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<東京怪談・PCゲームノベル>


LOST・EDEN それは、カンタービレのように



 ナタリー・パトリエールの期末テストが終わったお祝いということで、三人で外で食事……まではいい。
 ナタリーは、居心地の悪さを感じる。
 自分の姉であるシャルロット・パトリエール、そしてその付き人であるメイドのマリア・ローゼンベルクの格好は傍から見ればとんでもないもので、目立つことこの上ないのだ。
 嬉しいけれど、目立つのが恥ずかしい。複雑な心境だ。しかも、この二人に挟まれるような状況で歩くなら尚更だ。
 一番目立つのは常にメイド服のマリアだが、さすがにナタリーがちょっと小声で進言した。
「……もっと目立たない服装にできない……かしら?」
「なんと言われようと、このスタイルは変えられません」
 そう応えるのを聞いた途端、ナタリーはしょぼんと肩を落とした。ナタリーの心情が理解できないマリアはといえば、一ヶ月に一度会えるあの少女――扇都古のことを考えていた。
 シャルロットに命じられ仕事はまだ続けているが、有益な情報はない。そもそも、マリアは都古が好きになれない。
(できれば……あの扇都古様から、情報を引き出せれば……)
 そんな時だ。
 男女の口論を見えた。
「あんな往来で……恥ずかしいですね」
「マリア……」
 呆れるナタリーとシャルロットの溜息の後、すぐに別の声が割り込んだ。
「聞きたいことあるんだけど、このへんでウツミってやつ見かけなかった?」
 大胆にも、口論して……しかも涙ぐんでいる女性に尋ねているツワモノがいるではないか!
 セミロングの髪に、まるで尻尾のように結ばれたその一部分。ぼろぼろのジーンズに、薄手のシャツを一枚。
「す、すごい変な人がいる……」
 ナタリーが呆然と呟く。すると、横からいきなりシャルロットが走り出した。マリアもだ。
「ええっ!?」
 なにごと!?



