見ているとはいと頷く他、聡呼に選択肢は残されていない。
「視力は左右共に０．３ですね、で、コンタクトレンズの方は−−−」
白衣を着た検査員に内容を告げられながらコンタクトレンズの説明を真剣に聞いている聡呼の後ろで刀夜はその様子を面白げに見ていた。
場所は眼鏡屋に併設された視力検査室だ、背後には既に眼鏡を几帳面に並べたガラスケースが所狭しと並んでいる。その一角に、様々なメーカー、パッケージのコンタクトレンズがぎっしりと棚に並べられていた。
「えーっと、使い捨てで良いですかね」
今日だけだしと、青く長細い箱を手に持ってレジカウンターへと向かおうとする聡呼の後ろから手が伸びそれを奪い取る。勿論その手は刀夜で、代わりに緑色の箱を聡呼へと手渡した。
「こっち、ね」
「…そふとれんず？いや、使い捨てで良いです、高いですし！」
コンタクトをした事がないのか、ゆっくりと箱に描かれてある文字を読み上げてから、ぶんぶんと眼鏡が外れそうなぐらい頭を振るう。そんな聡呼にくすくすと刀夜は笑ってわたした緑の箱をまた手に持った。
「これは俺の我がままだから、聡呼に払わせるわけにはいかないだろ」
レジの前に着いても、それなら尚の事高いのは〜と、未だに審議を要求してくる聡呼に首を傾いで
「コンタクトにしたくないならやめるよ」
と言ったら何やら小難しい顔をして黙ったので、刀夜はそのまま会計へとコンタクトレンズを渡した。
花粉が着かない！
目の前が曇らない！
目の端まではっきり見える！
いざ着けてみると、本当に便利なようでずっとキョロキョロとしては感動に浸っている。浮き足立っている様子の聡呼を笑いながら刀夜は呼び寄せた。
「じゃ、次は服を観に行こう」
「？私は特にこれで構いませんけど」
「まあそう言わず」
相変わらずな刀夜とのやり取りになれているのか聡呼は仕方無さそうに笑いながら、刀夜の手を取り少し見上げて
「また見立ててくれるんですか？」
「折角眼鏡を外したんだから、その記念と言う事にしようじゃないか」
何件か服屋を梯子し、黒のコートはファーの付いた白のコートになり、黒いシフォンのワンピース、靴は金の金具が付いた赤いエナメルのヒールに変わって行った。
いつも着慣れていない服を着たせいか、コンタクトの効果なのか聡呼は更にふわふわしている様にも見える。
「毎度の事なんですけど、有り難う御座います…」
「どういたしまして。聡呼は背が高いから、何でも似合うな」
褒め言葉も毎度の事だが見つめられて言われると、更に効果が増したのかまた俯いてモゴモゴと小さく有り難う御座いますと返答した。
「今日はいつにもまして照れてる気がする」
「このコンタクトレンズが、よく見えるせいです」
真っ赤な顔で答える彼女を見て刀夜は思わず吹き出し、口元を押さえて肩を揺らしている。
「ど、どうして笑うんですかっ」
「いや、そんな、有り難う」
たまに素直に可愛いことを言うので、どうにも笑ってしまったと刀夜は聡呼に習って素直に告げた。
月も高くへと昇り街頭に人が増した。皆、帰っていく人なのだろう、続々と駅へと吸い込まれる様に人並みが流れていく。２人は街路樹の方へと寄って、別れ際の会話をしていた。
「じゃあ、また今度」
「ああ。…そうだ、聡呼はやっぱり眼鏡をかけている方が良いよ」
その言葉に聡呼はえっ！と思わず声を上げて、残念そうに眉を下げた。
「やっぱり、似合いませんか？」
買ってもらったワンピースの裾を心配そうに撫でながら、刀夜の目は見れないのか少し視線をずらしながら聡呼は小さく呟いたが、刀夜は少し笑って聡呼の黒髪をそっと撫で
「かけてない聡呼だとライバルが沢山増えそうだ」
さらりと普通に言われた言葉だったが、一拍おいてすぐに聡呼の心拍数が上がったのが分かった。また耳まで赤くなっている。
「そ、そんな事を、さらっと言わないで下さい！」
「はは、それだけ威勢良ければ安心だけど」
真っ赤な顔で反論ともつかない言葉を投げかけてくる聡呼に笑いながら、刀夜の手はまだ聡呼の髪を撫でている。
「眼鏡を外すのは俺の前だけが良いな」
そう言って髪から手を離し、刀夜は笑った。
「……言われなくても、そんな事」
わかっています、と聡呼は唇だけ動かした。最後の台詞も聞こえたのか、刀夜の方も言われなくても分かっていたのか、満足そうに目を細める。
「じゃあ、また今度」
「っま、真似しないで下さい！…また」
また、と言う言葉は名残惜しそうに、聡呼は小さく呟いた。軽く手を振る刀夜に聡呼は礼儀正しくお辞儀をして、一度駅の方へと前を向いたがまた振り返った。遠くでもよく目立つ、和服姿の刀夜は聡呼が易者へ入る所まで見守るつもりかまだ街路樹にたっている。その姿を見て、聡呼は小さく白い息を吐き出した。
「…コンタクトだと刀夜さんの顔、まともに見れなさそう」
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■ 登場人物（この物語に登場した人物の一覧） ■
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【6465 ／ 静修院・刀夜 ／ 男性 ／ 25歳 ／ 元退魔師。現在何でも屋】
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■ ライター通信 ■
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■静修院・刀夜 様
お久しぶりです、発注有難う御座います！ライターのひだりのです。
相変わらずの良い男っぷりの刀夜さんを上手く表現出来ていますでしょうか。
どんどん近づく２人の距離に書き手としても嬉しい限りです。
此れからもまだまだ精進して行きますので
是非、また機会がありましたら何卒宜しくお願いいたします！
ひだりの
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