「都古!」
 声をかけると、少女が振り向く。
 シャルロットは彼女のあまりの変わりのなさに安堵しつつ、状況を見た。
「あ」
 と、都古は声をあげると、泣いていた女性を引っ張って立たせ、絶句して突っ立っていた男の横っ面をぱんっ、と張り飛ばした。
「で、これで気が済んだ?」
「え?」
 女性のほうは困っているが、衝撃でよろけて転んでしまった男を見て何かすっきりしたらしい。「はい!」と頷いてそそくさと言ってしまった。
 残された男は何か言おうと立ち上がるが、目の前に都古が佇み、両手を腰に当てて見下ろした。
「歯が折れるのと、このまま黙って引き下がるのどっちがいい?」
 拳を軽くあげる都古の笑顔に、男が青ざめた。
「ああそうだ。さっきのお姉さんになにかしたら、ぜったいにいいことないから。これ忠告ね」
「ひえ……っ」
 慌てて男は駆け去っていく。
 ぱんぱん、と手を払って、都古はあっさりとその場から立ち去ろうとした。
「待って都古!」
「んお?」
 そういえば、というように振り向く都古は、取り巻いている人垣を眺めて顔を歪めた。苦笑して、「すいません、騒がしくしちゃって」とぺこぺこと謝り、さっさと逃げ出したのだ。
 それをまたシャルロットが追いかけた。続いてマリアものだ。成り行きでナタリーも追いかけることになる。
 ひと気のない路地裏まで来ると、都古が呆れたような目をしてきた。
「こんなところまで追いかけてこなくても……何か言いたいことでも?」
「ごめんなさい。あなたの都合も考えずに、こちらの都合を押し付けてしまったこと」
 いきなりシャルロットが頭をさげるが、都古はぽかんとしている。
「マリアも悪気があってしたわけじゃないの。もちろん、悪気がなければいいってことでもないけど」
「申し訳ありませんでした」
 マリアも頭をさげる。
「貴女が私を嫌っても仕方がありません。ですが、シャルロット様が貴女の力になりたいと思っていることだけは事実なのです。
 それだけはわかって欲しいのです」
「…………」
 都古は二人を見て、眉間に皺を寄せた。
「いや、ちょ、待って待って。べつに怒ってないし」
 ちょいちょいと手を振って、彼女は腰に片手を当てる。
「わかってくれたならそれでいいんだよ。べつにそこまでしなくてもいいってば」
 困ったなあと都古が渋い表情をしてみせる。
 シャルロットは缶コーヒーを取り出す。都古が微かに眉をひそめたのをナタリーは見逃さない。嫌な予感がした。
「せめてこれくらい飲みながら、話を少しさせてくれない?」
 シャルロットが渡そうとした缶コーヒーを「いらない」と都古は言って断った。
「ウツミは人間なのか? どうしてその人を探しているのか? 見つかったらどうするのか? それが知りたいの」
「…………それ、探すのに必要な理由なの?」
 きょとんとして都古がぽつんと言う。
「ねえ、それって必要なことなの?」
「ええ、あなたのことをもっと知って、ウツミを探すにはね」
「あはは」
 都古が笑い声をあげた。
「いらないよぉ。いらないいらない。そんなのいらないでしょ」
 手をひらひらと振りながら都古は言う。
「最初の質問はアリかもだけど、後半二つはシャルロットさんたちの好奇心から出たもんでしょ」
 悪いけど。
「強い干渉はやめて欲しいんだよね、本気で。
 ウツミがみつからないならそれでいいんだよ」
「でも都古」
「しつこいな」
 都古は断ち切るような声音だ。
「飼っている猫が逃げました。茶のブチです。いなくなったらから探しています。見つかったら元の通りです」
 茶化すように猫を例に挙げる都古が肩をすくめた。
「猫探しとかで、後半二つは余計だろ」
 初めて対峙したナタリーでさえハラハラとゆくえを見守っている。
(初めて会ったけど、やっぱり怖い人みたい。でも正論だわ。姉様は、余計に干渉しようとして、逆に扇さんの反感を買ってる)
 不必要な情報を得ようとすることは干渉する、ということだ。
 都古は干渉するなと言っているのに。
(も、もしかして……前もこんな感じだったの?)
 ナタリーが青ざめる。
 マリアでさえどうするか考えあぐねている。シャルロットの味方をしたいのだろうが、自分が表に出ても都古が余計に頑なになるのがわかったのだろう。
(そうそう。マリアさんが前に出ると話がこじれるから)
「あの、情報の擦り合わせでもしたいのですが」
「いらないって言ってる」
 まるで日本刀のような切れ味の言葉だ。
「私はシャルロットさんに協力してくれなんて一言も言ってないよ」
 都古は目を細めた。
「余計なお世話だね」
(うわっ、辛らつ)
 ナタリーは見ていられなくなって目を逸らした。
(都古さんは『知らないならそれでいいい』って方針の人なんだ。協力してくれなんて言ってないのね?)
 それなのに、お節介な自分の姉は使命感のようなものと、都古を気にいって協力しようとしている。
 これでは二人の意見が食い違うのも当然だ。
 ナタリーからすれば、都古は人を探しているが、困っているようには「見えない」のだ。
(姉様が勘違いするはずがないし、都古さんは絶対に人を探さなきゃならない。でも食い違う)
 これは前回のことがかなり尾を引いていることも要因の一つのようだ。
(謝れば済む話じゃなかったんだわ!)
 謝るどころか、都古は怒ってさえいなかった。ただ、前回の教訓を姉たちはまったく活かしていない!
 都古に集めた情報を伝えるだけなら彼女を怒らせはしないだろう。一緒に、そう「一緒に」探そうとするからいけないのだ!
 腕組みした都古は目を細めた。
「ウツミの外見なんて、憶えちゃいないし、わからない。とにかく探すしかない」
 なのに。
「情報の擦り合わせ? なにか有益な情報があるとみていいわけ?」
 都古がかなり怒っているのは、その早い口調からもわかる。
 都古の言葉に誰も反応できない。情報が少なすぎて、都古の求めるものが、こちらには何一つないのだ。
 だからこそ、都古の協力が欲しい。だが都古は協力は欲しくない。
 相容れない内容だと都古はあっさり判断し、その場で跳躍して颯爽と立ち去ってしまった。
 現れ方も異常であったが、去り方も異常だとナタリーは思う。
 残された姉のほうを見遣った。消沈しているのは目に見えて明らかで、どう慰めていいのかわからない。
(……手伝ってあげたいって気持ちは、都古さんには伝わってるわよ姉様)
 だけど、言い方や、やり方がまずかったのだ。
 都古はさばけた雰囲気を持っていたし、あっさりと「協力する」と言えば済んだ話なのだ。……たぶん、断られていただろうが。
 彼女はある一定の距離を保っている。そうは見えなくても。だがシャルロットはそれを無理やり踏み越えようとしているのだ、無自覚に。
「ないんだったら、悪いけど急いでるから。じゃあね」
 都古はそういうなり、軽く屈んでひょいと跳躍をして、建物の壁を蹴ってあっという間に屋上まで行ってしまった。



 建物の上を跳躍しながらも、彼女は小さく舌打ちする。
【さっきのあいつら、おまえのことわかってねぇな。仕方ねぇ。なにせまだ3ヶ月だ】
「べつに怒ってないよ」
 都古はジャンプしながらも、そう応える。心の中の声に。
【怒ってるだろうがよ。おまえは対等に扱われないと激怒しちまうところがあるからな】
「ちがうよ」
【上から、協力してやる、みたいな態度が大嫌いだもんなぁ】
「……そういうつもりじゃないよ、あのひとたちは」
【そうは思ってなくても、態度に出てたからおまえは怒ったんだろうがよぉ】
「踏み込んで欲しくないだけだよ」
【そうだろうなぁ……。ははははは】
「なんで笑うの」
 さすがに都古がムッとした。
【確かにあの姉ちゃんたちの態度はひでぇもんだったなぁ。一生懸命はわかっていても、空回り全開だったからな】
「…………いい人たちだけどね」
【いい人というよりは、お節介の度が過ぎた感じだったけどな】
「………………」
 薄い笑みを浮かべる都古は「まぁ」と小さく呟く。
「また会えても、態度は変わらないかな」
【そこがおまえのいいところだな】
 都古の小さな笑い声が反響した。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC
【7947/シャルロット・パトリエール(しゃるろっと・ぱとりえーる)/女/23/魔術師・グラビアモデル】
【7977/マリア・ローゼンベルク(まりあ・ろーぜんべるく)/女/20/メイド】
【7950/ナタリー・パトリエール(なたりー・ぱとりえーる)/女/17/留学生】

NPC
【扇・都古(おうぎ・みやこ)/女/17/退魔士】

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■         ライター通信          ■
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 ご参加ありがとうございます、シャルロット様。ライターのともやいずみです。
 今回も少々都古から距離を開かれました。いかがでしたでしょうか?
 少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。